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閑話 惜しまれた聖騎士事件 ~犯人視点~

 おっす! 冒険者目指して田舎から出てきたはずが、落ちぶれに落ちぶれてならず者(・・・・)になっちまったおっさんことジェイド様だぜ!

 そんな俺様からの質問。


 目の前に行き倒れがいたらどうする?

 それも明らかに高価な全身甲冑を身につけていて。

 命の瀬戸際なのに言葉遣いが気品に溢れ。

 俺様のことを〝倒れているところを介護してくれた善意の一般人〟と誤解してる老人だ。


 ――カモだよな?


 当然このジェイド様は思ったね、身ぐるみを剥いでやろうと。

 ただ、命まで奪うと衛兵に目をつけられる。

 なんで物陰へと引きずり込んで、そこでいろいろやっちまおうとしたんだが……死んでた。

 爺さん、死んでた。


 え? これ、俺が殺したことになるの?

 これまで清く正しく……はないけれど、殺人だけはやってこなかったのに、罪に問われちゃうわけ?

 どう見ても身分が高い御仁だし、俺様の人生、致命傷だよな……?


 絶望しつつ遺体を見詰めていると、ふと思った。

 思いついちまったんだ。

 いや、思い出したっていうほうが正確か。


 ガキの頃、隣に住む幼馴染みに誓った将来騎士になるという夢。

 それがいま、手の届くところに来ているんじゃねぇかって。

 だって爺さんは、聖騎士だったんだからよ。


 ……やっちまうか!


 俺様は鎧を剥ぎ取った。

 誓ってもいいが、遺体は乱暴に扱わなかったぜ。

 終わったら鎧だって返すつもりだったしな。


 つまりこうだ、ジェイド様が聖騎士になる。


 この鎧さえ着ていりゃ、誰でもインスタントに聖騎士だ。

 近くにはダンジョンもある。

 そこへ潜って、素材やらなにやらを集められるだけ集めてくりゃあ、しばらくは遊んで暮らせる。

 故郷へ帰って幼馴染みと結婚してもいい。

 そういういい目を見せてもらう代わりに、爺さんは(とむら)う。


 てなわけで、レッツゴーダンジョン!

 俺様は意気揚々と迷宮へと向かい、順番待ちの列に並んだところで重要なことに気が付いた。

 許可証がない。

 俺様は冒険者じゃねぇし、聖騎士本人でもねぇ。

 だから、ダンジョンへ立ち入る許可証は持ってねぇし、仮に持っていたとしても確認されたらアウトだ。

 (まず)い、拙い、逃げなきゃ。

 そう思ったときには遅かった。


 もしかして聖騎士様では?

 なんて門兵に声をかけられたんだ。

 悲鳴を上げそうになったが、逆に恐くて声が出なかった。

 ええいままよと頷いてみせれば、やっぱりそうでしたか、さあどうぞと、俺様はダンジョンの中へ入れられた。


 なんで?

 後で知ったのだが、どうやら聖騎士は顔パスらしい。

 よし、こうなりゃ後は、素材をかき集められるだけ集めて、速攻脱出だ。


 俺様はずんずん迷宮を進む。

 それにしても重たい鎧だ。あの爺さん、よくこんなの着ていられたな。

 なんてことを考えながらしばらく行くと、悲鳴が聞こえてきた。

 目をこらすと、奥の方から走ってくる冒険者が。


 ちょうどいいや、脅かして金品でも巻き上げてやろう――と思ったのが運の尽き。

 なんとやつら、モンスターに追いかけられてやがった!

 悲鳴を噛み殺し、慌てて逃げだそうとするが、鎧が重すぎて言うことを聞かない。

 奴らは俺をさっさと追い抜き、代わりに目の前にはモンスターが。


 死ぬ。死ぬ。死ぬ!?

 嫌だー死にたくないー!!!!!

