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孤得集 ――届かなかった人たち

故郷

作者: FU
掲載日:2026/05/10

列車が動き出してから、ふと思った。


私は故郷へ帰っているのだ。


その考えはあまりに大げさで、少し恥ずかしくなった。

離れてから、まだ四か月しか経っていない。四か月では、一つの場所が故郷になるには足りない。せいぜい、家に置いてきた歯ブラシが少し場違いに見えるくらいだ。


それでも、私はそう思った。


私は故郷へ帰っている。


まるで何年も離れていたかのように。

まるで車窓の外に大きな秋が広がっているかのように。

まるで中年になった後の黄昏に、埃にまみれて、歳月に古びた場所へ戻る人間であるかのように。


けれど窓ガラスに映る顔は若かった。

まだ少し学生らしさが残っていた。


それが気に入らなかった。


人は故郷を語るとき、たいてい少し優しくなる。煙、川、古い家、少年時代に歩いた道。「故郷」と言うだけで、都合の悪いものは自動的に後ろへ退き、懐かしんでもよい部分だけが残るみたいに。


けれど私が故郷と言うとき、思い出すのは優しさではない。


あそこは過去だった。

ここは現在だった。


私は恋しがっているのではない。

ただ、そこを故郷と呼ぶ必要があった。自分がそこを離れたことを証明するために。


それはずいぶんずるい言い方だと思う。

古い服をたたんで箱の底へしまい、自分に言い聞かせるみたいだ。


ほら、もうそれを着ていた人間ではない、と。


でも、箱はまだある。

服もまだある。


私はずっと、あそこから離れたかった。


そう言うと重すぎる。実際、子どもの頃からいつもそう思っていたわけではない。人は幼いとき、逃げる方向すら分からない。ただ、痛い場所から離れたいだけだ。


食べるためではなく、食べずに済むために食べる。

将来つらい仕事をしなくて済むように、前もってつらい勉強を受け入れる。

もう戻らなくて済むように、そこを出る。

離れることに本当に意味があったのだと証明するために、休みにまた列車に乗る。


人生はときどき、そういうふうにできている。

目的と行動が互いを裏切りながら、それでも味方であるふりをする。


大学の最初の学期が終わった。


すべては手順通りだった。


手順通りに入学し、手順通りに学生証を受け取り、手順通りに教室を探し、手順通りに新しい同級生と知り合った。学食で手順通りに「今度一緒に食べよう」と言い、手順通りに、その後一度も一緒に食べなかった。


新しい先生。

新しい授業。

新しい建物。

新しい人々。


迷うことさえ新しかった。


けれどしばらくすると、新しい生活は思っていたほど新しくないことに気づいた。


自己紹介。


名前、学部、趣味、出身地。


私は自己紹介が嫌いだ。


それは平等に見えて、実際にはとても軽い審判だった。人は一人ずつ立ち、三十秒で自分の来歴を差し出す。自然に話す人もいれば、きれいに話す人もいる。真っ白な名刺を差し出すように話す人もいる。


「出身は……」


この三文字のあとで、世界は層を分け始める。


大都市から来た人がいる。有名な高校から来た人がいる。名前を聞いただけで、大切に育てられたことが分かるような場所から来た人もいる。彼らが過去を語るとき、その口調はなめらかで、広い道を説明しているみたいだった。そこには部活があり、大会があり、旅行があった。


