⭕ サイレンが聞こえる 1
「 よっス!
元気にしてたか? 」
「 オタケ──、久し振りだな…… 」
「 “ オタケ ” は止めろって。
『 “ タケさま ” って呼べ 』って何時も言ってたろ 」
「 ははは……。
タケは変わらないなぁ……。
外見は変わっちゃってるけど…… 」
「 るせぇ!
…………それより、どうしたよ?
随分と顔色が悪そうじゃねぇの 」
「 ははは……。
分かる? 」
「 目の下に濃いクマ付けといて元気な奴が居るかよ。
どうしたんだよ、不眠症か? 」
「 不眠症なら睡眠薬でも飲めば解決するだろ?
睡眠薬も効かなくてさ…… 」
「 どゆことだよ?
病気か? 」
「 病気だったら入院してるって……。
………………今はさ、仕事を休んで静養してんだ…… 」
「 静養ねぇ……。
それでオレに連絡くれたのか? 」
「 タケの顔が頭に浮かんでさ──。
藁にもすがる思いって感じかな…… 」
「 “ すがる ” ってのは些か大袈裟じゃないか? 」
「 かもな………… 」
オレに連絡を寄越した奴は、オレの幼馴染みだった奴だ。
産まれた病院が同じで、幼稚園も同じで、小学校 ~ 高校まで一緒だった。
高校2年の冬休みに、オレは父親の転勤で他県に引っ越す事になっちまったから、付き合いはLINEと年賀状になっちまったけどな。
大学に通い始めたら、LINEの回数も減って、今では年賀状を送り合う程度の付き合いになっていた。
大学を卒業し、社会人となって4年目──、幼馴染みから御無沙汰だったLINEにメッセージが届いたんだ。
仕事の兼ね合いもあって、再会するのに3ヵ月も経っちまったけどな……。
オレが働いてる会社の上司は、人間の心を母親の腹の中へ置いて出て来ちまったのか──、と思わせるくらい有り得ないレベルで鬼畜魔だからな~~。
両目に濃いクマを付けて、如何にも寝不足気味な幼馴染みは、オレが知ってる高校時代の面影が微塵も無かった。
相当やつれていて、まるで別人みたいだ。
声は変わってないけどな。
「 で──、オレに何の用だよ、ピロ 」
「 ………………聞こえるんだ 」
「 はあ?
何がぁ? 」
「 ………………聞こえるんだ…………サイレンが………… 」
「 サイレン??
あの、ウ~~~~~って鳴るサイレンか? 」
「 ………………オレは違うよ。
…………パトカーとか、救急車とか、消防車のサイレンの方…… 」
「 へぇ?
米●町は相変わらず事件のオンパレードだな。
パトカーやら救急車やら消防車のサイレンなんて、日常茶飯じゃないかよ 」
「 違うんだよ!!
事件も事故も起きてない静まり返ってる時に聞こえて来るんだよ!! 」
「 はぁ?
事件も事故も起きてないのに??
そんな事って有り得るのか?
“ 犯罪天国都市 ” って呼ばれてる米●町だぞ。
全国の犯罪者から “ 犯罪の聖域 ” って言われてる米●町だぞ?
事件の起きない日なんて有る訳ないだろ。
何処かで必ず事件が起きる町──それが米●町じゃないか。
最低でも1日に8件の事件が起きてるのが通常運行の米●町だってのに── 」
「 酷い言われようだな、米●町── 」
「 他県の評価はもっと辛辣だけどな。
まぁ、米●町の話は置いといてだ──、1000歩譲って静閑で静寂な日も有るとしよう 」
「 千歩も譲るんだ…… 」
「 明らかに足りないと思うけどな?
罷りにもそんな日も極稀に有るとしてだ── 」
「 念押し迄するんだ…… 」
「 サイレンだけが聞こえてるのか? 」
「 そうだよ。
飛び起きて、窓を開けて、周囲を見回しても何も起きてないんだ……。
そんな事が1年以上も続いてて…… 」
「 1年以上も?
そのサイレンが聞こえるのは昼間…なのか? 」
「 夜中だよ。
決まって2時 ~ 2時半の間に聞こえるんだ。
初めは耳に聞こえる感じだったのに……何時しか頭の中に響くようになったんだ…… 」
「 頭の中にサイレンが響く……。
そいつは……辛いよな? 」
「 うん…………その所為で寝不足で…………仕事でもミスを連発するようにもなって…………先輩や同僚……後輩にまで迷惑を掛けちゃうようになって………… 」
「 因みに病院は? 」
「 行ったよ。
最初は耳だったからさ、幻聴かと思って……近所の耳鼻科に行ったよ。
検査をしてもらったけど、『 何処にも異常は見られませんね。正常ですよ 』って言われてさ、『 逆に何で来られたんですか? 』って聞き返されちゃったくらいでさ…… 」
「 お…おぅ…… 」
「 だから、深夜にサイレンが鳴ってる音が聞こえる事を先生に話したんだよ 」
「 ほぅ──。
それで先生からは何て言われたんだ? 」
「 『 え? 貴方もですか?! 』って驚かれたんだ……。
どうやら、僕以外にも “ サイレンが聞こえる ” って事で、耳鼻科に来て検査を受けた患者は居たらしくて──、『 君で16人目だよ 』って言われたんだ 」
「 じゅ…16人もか?
