お見合いの次の日に親友が来ました。
お見合いの次の日。
アンドレアが遊びに来た。
何故かいつも通りリラージュの部屋に三人で集まった。
ルーティスとアンドレアは晴れて婚約者になったはずなのに。
リラージュはこてんと首を倒す。
「リラ、どうしたのかしら?」
「姉上、どうしたの?」
「せっかく婚約したのに二人じゃなくていいの?」
「いいのよ。リラのお見合いの話を聞きに来たのだもの」
リラージュはきょとんとする。
「私の?」
「そう、リラの。他にお見合いした人はいないでしょう」
そういうことではない。
アンドレアはわざとそのような言い方をしたのだ。
「いないけど。興味があるの?」
「あるに決まっているでしょう。リラのお見合いよ? むしろ何で興味がないと思うのかしら?」
確かにアンドレアはリラージュの友人だし、ルーティスの婚約者だ。
関わりが深い。
「確かにそうね」
「さあ、納得したのなら話してちょうだい」
「何が聞きたいの?」
「まずは当然ゼリア侯爵令息のことよ。どうだったかしら?」
リラージュは昨日のことを思い出す。
「あまりお喋りな方ではないようだったわ。でも私の話をきちんと聞いてくれたわ」
「姉上、淑女はどうしたの?」
「頑張ったわ」
リラージュは精一杯頑張った。
あと淑女は喋らないということではない。
「リラ、頑張るのはもちろん大事だけど、頑張るだけでは駄目なのよ?」
「……わかっているわ」
リラージュだって淑女の仮面が外れてしまった自覚はあるのだ。
だけど、それも最小限にしたはずだ。
ちょっと綺麗な花を見た時とか。
ちょっと美味しいお菓子を食べた時とか。
本当にそれくらいなのだ。
ほとんどの時間はちゃんと淑女をしていたと自負している。
だから怒られることではない。
だいたいルーティスは昨日話を聞いていた。
それなのに今日ここで出したのはアンドレアに聞かせるためだろう。
頬を膨らませそうになったが堪える。
ここでそんなことをすれば何と言われることか。
「それで、お見合いはどうだったの? うまくいったのかしら?」
「たぶんうまくいったわ」
「そう」
アンドレアはちらりとルーティスを見る。
「だからルティが不機嫌なのね」
リラージュは困ったように微笑う。
昨日からずっとルーティスは不貞腐れているのだ。
「ほら、ルティ、とりあえず話を聞きましょう?」
「アディ」
「情報がなければ何もできないわよ?」
ルーティスははっとした顔になった。
「そうだね。さすがアディだ。さあ姉上、話を聞かせて」
つい今まで不貞腐れていたのに、もう身を乗り出しそうな勢いだ。
恐らくルーティスたちが何をしようとももう変わらないだろう。
それをルーティスだってわかっているはずなのに。
昨日両親からそう告げられていた。
それでも最後まで足掻くつもりなのだろうか?
ルーティスなら十分考えられる。
「さあ、姉上」
ずいずいと迫られる。
一応ルーティスには一度昨日話したはずだ。
ああ、でもあの庭や四阿のことは話していない。
それならその庭のことを話してあげよう。
「わかったわ」
ルーティスとアンドレアが顔を見合わせて微笑み合う。
まずはあの四阿の話だ。
この話は二人に是非したかったから実はうずうずしている。
「二人は『妖精の庭でお茶会を』という絵本を覚えている?」
「姉上の好きだった絵本だよね?」
「私も覚えているわ。リラは自分も妖精のお庭でお茶会がしたい、って言っていたわね」
「そんなことも言ったわね」
懐かしい。
描かれている妖精の庭が本当に素敵で、お茶会も楽しそうでリラージュは憧れたのだ。
幼い頃の無邪気な憧れだ。
今はさすがに現実的でないとわかっている。
まあ本当に妖精に招待されたら、参加するのもやぶさかではない。
「その絵本がどうかしたの? ゼリア侯爵令息の愛読書だったとか?」
「いえ、妹さんの愛読書らしいわ」
「フィアニカ様ね」
「アディは知っている?」
「直接お話させていただいたことはないけどね」
「そう」
あの絵本が好きなら仲良くなれるのではないだろうか、とリラージュは勝手に親近感を持っていた。
「それでその絵本がどうしたの? 共通の話題で上がったってこと?」
「その庭を模した四阿があって、そこでお茶をしたのよ」
「……なるほど、リラ、気に入ったのね?」
「ええ、そうなの!」
さすが親友。よくわかっている。
リラージュはにこにこと微笑う。
「あー、姉上はそれについて話したいんだね?」
「そうなの! だって本当に素敵だったのよ?」
ルーティスとアンドレアが顔を見合わせて苦笑する。
仕方ないな、という顔だ。
「そっか。じゃあ聞かせて」
「ええ!」
リラージュはあの四阿や庭がどれほど素晴らしかったのかを力説する。
そこで食べたお菓子の美味しさも。
それをルーティスとアンドレアは穏やかな顔で聞いていた。
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