人類魔導管理統一機構 査問規程
人類魔導管理統一機構 査問規程
(王国歴1207年制定 王国歴1398年改定)
前文
崩滅は、魔導の乱れより来たれり。人の手に余る力を、再び野に放たざるため、王国歴1203年、諸国は機構にその管理を委ねたり。本規程は、異端を摘み、民を安んじ、世の秩序を保つための、査問の法なり。
第1章 総則
第1条(目的)
本規程は、魔導の異端を査問し、これを世より除くための手続きを定む。
第2条(定義)
本規程において、魔導とは、コルをもって世の理に働きかける術をいう。異端とは、機構の登録せざる術の行使、ならびに統一神書の教えに背く信仰をいう。三大禁忌とは、逝きたる者を呼び返す術、人の意を奪いて操る術、ならびに万夜の魔導をいう。
第3条(優越)
査問の法は、諸国の法に優越す。査問局の求めあるときは、諸国の官憲はこれを助くべし。
第4条(機関)
査問は、中央査問庁ならびに各地の監理局これを掌る。査問官は機構の任ずるところにより、密告の受理、査問、判決の上申を行う。
第2章 密告
第5条(受理)
何人も、異端の嫌疑を密告することを得。密告は記名によるべし。
第6条(秘匿)
密告人の氏名は、被疑者ならびにその縁者に対し、これを秘す。
第7条(報奨)
査問の成りたるときは、没収財産の十が一を、密告人に付与することを得。
第8条(虚偽の密告)
虚偽と知りて密告したる者は、罰す。ただし、信仰の熱心より出でたる誤りは、これを罰せず。
第3章 嫌疑
第9条(由来不明の力)
由来を明らかにし得ざる力を用いる者、または人の知り得ざる知を示す者は、その来歴の明らかとなるまで、三大禁忌が一「万夜の魔導」の嫌疑をもって査問すべし。
第10条(嫌疑の徴)
左の各号は、嫌疑の徴とす。
一、詠唱なくして術の験あること。
二、病者、死者の相の、常ならず安らかなること。
三、獣、幼童の、ことさらに懐くこと。
四、夜を恐れざること。ゆえなく夜に出歩くこと。
五、機構の認可なくして人を癒やすこと。
六、邪教の残滓ある地に、出自を有すること。
第11条(家系の調査)
被疑者の家系は、三代に遡りて調ぶべし。
第12条(同情の記録)
被疑者を庇い、またはその放免を求むる者は、氏名を記録すべし。
第4章 査問
第13条(引致)
嫌疑の徴ふたつ以上あるときは、被疑者を監理局に引致することを得。
第14条(形式)
査問は一問一答により、記録係これを録す。
第15条(弁人)
被疑者は、弁人を立つることを得ず。
第16条(沈黙)
問いに対する沈黙は、隠蔽の徴と認む。
第17条(平静)
査問に動ぜざる平静は、畏れの欠如の徴と認む。
第18条(獄)
被疑者は独房に置き、監房における言動は、獄卒これを査問官に報ずべし。
第19条(幼老病者)
年齢もしくは病により査問に堪えざる恐れある者には、手段の等級を減じて行う。
第20条(期限)
査問は、受理より40日のうちに結審すべし。
第5章 証拠
第21条(宣誓なき文書)
宣誓を経ざる文書は、証拠の能力を有せず。
第22条(自白)
自白は、諸証の首なり。自白なくして結審すべからず。ただし、物証ならびに徴の重なるとき、または被疑者死亡のときは、この限りにあらず。
第23条(物証)
禁書、邪具、その断片は、所持そのものを罪とす。
第24条(証人)
証人は2名以上を要す。異端に同情せる者の証言は、その値を減ず。
第25条(成立)
供述は、読み聞かせ、爪印を得て成立す。
第26条(撤回)
自白を撤回したる者には、あらためて第7章の手段を用いることを得。
第6章 嘆願および上訴
第27条(嘆願)
嘆願は、宣誓を経たる文書によるべし。
第28条(上訴)
査問の判決に対し、上訴の途なし。
第29条(減免)
真摯なる悔悟は、量刑においてこれを酌むことを得。
第30条(悔悟の認定)
悔悟の真摯なるや否やは、査問官これを認定す。
第7章 術式圧迫
第31条(目的)
術式圧迫は、隠されたる真実を明らかにするための、最後の手段なり。
第32条(等級)
圧迫は、第1級(最も重き)より第5級(最も軽き)までの5等とす。第3級より重きの適用は、局長の允許を要す。
第33条(手続き)
圧迫は、査問官の上申により、執術官の立ち会いのもとに行う。行うに先立ち、これを被疑者に告知すべし。告知のみにて自白したるときは、圧迫を行わざるものとす。
第34条(間隔)
同一の被疑者に対する圧迫は、3日の間を置くべし。
第35条(圧迫下の供述)
圧迫のもとの供述は、圧迫を解きたるのち、読み聞かせと爪印とをもって成立す。
第36条(執術官)
執術官、続行に難色を示すときは、これを交代せしむ。査問は、人によりて止まるべからず。
第8章 判決および処分
第37条(判決)
判決は、査問官の上申により、局長これを下す。
第38条(量刑)
万夜の魔導の行使は、火刑を本刑とす。ただし、火中における術の変異その他の危険を予見すべきときは、魔力回路の完全なる破壊ならびに永久幽閉をもってこれに代う。
第39条(公示)
判決は公示すべし。ただし公示の文言は、民心の安寧を旨として、局長これを定む。実際の処分と公示の文言と異なるときは、その旨を調書に録すべし。
第40条(没収)
有罪の者の資産は、機構これを没収す。不当に得たるものは、これを元の主に返付す。
第41条(執行)
執行には、主任査問官以下3名以上、立ち会うべし。
第42条(執行不能)
執行に先立ち被疑者死亡したるときは、死因を検分のうえ、結審とす。
第43条(連座)
被疑者の名指したる者につきては、遅滞なく査問を立件すべし。
第9章 記録
第44条(調書)
査問の一部始終は、一言一句、これを録すべし。譫言、唄、意味の取りがたき言も、また録すべし。録せざるは、査問官の罪とす。
第45条(結語の定型)
調書の結語は、左の定型によるべし。
「かくして、(地方名)に巣食う澱みと邪教の芽は、機構の法によって正しく摘み取られたり。すべては、至天の光輝たる第一の座の導きによる」
第46条(禁記)
万夜の魔導に関わる調書は、禁記とし、封庫に納む。機構の禄を食む者に関わるものは、禁記中の禁記とす。
第47条(写し)
禁記の写しの作成を禁ず。
第48条(削除)
供述のうち、万夜の術理に亘る部分は、朱書をもって削除を指示し、墨を引くべし。朱書と墨引きとは、別の者これを行う。
第49条(焼却)
禁記は、結審より50年を経て焼却し、焼却台帳に録すべし。
第50条(本規程)
本規程は、機構の存する限り、その効力を失わず。
【識語】
この規程の綴りは、四つの調書と同じ封庫にあった。
第44条を読んだとき、しばらく手が止まった。一言一句、録すべし。譫言もまた、録すべし。録せざるは罪とす。彼らの几帳面は、彼らの裁いた人たちの最後の声を、二百年、こちらまで運んでしまった。
焼くと定めた者たちが、結局、いちばん確かな写し手だった。