ピロと同じ症状で耳鼻科に行った患者が? 」
「 うん……そう。
でさ……『 耳からじゃなくて、頭の中にサイレンが聞こえて来るような事になったら、個人病院じゃなくて…市民病院へ行って脳検査してもらいなさい 』って言われたんだ。
紹介状を貰っちゃってさ……。
最初は『 何言ってるんだ? 』って思ったけど……、1ヵ月も経たない内にさ本当に頭の中にサイレンが響くようになったんだ。
だから……紹介状を握りしめて市民病院へ行ったよ。
脳検査もしてもらったけど、『 何処にも異常は見当たらないですね。正常だし、綺麗な脳ですよ 』って先生から褒められちゃってさ…… 」
「 お…おぅ……すげぇな…… 」
「 診察の序でに先生にも聞いてみたんだよ。
『 僕を含めて16人が同じ症状で苦しんでる事を小耳に挟みました。耳鼻科の先生から初診で紹介状を貰ったくらいで── 』ってさ。
何て言われたと思う? 」
「 何て言われたんだ? 」
「 『 16人? もっと居ますよ 』って言われたんだ。
市民病院だからさ、あちこちの個人病院から紹介状を貰って来るみたいで──。
2年前からかな、似た症状で検査を受けに来る患者さんが格段に増えたらしいんだ。
僕みたいにサイレンの音に悩む人も居れば、犬の鳴き声とか、猫の鳴き声とか、赤ん坊の鳴き声とか……食器が割れる音とか、車の急ブレーキの音とか──聞こえる音は様々らしいんだ。
皆隅々まで脳検査するんだけど、何の異常も見当たらなくて──。
耳鼻科で再度、聴力検査とかも念の為にしてもらうんだけどさ、やっぱり正常で…… 」
「 お…おぅ…… 」
「 幻聴が聞こえるのは、ストレスから来るんじゃないか──って事で、生活習慣の改善とか食生活の改善とか運動不足の改善とか……何か色々と言われたりしたんだけど…… 」
「 そ…そうなんだ…… 」
「 そんなの仕事を休まないと無理だから──って先生に話したら、仕事を長期休めるようにって診断書を書いてくれてさ…… 」
「 お…おぅ……優しい先生だな? 」
「 『 定期的に精神科でカウンセリングを受けないといけない状態だから、長期入院が必要 』みたいな事まで書いてくれてさ。
診断書を会社に提出したら、見事に長期休暇を貰える事になったんだ 」
「 ほぉ~~。
良かったじゃんかよ 」
「 うん……。
でもさ、普通に暮らしてても自堕落な生活しちゃうからさ……静養なんて出来ないだろ?
生活習慣の改善とか食生活の改善とか運動不足の改善とか……難しいじゃん? 」
「 まぁ……そだな。
余程、意志を強く持てないと中々難しいかもな? 」
「 そんな訳で…精神科に入院する事になっちゃったんだよ……。
似たような患者が入院してる病棟になるみたいでさ。
効果が有るのか分からないけど、カウンセリング療法も受ける事になってるんだ…… 」
「 そっか……入院するのか…… 」
「 そっ。
入院しちゃったら何時、退院が出来るのか分からないからさ、入院前に最後のシャバ生活を楽しもうと思ってさ 」
「 シャバって言うなよ 」
「 言ってみたかったんだ(////)
入院したら、酒もタバコも禁止になるからさ、切ないよ…… 」
「 生活習慣の改善には禁酒と禁煙は絶対だもんな 」
「 入院する前にタケと会えて、話せて良かったよ。
面会は自由に出来るみたいだけどさ、入院する病院は県外に在るんだよ。
タケが暮らしてる県からも遠い場所でさ、見舞いなんて難しいだろ? 」
「 そんなに遠いのか? 」
「 自然が豊かで空気が綺麗な場所なんだ!
静養とか療養とか似合う感じかな! 」
「 えっ……何だよ。
妙に嬉しそうじゃないかよ 」
「 この前、市民病院からさ精神病院に入院する患者さんに向けた病院見学へ行くシャトルバスが出てさ、行って来ちゃった訳よ 」
「 お…おぅ…… 」
「 パンフレットも貰ったんだけどさ、コレ!
見てみろよ 」
ピロは嬉しそうにオレの前にパンフレットを置いてくれる。
おぃおぃ……どういう事だよ……数分前のピロとは随分と様子が違うんだけど……。
………………ヤバい “ お薬 ” に手を出してないよな??
つい最近、野球選手が禁止されてる薬物を使っていた事が発覚して、逮捕された末に球団を首になって、暫くはユーチューバーとして生計を立てるらしいってニュースで取り上げられていたから、心無しか不安になっちゃうよ……。
でもまぁ、折角なんでピロを豹変させる程の力を秘めたパンフレットを見せてもらう事にした。
「 精神病院って言われたからさ、辛気臭い所かと思ってたんだけど──、広くて綺麗でさ、清潔感が溢れてる病院だったんだ。
置かれてる観葉植物のセンスも良くてさ、爽やかで気持ちの良い雰囲気の病院だよ!
