前編
国護りの聖女であった私ミントは生まれ育った国の王子アンドディーンと婚約している。
しかしそれは愛あっての婚約ではない。あくまで王子と聖女としての関係で。それ以上のことなどそこにはない、というのが、現実である。立場ゆえの婚約だ。
ただ、だとしても悪い関係性を作る必要はないと考えていたので、私は、彼に対してなるべく丁寧に接するよう気をつけてきた。
けれども彼はそんなこと少しも考えていない人で。
むしろ私の存在を不愉快に思っているようだった。
顔を合わせれば「ダサい女だな」「ぶっさ」などと失礼の極みのような言葉を投げつけてくる。
共にパーティーに参加することになっていたある時には、わざと私を避けるような行動をし、学園時代の後輩で以前から可愛がっている平民の女性ミミを隣に置くといった勝手な行動をする。
向かい合うような位置の席順での食事となった時には渋いものを食べてしまったかのような面持ちで「お前の顔を見ながら食事とか罰ゲームすぎる」と棘を吐き出してくる。
……などなど、彼は私をとことん嫌っていた。
彼が見ている女性は常にミミだけだった。
――そしてついにその日が訪れる。
「ミント、お前との婚約は破棄とする!!」
急に呼び出され王城の談話室へ向かうとそこにはアンドディーンとミミが立っていた。
二人は腕を組み親密そうに身体の側面をくっつけている。そして、私たち愛し合ってるの、とでも言いたいかのような目でこちらを見てきていた。
どうしても一対二の状況を作りたくて仕方がないようである。
わざわざそんなに仲良さげなところを見せようとしなくていいのに、と思ったけれど、そんなことを言っても良いものなど何も生まれないと分かっているのでそこには敢えて触れないままにしておいた。
「聖女だろうが何だろうがどうでもいい。もうお前には付き合えない。よって、お前との関係はここまでとする。……元々好きじゃなかった」
すると途端にミミが楽しそうな笑みを浮かべ「あたしの勝ちね!」とはっきり言った。
「え……」
「貴女、聖女なんでしょ? でもアンドディーンさまに愛されないのね? ま、そりゃそうよねっ。だって貴女ダサいもの! 聖女は所詮聖女、女としての価値は見るからに低いわね!」
「それはさすがに失礼過ぎませんか」
「ミミ、事実しか言ってないもーんっ」
「いきなり人を貶めるのはどうかと思います」
するとミミは急に涙目になり、隣にいるアンドディーンに抱きついて「こわぁーい! アンドディーンさまぁ、助けてっ」と言葉を発した。するとアンドディーンは「おい! ミミを泣かせるようなことをするなよ!」と怒りをこちらへぶつけてきた。さすがに黙っていられなくて「ミミさんの発言に問題があると思います」と言い返せば、彼はさらに怒りを濃くし「黙れ! 醜い魔女めが!」などと鋭い刃のような言葉を吐き出してくる。
「ミミを虐めるやつは絶対に許さない!」
「虐めていません」
「いいや明らかに虐めている! ミミを見ろ、怯えているじゃないか。彼女にこんな思いをさせて……どういうつもりだ? お前はその罪を償えるのか? できないだろう!」
「罪などありません」
「ある!! ミント、お前には幻滅した。こんなにも可愛らしいミミを泣かせるなど悪魔の所業だ。お前は聖女ではない! お前は悪女だ! それも、悪魔に魂を売った悪女の中でも特に悪質な悪女!!」
激怒した彼は、婚約破棄に王国からの追放まで付け加え、徹底的なやり方で私を追い出した。
……まさか国外追放までされるとは思わなかった。
アンドディーンも、ミミも、予想の遥か上をゆく悪人だった。
それでも心折れたくはなくて。
あんな人たちに負けたくはなくて。
だから私は自分の道を行こうと決めた。
国のために彼と婚約して、国のために生きてきて、それで迎えたのがこんな結末だったのかと思うと少々切なく悲しいけれど……過去はすべて捨てて、新しい人生という道を歩み出そうと思う。