 …………。

 えっと……死にませんでしたー。


 俺様、鎧のおかげで一命を取り留めたのである。

 そして俺様が襲われている隙にモンスターを退治した冒険者のガキども。

 ガキどもは俺様に何かを言おうとしていたが、これ以上余計なことを押しつけられるのはごめんだ。

 さっさとその場から逃げる。


 ……あー、慰謝料とか言って素材ふんだくればよかったなぁ。

 と考えていると、今度は大揉めしているパーティーがいた。

 無視して横を素通りしようとしたら、大声で怒鳴られる。

 何だテメェとブチ切れて振り返ろうとしたら――ガチリ。


 何かの起動スイッチを踏んだらしく、俺様は大量の罠に襲われた。

 でも無事!

 この鎧凄いよ、さすが聖騎士の白銀甲冑!


 とまあ、そのあともいろいろな冒険者に会ったり隠れたりしながらダンジョンの空気を満喫してたわけだが、まったく稼ぎにはならなかったな。

 やっぱ重めぇのよ。

 どうしようもなく鎧が重くて、素材採取とか出来ないの。


 そろそろ帰るか……死にたくないし……爺さんの弔いもしなきゃいけないし……そう思っていたときだ。

 とんでもねぇ爆音が響き渡った。


 逃げてくる大量の冒険者。

 崩落をはじめる迷宮。

 俺様は走った。走ったが、ぜんぜん遅かった。目の前をずっと身軽な冒険者たちが駆けていて。

 転んだやつがいた。

 反射的に身体が動いていた。

 俺様はそいつを抱き起こして、押し出して。

 崩落に乗じて襲いかかってくるモンスターを、無我夢中でなぎ倒して。


 気が付いたら、迷宮の入り口付近に立っていた。

 他の冒険者達は傷だらけで、回復術士達が走り回ってる。

 そのうちの一人が俺様へと駆け寄ってき、いま治しますと来た。ふざけんじゃねぇと怒鳴りたかったが、首を振るだけにした。

 確かにこのジェイド様は頭から血だらけだったよ。でもそりゃあ、モンスターの血だ。

 無傷だったんだ、鎧のおかげで。


 俺様は、冒険者を甘く見てた。

 こいつらは、こんな危険と隣り合わせで生きてたんだ。

 無性に恥ずかしくなった、その日暮らしの自分が惨めだった。

 それを忘れたくて、とにかく目のつくやつから、治療を手伝ったよ。

 働いて、働いて、働いて。


 気が付いたら、ぶっ倒れてた。

 なんだか温かな光を感じて、しばらく眠って目を覚ました。どうやらそれが、回復術ってやつだったらしい。

 俺様は今度こそダンジョンから逃げた。


 なにも言わずに逃げた。

 そして爺さんの遺体を隠しているところまで戻って、謝った。

 泣きじゃくりながら謝って、ジェイド様には騎士なんて出来ねぇと言って、綺麗に拭いた鎧を返した。


 そうして今日、路上の隅で飲んだくれてたところを衛兵さん、あんたらに掴まっちまったわけだ。


 それで? このジェイド様はどんな処刑をされるんだ?

 おお、縛り首でも魔術の実験台でもなんでもこい。

 ただよぉ、ダンジョンに投げ込むのだけは勘弁してくれよな。迷宮なんてこりごりだからよ!

 ……え? 報奨金? 真面目に騎士を志すつもりはないか? とある貴人のお墨付き?

 …………。

 俺様は、夢でも見てるのか?

 いや……これは夢じゃねぇ。

 あの爺さんが、聖騎士様が、俺様に更生のチャンスをくれたんだ。


 やるぜ! どんな過酷な訓練でも受けて、そして今度こそ本物の騎士になってやる!

 そして爺さんに、ちゃんと祈りを捧げてやるのさ。


 ……ところで、このジェイド様を推薦してくれた貴人ってどなた?

 漆黒? 誰?

 まあ、いいか。


 謎なんて、解けなくても困らねぇからな!


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