吃驚しちゃったよ!!
オレも含めた入院予定の患者、全員が『 ひょえぇ~~~~ 』だもんな! 」
「 そんなに凄かったんだ? 」
「 一般人の見学はしてないから、タケは見れないけどさ──、入院後も快適に過ごせそうな感じだったよ 」
「 へぇ? 」
「 本格的な温泉に入れるし、サウナも完備されてるし、スポーツジムとかマッサージ施設とか漫画喫茶とか娯楽施設とか在んのよ!
シャレ乙なカフェも在るし、娯楽施設にはカジノまで在るんだぞ!
カジノで使えるのは施設内で使える専用の紙幣が使われててさ、キノコンの絵が描かれてるんだ! 」
「 キノコン?? 」
「 何だよ、タケ。
キノコンを知らないのか?
オレも病院へ行く迄知らなかったけどさ──、入院するとキノコンが1体、担当に付いてくれてな、身の回りの世話をしてくれたり、治療に向けたサポートもしてくれるんだと!
キノコンってさ、見た目も可愛いけど、声も可愛くてさぁ~~~~癒し系マスコットキャラって感じだよ!
皆、癒し系キノコンの可愛さに心を鷲掴みだよ(////)
盆栽や囲碁を本格的に楽しめる場所も在ってさ、プロ棋士で活躍してた人と打てるんだってよ。
オレは囲碁に興味無いから、漫画喫茶に入り浸ろうと思ってるけどな! 」
「 饒舌だな…… 」
「 1日じゃあ、語り尽くせないよ!
見学者には記念に、非売品のキノコンキーホルダーを貰ったんだ。
可愛いだろぉ~~ 」
ピロはスマホに取り付けられたキーホルダーを自慢気に見せてくれた。
笑顔で楽しそうに語ってくれるピロを見ていたら、少しだけ安心した。
「 手紙は書いても良いのか? 」
「 全然OKみたいだな。
スマホは没収されちゃうし、テレビゲームも出来ないし、テレビも見られないけど、ラジオは聞けるらしいよ。
不便な部分には慣れが必要だけど、入院中は退屈しなくて済みそうだよ 」
「 そっか…… 」
「 入院手続きは市民病院が代わりにしてくれてるから、入院予定の患者のオレ達がする事と言えば、入院当日に貴重品を持って市民病院へ集合する事くらいかな。
シャトルバスに乗って現地へ向かって、その日の夕方頃には到着する予定だよ。
今から、待ち遠しくてさぁ~~。
頭の中で響く煩いサイレンにも耐えれてるんだ 」
「 頭の中にサイレンが響いてるのか? 」
「 当たり前だろ。
相変わらず辛いけどさ──、このキノコンのキーホルダーを見て、耐えてるんだ。
後3日の辛抱だから…… 」
「 ピロ…… 」
「 後3日で……オレ達はキノコンに会えるんだ……。
夢のような精神病院に入院して……毎日、楽しく静養生活を送れるんだ……。
だからさ、その前にタケと会えて、話せて嬉しいよ……。
マジでさ……オレと会ってくれて有り難な 」
「 大袈裟だって!
月1で顔を見せに行ってやるよ。
見舞いの品は何でも良いのか? 」
「 ゲーム本体とかゲームソフトは禁止されてるから、入り口で没収されるかもな。
入院したら、キノコンに聞いてみるよ。
NGの見舞い品とか教えてくれると思うからさ、手紙で知らせるわ 」
「 了解!
手紙、待ってるからな。
『 楽し過ぎて忘れてましたぁ~~♥️ 』は止めろよ 」
「 うわぁ~~、それ言われたら自信ないかも! 」
何だかんだでピロとの会話は盛り上がった。
その日は終電を逃すくらい話に花が咲いて盛り上がったから、ピロのマンションに泊めてもらう事になった。
オレは爆睡してしまったから、どんな感じでピロが夜中に苦しんでるのか分からなかったけど──、ピロより早く目が覚めてしまったオレは見てしまったんだ。
キノコンのキーホルダーを確りと握りしめて眠っているピロの頬に、涙が流れた痕が残っているのを──。
オレには想像も出来ないけど、頭の中にサイレンの音が鳴り響く謎の症状は、泣く程に辛いんだろうか──。
願わくば……精神病院に入院したピロが、心の支えにしているキノコンと楽しい日々を送れるように──、心の底から祈りたいと思う。
信仰なんてしてないし、見に見えない神様の存在なんて信じちゃないけどさ──、ピロの寝顔を見ちゃったら、願わずにはいられないだろ?
だって、オレはピロと産まれた時から縁があって、親の都合で引っ越す迄は、仲の良かった幼馴染みなんだからさ。
◎ 訂正しました。
「 よっス! 「 よっス!
元気にしてたか? 」─→ 元気にしてたか? 」
初めは耳に聞こえる 感じだったのに…… ─→ 初めは耳に聞こえる感じだったのに……