少し口数が少なくなり、来た場所をただの地名に圧縮する人もいる。


私はたぶん、その中間だった。


勝者ではない。

敗者でもない。


あるいは、あまりきれいではない勝者だった。


たしかに私は生き延びた。

あそこを出て、大学の教室に座り、過去を短く話すようになった。誰かに聞かれると笑って、「特に何もないところです」と言うようになった。


でも私は知っている。


特に何もないわけではない。


ただ、話せないだけだ。


過去の生活は戦争に似ていた。

旗や号令のある戦争ではない。毎日の食卓、教室、廊下、電話、沈黙の中で起きる戦争だった。


私はそこで多くのことを覚えた。


ドアを開ける前に、部屋の音を聞くこと。

誰かの顔色が変わる前に、先に目を伏せること。

傷ついた気持ちは早く片づけること。机を汚さないように。


そういう勝利は優雅ではない。


拍手も、花も、運命のように自然に降りてくる光もない。

泥の中から這い出て、服は破れ、指から血を流しながら、それでも新しい同級生の前ではこう言わなければならない。


「みなさん、こんにちは。性格はわりと穏やかなほうです」


みんな、美しい過去が好きだ。

順調で、温かく、明るく、支えられて育った人が好きだ。そういう人は、痛みにさえ構図がある。映画の雨の夜にともる灯りみたいに。


私の過去は野蛮すぎた。


共有に向かない。

好かれることにも向かない。


だから私は、故郷がもっと嫌いだった。


貧しいからではない。

醜いからでもない。


もしあんな過去がなければ、自分はもっと簡単に理解されただろうと、故郷が教えてくるからだ。


列車は進んだ。


車内は最初、とても静かだった。みんなイヤホンをし、スマホを見下ろし、話すときも声を落としていた。まるで誰にも故郷などないみたいに。


けれどいくつかの駅を過ぎると、音が少しずつ変わり始めた。


まず、男の人が電話をして、語尾に少し訛りが出た。次に、女の人が子どもをあやし、話す速度が速くなった。さらに後ろの席で、二人の老人が話し始めた。聞き慣れた抑揚が水のように広がってきた。


土地の言葉が濃くなっていった。


最初、少し苛立った。


その音は市場を思い出させた。夕方、階下で怒鳴り合う人たちを思い出させた。親戚の集まりで避けられない質問を思い出させた。自分の体から一生懸命洗い落とそうとしてきたものを、たくさん思い出させた。


でも聞いているうちに分かった。


隠していたのは、私だけではないのだ。


彼らもたぶん、隠してきた。


都市では語尾を抑え、会社では話す速度を落とし、知らない人の前では言葉を平らにする。そして列車が駅に近づくころ、やっと上着を脱ぐように、声を解き放つ。


みんな同じだった。


誰もが、どこかから来ている。

そして誰もが、来た場所が大きすぎることを少し恐れている。


古人は、異郷にあって一人異客となる、と言った。


私はあまり信じていない。


故郷にいたときも、自分はただ間借りしているように感じていた。

異郷にいても、だからといって自分がより客人らしくなるわけではなかった。


孤独はたぶん、場所の問題ではない。


ホームでも、都市でも、訛りでも、帰ることや離れることでもない。


孤独とは、心の中にある荒れ地だ。


それをどこへ持っていっても、そこには風が吹く。


大学の最初の学期、私はまじめに生活しようともした。


授業に出て、課題を出し、サークルの勧誘に行き、新しい友人と食事をし、寮で未来の話をした。


それでも、自分だけがいつも半拍遅れている気がした。


誰かが「地元の名物って何?」と聞いたとき、長いこと考えて、冬の夜の屋台を思い出した。電球が切れかけていて、麺のスープに薄い油が浮いていた。


あの麺は、別においしくなかった。


それなのに、突然食べたくなった。


それが悔しかった。


人はどうして、逃げ出したかったものを懐かしむのだろう。


車内の灯りが少し揺れた。


荷物をまとめる人が出始めた。ビニール袋の音、座席にぶつかるキャリーケースの車輪、通路で泣く子ども。女の人が電話の向こうに言った。


「もうすぐ着くよ」


その声には、土地の言葉が完全に戻っていた。扉がようやく開いたみたいだった。


もうすぐ着く。


その言葉で、胸の底が沈んだ。


窓の外を見た。


空はもう暗くなっていた。遠くの地平線は低く、田畑と家々が一枚につながって、何度も折られた紙のように見えた。近づけば近づくほど、景色は見慣れたものになり、同時に本物ではないようにも見えた。


私は突然気づいた。


故郷は、私に好かれる必要がない。


私に認められる必要さえない。


自己紹介のとき、それを軽く言うことはできる。

誰かに聞かれて「特に何も」と言うこともできる。


でも、故郷はそれで消えない。


ただ私の背後へ退くだけだ。


黙った証人のように。


列車が橋を渡った。


窓の外が、ふいに光った。


最初、花火だと思った。


光は遠い空の端から立ち上がった。色が不自然なほど鮮やかで、誰かが巨大な祭りを間違った場所で始めてしまったみたいだった。車内で人々が顔を上げた。イヤホンを外す人、窓に顔を近づける人がいた。


そのあと、音が届いた。


低く、重い音だった。地の底で誰かが扉を閉めたような音。


遠くの空が裂けた。


ミサイルと爆発。


車内が静まり返った。


土地の言葉が止まった。

ビニール袋の音が止まった。

子どもも泣きやんだ。


誰も何を言えばいいのか分からなかった。


列車はまだ前へ進んでいた。


たぶん列車は、目的地が変わってしまったことを知らない。

あるいは知っていても、止まることができない。


私はその光を見つめながら、ふと思った。


私は一生、あそこから離れたがっていた。


けれど、いつかあそこが先に私から離れていくなんて、考えたことがなかった。


その瞬間、故郷まであと二十三分だった。


けれど私はもう、二度と帰れなかった。


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