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黒血の大木  作者: 北畑 一矢
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狩月仁

 クラスメイトが教室にて静哉との再会に喜ぶ一方、学校の外からサイレンのような音が鳴り響く。

 その音を耳にした生徒や教員たちが窓から確認すると、そこに多数のパトカーが押し寄せるがごとく校内に侵入してきたことに驚き、茫然とする。

「何だ、何だ?」

「何があったのかな?」

 それぞれの生徒が驚きを見せる中、パトカーが学校の窓から駐車場や玄関までの空いている道に止まると、すぐさまドアが開き、そこから警官が出て来て、駆け足で学校に入り込んできた。そこに教員が立ち塞がる。

 すると、複数の警官の奥から、一人の青年と思しき刑事こと、狩月かつきじんが出てきて、教員の元に近づいた。

「一体何なんですか、あなた方は! 何の許可を得て――」

「この度に起きた交通事故の件、そして、今まであなた方が隠蔽し続けてきた生徒たちを取り押さえに来ました。あなた方が止めようとしても、勝手に進めますので。それと、あなた方の拘束も許可されています。後で、署に同行させてもらえませんか?」

「なっ、何を言って――」

「反論はなしでお願いします。これは決定事項です。行くぞ」

「ハッ!」

 狩月は教員の言葉を耳に貸さず、ただ冷徹に自分たちがやって来た目的を教員に伝えると、すぐさま警官と共に廊下を進んでいった。

 狩月を中心に警官たちが学校内を進んでいく姿を生徒たちが見守る一方、教員は力が抜けたのか膝を折り、放心状態のまま廊下の上に座り込んでしまった。ついに、生徒の悪行を隠蔽し続けてきた教員たちに鉄槌が下される瞬間だった。



 突然の静哉が放った言葉に、呉宮や遠くから見ていた天城たちだけでなく、この教室にいる誰もが凍り付いた。その静哉はというと、恐ろしい言葉を放ったにもかかわらず、満面の笑みを浮かべたままだった。

「な、何を言って……!?」

「そ、そうだよ、お前、何て恐ろしいことを……」

「恐ろしいも何も、事実だよ。外が騒いでいるのが・・・・・・・・・証拠なんだから・・・・・・・

「え……?」

 このクラスにいる女子の一人が静哉の言葉に戦慄しながらも反論しようとするが、その静哉が外に指を差しているのを見て、その外に繋がる窓へと見やる。

 さらに窓の近くにいた別のクラスメイトである男子が外を一望すると、校内にパトカーが集結しているのを目撃した。

「! どうなってんだよ! 何で警察が!?」

「え!? ウソッ! ホントに!?」

 クラスメイトの叫びに、他のクラスメイトも慌てて窓際に駆け寄り、下に目を移すとその前で起きている光景に口が塞がらなかった。そのクラスメイトが叫んでいるのをよそに、静哉は「クククッ……」と苦笑いしていた。

「何がおかしい!?」

「何で警察が来たかわかるか?」

「えっ……?」

「そりゃあ、迎えに来たに決まってんじゃん。そう、殺人を犯しかけた・・・・・・・・お前を捕まえにな……」

「…………!」

 静哉が次々と並べるその言葉は、呉宮にとっては悪魔のささやきに聞こえた。いや、ささやきというよりまるで死への宣告である。その言葉に戦慄したのか、なぜか冷や汗をかき始めた。

「冗談だろ? 僕が君を殺すなんてことは……」

「だろうな。最初はそう思ったんだろ? でも、あの時、俺が見たのは、ニヤけながら突き飛ばすお前だったはずだが?」

「ッ――!?」

「それに、警察が調べてくれたことだけど、事故が起きる直前、アンタがいたのを監視カメラが捉えてたんだぜ? 詳しくは判別できなかったが、アンタが事故現場から素早く離れていくのも録れてたぞ」

「!?」

 事故が起きた状況に、呉宮は内心焦りを見せる。まるで目撃していたかのような発言に、彼は次第に追い詰められていた。しかし、無実を証明するべくまた言葉を並べ始めた。

「ぐ、偶然じゃないのか? たまたまそこにいたってだけで……」

「でも、俺はちゃんとお前を見てたんだぞ? それが証拠だ」

「ハッ……。だからって、なぜ君を追い詰めなければならないんだ!? そもそも恨むようなことを君がしたのか? それに、何で君は、僕を否定し始めたんだ?」

「別に俺はお前を恨むようなことをしていないさ。ただ、これ・・を撮るまではな」

「?」

 呉宮の言葉通り、この頃、静哉が呉宮に距離を置き始めたことにクラスメイトたちは疑問に思っていた。その疑問を改めて抱えると、すぐに静哉に注目し始めた。

 それを察したのか、静哉は自身が着ている制服からスマホを取り出し、操作し始める。そして、ある画面をスマホの画面に表示させると、静哉はクラスメイトたちに見せた。

「「「「「「!?」」」」」」

 スマホの画面に表示されていたのは、呉宮と、日見谷や北澤、そして遠山の四人が仲良さそうに一緒に歩いていた光景である。彼と同じクラスにいる生徒たちから見れば、あり得ない組み合わせだ。それを見て、皆、茫然としていた。

