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黒血の大木  作者: 北畑 一矢
9/9

黒血の大木

これで終わりです。

「大丈夫か?」

「何ともありませんよ。……まあ、こちら側の不手際のようなものなんで……」

 何しろ、たかが自身よりも上の記録を出しただけで、恨まれるというのは何とも女々しいにも程がある。

 しかも、高い成績を維持してきただけに、呉宮はこれまで女子たちにチヤホヤされてきたにもかかわらず、その裏で美琴を敵視していた日見谷たちとも吊るみながら好き勝手してきたとあっては、もはや人としてどうなのかと、静哉は心の中で呆れていた。

「いや、〝犯人〟の確保に協力してくれたことには感謝したい。ありがとう」

「いいですよ……」

 確保を手助けした礼と言わんばかりに頭を下げる狩月に、静哉は大したことはないと首を振る。もっとも、静哉は呉宮をぶん殴りたかった願望があったことは心の中に留めていたため、強く否定はしなかった。

「そろそろ、学校に戻った方がいいのでは……?」

「そうですね……。まあ、学校中にこのような有り様を見せたようなものですし、自分はこれで戻ります」

 静哉が校舎へと顔を向けると、そこにはこの学校の生徒たちが呉宮を逮捕される瞬間を目撃したためにそれぞれ顔を見合わせていた。さらにはその呉宮を黙らせた静哉に恐れを抱いたのか、強張るような表情が所々に浮かぶ。

 呉宮を力ずくで黙らせたとなると、しばらくは自分に近づくのも避けることは違いなかった。もっとも、静哉にはどうでもいいことではあるのだが。

「ああ。キミも気を付けたまえ」

「ありがとうございました」

 狩月に挨拶をした静哉は、すぐに教室へと戻っていくのだった。



 天城たち三人に加え、その親たちと、交通事故を起こさせた呉宮が警察署に連行されてから一ヶ月。

 その間は瞬く間にこの地区を騒がす事件として拡散されていった。

 一部の生徒たちが起こした不祥事、学校側のいじめの隠蔽が次々と明るみとなり、一時は休校となった。その結果、その隠ぺいに動いていた教師たちは人としてあるまじき行為に加担したために、教師としての資格をはく奪、幸いにもそれに加担しなかった桐谷は引き続き、この学校の教師として残ることとなった。

 桐谷が残ることなったのは、警察が自分へ事情聴取に来るや、すぐにこの学校で行われていたことをすべて自白したことにより、その正義感が伝わったのだろう。静哉と同様、理不尽に抗う姿勢を持った人間が残っていたことに、警察はそれに感銘を受けた。

 そもそもの発端となったのが、交通事故で入院することとなった宿木静哉の存在である。

 警察が静哉に事故の状況を詳しく聞いたことにより、すぐに調査、交差点にあった監視カメラの存在から、事故を引き起こした元凶である呉宮や、共犯者として美琴に対するイジメを行っていた日見谷たち、そして天城たちの横暴を、一気に暴くことに繋がったのである。

 さらに、先んじてスマホに納めていた記録から、今まで行っていた万引きやイジメなどの数々の横暴を警察に提出したことにより、警察はあの三人の検挙に踏み切ったのだ。しかも教師たちの見て見ぬフリなどに繋がるものまで、記録していたこともあって、この学校の裏側に潜んでいた闇が一斉に引き摺り出される結果となった。

 まさに学校、いや社会としての闇と言ってもいい〝理不尽〟が表に出されることになったのだった。


 ちなみに、学校に通っていた生徒たちは、事件が明るみになって、数日もの休校を経て再び学校に通うようになってからは、心なしか明るい表情を出すことも多くなった。ただ、登校するたびに押し寄せるマスコミのせいで、違う意味で苦い表情を取ることもあり、精神的な疲労が重なるのは変わらなかった。

 また、この一件で騒動を知った家族が転校届を出し、この地区から去る者もいた。自分の子供がこんなにも苦しい出来事があったのだと知って、いてもいられずにはいられなかったようだ。そのため、クラスの三分の一が学校から去ることとなったのである。

 もちろん、静哉も同様であり、登校するたびにマスコミが来ることもあった。その時はあまり口を動かすこともなく、ただただ彼らを引き離さんと前に進むだけで精いっぱいだった。何せ、相手はテレビに関わる仕事に就いていることもあって、あまり関わりたくもなかったのだ。

 また、騒動が起きる以前から、彼自身が苦しむような出来事が立て続けに起きたために疲れたということも見受けられる。騒動を明るみにするまで〝犠牲〟となるものが大きかったせいで、あまり気が乗ることはなかった。

