リハーサルコード A
全合奏のf。
続くカスタネット。
唐突に部屋に鳴り響いた音に目を醒ました。
いつの間に寝ていたんだろう。知らぬ間にベットの上に横たわっていた。
曲はまだ続いている。オーボエの不思議なソロが鳴り響いている。
発音体を探すと、ベットの右奥に僕に背を向けて椅子に座った少女と机の上に乗ったオーディオプレーヤーが。
少女は振り向くと、
「あ、起きた。大丈夫か?」
と僕の方を見て言った。
蒼い瞳、長い黒髪。可愛いと言うより、美しいと言う言葉の方が合うような少女だった。
「あ、えっと、とりあえず、息はしてます。」
「なら、大丈夫だな。」
少女は椅子から立ち、
「廊下をまっすぐ行ったところに大部屋があるの。ここのシャワー浴びてから、そこの服着て、大部屋に着てね。」
と言い、ドアから出て行った。
よく状況が理解出来なかったが、とりあえずシャワーを浴びて、すっきりしよう。汗と砂の汚れが酷い。
服を畳み、ドアの前に置いてからシャワールームに入り、鍵をかけた。
赤色のマークがついた蛇口を捻ると、シャワーから湯が出てきた。
始めのうちは冷たかったが、段々と暖かくなってきた。
なんだか、やっと行きている実感が戻ってきた。それと同時に空腹感も。
早くシャワーを済ませて、大部屋に行こう。もしかしたら、何か食品があるかもしれない。
髪と体を濯ぎ、湯を止め、タオルで体を拭いた。ふと、気になった事があった。
「さっき流してた曲ってなんの曲なんだろう。」
置いてあった新しい服を着て、ドアに手をかける。
ドアの手前、一段低くなったところに置かれた薄汚れたスニーカーを履き、ドアをぐっと開けた。
何となく、薄暗い廊下をイメージしていたが、割と明るかった。
もう、朝な様だ。 自分はどの位寝ていたのだろうか。自分でも解らない。
右手には良く日が射す窓。
「大部屋か…」
左奥に大きめの部屋が見える。
黒めのタイルが敷き詰められた床を進み、何故か掛けられている青い暖簾を潜ると、奥にある木目を活かした6人掛けテーブルと6脚の椅子が。
しかし、一脚にはもう人が座っていた。
さっきの少女だ。丁度、入口と向き合う位置に座っている。
白っぽい服に金色のネックレスを付けていた。
「あ、やっと来た。まぁ、座って。」
僕は、取り敢えず向かい側に座った。
「えっと、何から話せばいいかな…。自己紹介からでいいか?」
「あ、はい。」
「私は只見凛花。この『ブルーウンディーネ』の一応リーダー。よろしく。」
「ブルーウンディーネ」は、このグループ(異能力者の集まり)の名前なみたいだ。
「岸野蓮人です。」
只見凛花さん。ちゃんと覚えないとな。
「まず、あなたを拾った経緯、話しておくね。」
昨日、この「ブルーウンディーネ」のメンバーの2人が、少し遠出した帰りだったらしい。
「こっちの方が近い。」
と、昔住んでいた家が近かったメンバーの1人が言い、路地裏を歩いていた時だった。
道の端に小さなリュックを背負った少年が1人、倒れていたのだ。
それを担いで、戻って来た。
その後は取り敢えず、空き部屋に寝かせて置いた。
それが、彼女から聞いた話だ。
「なんか、すいません…。」
「いいのよ。それに、ここの人たちは皆、君みたいなのばっかだから。」
「え?」
「このご時世、道端で死にかけてるのなんてのは、異能力者くらいよ。君もそうじゃない?」
「そうです。」
普通だったら、道に倒れてる奴なんて拾わないだろう。
しかし、同じ様な思いをしたからこそ、拾ってしまったのかもしれない。
「ところで、お腹空いてないの?」
急に言われ、空腹が戻って来た。
ぐぅと腹が鳴った。
そんな僕を見て、彼女は笑っていた。
「食べなよ、美味しいよ。」
彼女はテーブルの真ん中に置いてあった皿を僕の方に押し近づけた。
皿の上には、沢山のマフィンが。
「いただきます。」
中の1つを取り、周りの紙を剥き、一口齧る。
「美味しい。」
出た言葉はそれだけだった。
「よかったわぁ、美味しい言うてもろうて。」
僕から見て左側にあった、隣接するキッチンから突然、人が出て来た。
少し身長は高めで、男性にしては長い銀髪。
多分、モテるんだろうな。
「自己紹介しとくで。神酒諒太。今は21歳。趣味は料理と裁縫や。どうぞよろしゅう。」
「岸野です。よろしくお願いします。」
ちょっと変わった人だ。21ってことは5歳上か。
「なぁ、凛。この子はうちに入るんか?」
「そう、それを聞こうと思ってたのをあんたが邪魔したのよ。」
「せやったんか。すまんな。」
只見さんが1つ、咳ばらいをしてから口を開いた。
「君にね、お願いがあるの。」
「なんですか?」
「このグループは今4人が在籍してるの。でも、前の戦闘の時に1人がかなり負傷しちゃってて.....」
「手が足りんちゅうことや。」
「そこで、君にこのグループに入って欲しいの。」
そういうことか。元々、死ぬかもしれなかったところを助けてもらった礼に入るという手も有るかもしれないが、あんまり自分の能力、使いたくないんだよなぁ。
「ところで、お2人も異能力者なんですよね?どんな能力なんですか?」
「そっか、知っといた方がいいよね。」
「せやな。じゃあ僕から。「シャンパン・ポルカ」ちゅう能力や。酒飲むと、ちょっと腕っぷしが強くなる。みたいなやつや。」
「相変わらず適当ね。私の能力は「水の戯れ」。まぁ簡単に言えば、水を操れるってだけの能力。」
自分の能力を説明する2人は少し、暗い顔をしていた。やはり、能力が原因で、居場所を失ったりしたのだろうか。
「ところで、岸野くんの能力はどないなやつなんや?」
「え?あ、能力ですか?「火祭りの踊り」ってやつです。火を操れる能力なんですけど、ちょっと暴走するときがあって.......」
いくら異能力者でも、家を追い出されるなんてことは少ない。
自発的に出て行った人が多くだろう。
しかし、僕は追い出された。
原因はこの能力。
ちょっとしたことで暴走して、取り返しのつかないことになるのだ。
父は僕の事を余りよく思ってなかった節があるから、丁度良かったのかもしれない。
「で、どう?入ってくれる?」
「えっ?あ、ちょっとまだ…」
神酒さんが只見さんに、「急かしすぎや」と一言。
「よう考えてからでええで。時間はたっぷりあるからな。」
と、神酒さんが言い、取り敢えずひと段落ついた。