「何で、それを……」

「ちょっと前に、アンタらがデートしていたのを見かけてな。意外だったので思わず撮っちまったのさ。ましてや、荒谷と仲良くしていたはずなのに、何でこういうことになってるのか、ってな……。それで事故があった後に、ある人に調べさせてみたら、四人とも小学生の時からの付き合いだったって経歴から出てきたんだよ」

 ちなみに、静哉が言っていた〝ある人〟こそ、彼の協力者となった桐島里奈である。その桐島が警察を通じて彼ら四人の素性を自分に持ってきたのだ。つまり、これまでの美琴に対する仕打ちも、四人による共謀であることも含めてだ。

「!……それって、まさか……」

「ああ。それに、少し気になったんで、お前に聞こうとしていたんだが、昼休みに学校でも一緒になっていたのを見てな……。その時、確かお前ら、とんでもないことを口にしていたんだよな」

 静哉は更なる証拠を呉宮に突き付ける。それは、平日のある日の長めの休憩時間にまで遡る。

 

 普段、誰も通ることのない屋上にて、集まっていた呉宮や日見谷たちは、昼食を口にしながら会話をしていた。だが、そこに静哉が近くにいたことは、誰も気づかなかった。

(何で呉宮がアイツらと……? いったいどういう関係なん――) 

「つーか、アイツら邪魔じゃない? アンタの上に立っているなんてさ……」

「確かに。そもそも、僕より勝るなど、あってはいけないことだ。よし! 荒谷はキミたちの好きにするといい」

「え!? いいの?」

「ああ。宿木の方は……いつも通り、天城たちにくれてやった方がいいや」

(!!)

 呉宮の口から恐ろしい言葉が出て、それを耳にした静哉は目を大きく開かせる。好青年ともてはやされる少年の薄汚い本性を知って、怒りを込み上げる。さらには思わず拳を握り締めていた。

「ホント、アンタは相変わらずあくどいね~。仲良かったんじゃないの?」

「ハッ、僕を邪魔するような者は学校から消えた方がマシさ。あの二人には、少し躾が必要だからね……。それに、天城たちは先生方も手が出せないって言うし……その方がいいじゃないか」

「ハハハッ、その通りだよね~。ハハハ」

「…………!」

 

「まったく騙されたよ。お前らが天城たちにも劣らない悪党だってな……!」

「…………!」 

 呉宮たちの本性を知ったことで、静哉は無意識に呉宮を避け始めたのである。これ以上踏み込めば、たちまち自分は陥れられるのではないかと思ったからだ。相手を信用させてから裏切る、何とも、質の悪いことだろう。

 静哉の口から語られた言葉はしっかりとクラスメイトたちに届くが、これまでの呉宮への対応に隠された真相に彼らは言葉が出なかった。未だに受け入れられないようだ。

「呉宮、もしかして、俺や荒谷が自分より優れていることに嫉妬して、その腹いせで天城や日見谷たちを利用・・したんじゃないだろうな?」

「…………!」

 クラスメイトが驚いていることをよそに、美琴が静哉の元に近寄る。

「彼から聞いた時は、驚きました。まさか、こんな人だったとは、ホントに裏切られましたよ……!」

「!」

「まさか、お前ら……」

「俺らが通じてたことも、知ってたくせに。どうせ、俺が荒谷を助け、日見谷を負かしたことが気に入らなかったんだろ?」

「…………!」

 またもクラスメイトたちが驚く。

 自分より上にいるという、しょうもないことで二人を傷付けていたことに、クラスメイトたちもさすがに呉宮たちに呆れ始める。同様の理由で、静哉をいたぶっていた天城たちも呉宮の行動に、笑うことができなかった。自分たちも同様のことをして、さらには呉宮も同類だったことに安心感はあっただろうが、下手すれば、自分たちより質が悪いのではないかと錯覚し始める。

(……メチャクチャやべえ奴じゃねえか! 道理で俺たちがビビったはずだぜ……!)