 そして、一ヶ月が過ぎるうちに、マスコミの姿はなくなっていた。



 正午を過ぎ、いつものごとく屋上にて昼寝をするようにその場で寝そべる静哉。

 その隣で座り込んでいた美琴は、この先を憂いてか、ため息をついていた。

「これからこの学校はどうなるんでしょうか……」

「ん?」

「隠ぺいに加担していた先生方が戻って、再び学校が再開できるようになったけど、クラスのほとんどが転校していったから、なんだかさみしい感じになって……」

「…………」

 美琴の言葉通り、騒動が退いてからはこの学校も本来あるべきものに変わるはずだったのだが、そんな簡単なものでもなく、ただこの学校を蝕んでいたバイ菌を取り除いただけであり、生徒や教師の激減など、肝心な所に関してはあまり変わっていなかった。

「別に細かいところは気にすんな。とりあえず、邪魔されることはなくなったと考えればいいじゃないか」

「そうだけど……」

「不自由がないことに噛み締めておけばいい。今こうしているだけでも、不幸じゃないんだからさ……」

「宿木君……」

 権力を傘にして、自由に遊び回っていた天城たちや、日見谷たちを利用して美琴を追い詰めた呉宮がいなくなったことで、クラスの皆も自由に話し合っている姿が多くなった。

 特に天城たちからいびられることもなくなり、彼らを庇っていた大人たちもいなくなったおかげで、彼らの将来への影響も少なくなっていった。もう何週間たてば、クラスも元通りになるだろう。静哉はそれを案じるように微笑んでいた。

「これで、真っ黒な大木が育つ・・・・・・・・・ことはないか……」

「? 何か言った?」

「別に何も……」

「いや、言ったでしょ! ちょっと、教えなさいよ」

「いやいやいや。それは、黙秘で頼むって――」

 寝そべる静哉に美琴が追い詰める。だが、二人の顔の距離が偶然にも縮まって、しばらくの後に二人の顔が紅潮した。

「「ッ――!」」

 すぐに背中を見せるように顔を背ける二人。

 しかし、この場には邪魔される者はいないため、少しずつ二人の顔が再び見合う形となった。

「ねえ。宿木君はこれからどうするの?」

「あー。バイトしてやりくりするしか……」

「そっか……。――だったら、一回ウチに来ない? 料理とか教えてあげるからさ」

「いいの? 勝手にお邪魔して……」

静哉・・君だったら、構わないし……」

 不意に美琴が名字ではなく、名前を呼ばれたことに静哉はピクッと反応する。

「今、名前……」

「……どうするの?」

「……美琴の言葉に甘えてもらうかな」

「ありがと……」

 静哉からの返事に、表情を赤くする美琴。

 その美琴の近くで起き上がった静哉は、さらに彼女の距離を詰めていく。

 そして、太陽を背にして長く広がっていた二人の影が重なった。




 静哉がついさっき口にしようとした、皮肉めいた言葉――「黒血の大木」。

 人を権力や暴力などで屈服させ、弱者から流れる血で育てていた大木は、黒く染まっており、まさに人間の中にある、真っ黒なものを知らしめていた。

 黒い大木などあまりにも非現実的な例えであるが、もし人間の血液で育ったのであれば、そうなってもおかしくないだろう。血を吸って、咲いた葉っぱも赤や黒に染まるはずだ。

 だが、もしこの学校にそんな大木があったとしたら、満開になっていたのかもしれない。天城たちをはじめ、大きな権力に身を溺れさせた者や自分より優れている者に嫉妬し、陥れようと策謀を重ねる者など、それらに渦巻いている欲望が弱者を血液として変え、大木を育たせる要因になるからだ。

 実際、欲望に圧し潰された弱者の数も知れない。また、それから流れる血の量も測ることもできないだろう。本当に血を流してたとしても、自分では見えない、心の傷から流れる血は相当なものだからだ。まさに生贄である。

 だが、その大木はもう育つことはないだろう。わざわざその血液を捧げる必要もなくなったからだ。


 これからは、しっかりと純粋な〝真心〟でできた、水と養分が綺麗な大木を育てるのだから――。


ぶっちゃけ、自分はこういうドラマ系は苦手であり、書いていくうちにだんだん意欲がなくなっていきました。

それでも、何とか書ききれたことに自分を褒めたいです。


いかにも現代でも起きそうな物語ですが、最後は憂鬱なものでなくて、良かったと思っています。

これらを扱った作品は、最後は不幸になる、と思われがちですので、主人公は最後は幸せになってほしいと思って、描きました。


ありがとうございました。


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