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幸せのナカミは【番外編】

その日、ユースの苛立ちは頂点に達していた。


「まだか?!」

ユースが傍らに控える使用人に唸るように呼び掛ける。

使用人は首を振る。

「落ち着いてください。旦那様が慌てても、事が済むわけではありません」

ユースはイライラと落ち着かず、部屋の中を行ったり来たりしている。

ルイーシュと離れたのは明け方。

そこから知らせの無いまま、夕方になろうとしていた。

「ああ、私のルイーシュ。代われるものなら代わってあげたい。こんなに頑丈な男がいるのに、どうして華奢な女性の役割なのだ。神は無慈悲だ」

使用人はユースの独白を聞くと、首を振る。

「男性では耐えられないと聞きますよ。それ程の痛みだそうです」

「尚更私が適役ではないか!」

ユースは部屋に置かれたソファにどかりと座った。


ルイーシュとの結婚後の生活は大いに順調で、ユースは満足していた。

子を宿したとルイーシュから聞いた時には飛び上がるほど喜んだが、その後に出産に纏わるあれこれを学ぶ内に不安しか湧かなくなった。

もしもルイーシュに万が一のことがあれば、ユースはもう立つことも出来なくなってしまうだろうことが容易に想像出来たからだ。

二人の子を抱ければ確かに幸せだろう。

だがユースには、ルイーシュを失ってまでその幸せが必要だとは思えなかったのだ。

しかし、ユースはルイーシュに自身の考えを告げないまま、今日を迎えてしまった。

懸命に腹の中の子を育てているルイーシュには絶対に言ってはならないと思ったからだ。


「ああ、ルイーシュ。どうか、どうか無事でいてくれ」


果たして彼の願いが届いたのか、吉報はすぐにやってきた。


「旦那様!旦那様!!無事に産まれましたよ!」

ルイーシュの側仕えの中年に差し掛かるメイドが喜色満面にユースの待つ部屋に飛び込んで来た。

「ルイーシュは無事か?!」

ユースは飛ぶ様に立ち上がる。

「はい!大変お元気ですよ。三人も可愛い赤ちゃんをお産みになられたのに、産婆もたまげる程のお元気さです!流石奥様です」

ユースは絶句する。

「さ、三人?!間違いじゃないのか?!」

あんなに細いルイーシュが三つ子を産んだ?

ユースの驚きはもっともだった。

しかし、腹は妙に膨らんでいたのも事実だった。

「兎に角、ルイーシュにすぐ会えるのか?」

自我を取り戻したメイドに尋ねると、メイドは言う。

「お清めになられてからなら大丈夫ですよ」

ユースはメイドが言い終わるか否かのタイミングでルイーシュの居る部屋へと駆け出した。


カルデット家は大いに湧いた。

麗しい妻君が、玉の様に可愛らしい三つ子を産んだ。

産まれた順から、男児、女児、男児だった。

ユースとルイーシュに似た美しさは産まれて間もない赤子であろうともしっかりと受け継がれているのがありありと分かった。

ユースは子の名前を、長男を曽祖父からあやかりユーゴとし、次に産まれた長女にルイーシュの名からルールーと名付ける。最後に産まれた次男には、祖父からフィリップと付けた。

子が産まれた安堵と、ルイーシュの元気な姿にへたり込んでしまったユースにルイーシュは幾分か疲れてはいるが、誇らしげな母の顔で微笑んだ。


ユースはそれを見て、今まで見たルイーシュの表情の中で、一番に美しいと思った。


「ルイーシュ、ありがとう。本当に嬉しい。君が無事でいてくれる事が何よりも嬉しい。本当はずっと不安だった。君の方がずっと不安だっただろうに、弱音一つ吐かない君がずっと心配だった。今はゆっくり休んで欲しい」

ユースが初めて心の内をほんの少し吐露すると、ルイーシュは矢張り笑った。

「不安なんか無かったわ。貴方が居てくれるだけで総て上手く行くと思えたからよ」

ユースはルイーシュの細い指先を両手で握り、擦り合わせるように確かめた。


「ルイーシュ、私の幸せとは、総て君のナカにあるのだな」


ユースが染み染みと呟くとルイーシュは花の(かんばせ)を彷彿とされる麗しい笑みでかたる。


「まあ。ユース様、今頃気付いたのね。だって私のナカミはいつだって貴方で一杯なのだから。貴方の幸せが私のナカミだとしても不思議では無いのよ?」


弾ける笑顔にユースは少し、泣きたくなって笑った。











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