 今まで自分たちが呉宮に手が出さなかったのではなく、単純に手が出せなかったのだ。身体において優れている自分たちでも、さらに優れる呉宮に屈していたのは、自身の反応のおかげであった。あの時に手を下していれば、逆に返り討ちにあったのは間違いなかったのだ。

 自分のしてきたことを暴露され、思わず顔を下に向ける呉宮。

 またも・・・自分が下に見られる瞬間だった。


 狩月とは別の壮年の刑事、古宮こみや連太郎れんたろうを中心に、多数の警官を引き入れてこの学校の学園長がいる学園長室まで押し掛けてきたのである。

「そちらの生徒に御用がありますので、勝手に入らせてもらいました」

「御用とは、なんだね?」

「とぼけないでください。そちらの学生である、呉宮覚さん・・が宿木静哉君を交通事故に遭わせた件についてです」

「! そんなバカな……」

「もちろん、証拠は出揃っていますので……」

「!」

 刑事が一枚の写真を机の上に出す。それは、事故が起こる直前に写された監視カメラの映像である。その映像に、海老原が静哉を突き飛ばした様子がしっかりと映し出されていた。あの時、静哉を事故に遭わせたのは意外にも呉宮だったのだ。それを見て、理事長は愕然とする。

 さらに刑事は冷徹のままに理事長を追い詰めていく。彼の口から出たのは、海老原だけでなく彼と同様に悪事・・を働かせた者についてであった。

「さて、確か彼は市長の息子だったそうですが、これはさすがに庇いきれませんよね? 少し彼のご同行を勝手ながら実行させてもらいます」

「! 待て……」

「あ、そうそう……あなたのご子息にも、署にご同行させてもらいます。いろいろやらかしているようで、それも含めて庇ったあなた・・・にも、ですので……」

「ッ――!」

 冷静に事を進める刑事の追及に、すべてを悟った理事長は諦めるように頭を抱えると、複数の警官が取り押さえにかかる。これまで息子がしでかしたことに、呆れを通り越して失望したのである。その後は、警察に補導されるようについていった。

「次、呉宮覚の元に行くぞ!」

「ハイッ!」



「さて、もうじき警察が来る。アンタには少し大人しくしてもらおうか……」

 呉宮が静哉にケガを負わせた犯人であること、さらに日見谷と共謀し、荒谷を陥れようとしていたことを暴露され、クラスメイトも思わず彼らから離れていく。本性を暴かれたことで、今度は自分たちがクラスから孤立されていくことに日見谷たちは怯えていた。

「ちょっと待ってよ。ね? 今までのこと謝るからさ……。だから、見逃してくれない?」

「「…………」」

 その日見谷が静哉に駆け寄り、今までのことを水に流してほしいと懇願してくる。恐怖で手を震わせつつも合わせて、謝りに来ているが、静哉と美琴は無口のまま、日見谷を見つめていた。ただ、その視線は異常に冷たく、その視線に固定された日見谷をさらに震わせる。

「え……? 何? そのゴミを見るような目……。まさか、私のこと――なのかな?」

「…………当たり前だろ。ゴミがこんなに散らかってるんだから」

「なっ――!」

 自分たちをゴミと言い放つ静哉の言動に、日見谷は反論しようとするも、それより先に静哉の腕が彼女の頭を掴む。見事に目の横の位置にアイアンクローを決めており、日見谷が抵抗するように両手を差し押さえるが、静哉は決して放そうとせず、その頭をしっかりと掴まえる。

「は、放し――ガァアアアッ……!」

 何やら日見谷が喚きながらも両手で静哉の手を離そうと試みるが、その一方の静哉は、日見谷とは逆に手を握るように強めていき、彼女を黙らせる。

 その悲鳴にも聞こえる日見谷の喚き声に、クラスメイトは冷や汗を背中から垂らす。静哉の一方的とも言えるその〝制裁〟に、誰も声を上げなかった。

「ここぞという時に、命乞いとは、何とも無様としか言いようがないな。不利になったら、乗り換えようとするなんざ、ホントに風上にも置けねえよ!」

「グアァアア……!」

 静哉の手がさらに強くなり、親指と小指が彼女のこめかみにめり込んでいき、その痛みに日見谷は絶叫する。その絶叫を耳にして、不快に感じたからか静哉は投げ捨てるように手を日見谷から放した。

 膝をついて倒れ込んだ日見谷を一瞥する静哉は、今も日見谷に鋭い目つきで睨む一方で、その彼女はというと、束縛から逃れたにもかかわらず、頭を潰される幻想に思えるほどの恐怖に駆られたためか、息を荒げていた。その上、背中から流れる冷や汗も他のクラスメイトよりも尋常ではないほど、頭の上から流れていた。

「……そろそろか」

「?」

 静哉が時期を見計らったかのように言い放つと、|教室の横にある廊下から足音が近づき始める。

 段々と大きくなっていくその足音に、クラスメイトはその教室の隔てる一つのドアに目を向けると、刑事である狩月仁と多数の警官たちが一斉に、これまで問題が起きているこの教室に突入してきたのだった。


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