お見合いをします。5
「お菓子は好きなだけ食べてほしい」
目が輝いてしまった自覚はある。
慌てて取り繕う。
だがゼリア侯爵令息にはばっちりと見られていたようだ。
彼は優しく微笑んだ。
「本当にお菓子が好きなんだね。いくらでも食べていいよ」
その言葉についお菓子に視線が向いてしまった。
まだまだテーブルの上にはお菓子がたくさんある。
「余ったら持って帰れるようにするよ。だから好きなものを好きなように食べて」
「ありがとうございます」
声が弾まないように気をつけて礼を告げる。
お土産に持たせてもらえるならルーティスにも食べさせてあげられる。
リラージュは美味しいものは皆で分け合いたい派だ。
それを知っているルーティスは勿論遠慮はしない。
だからといってリラージュの分まで取ることもない。
だからそのことで喧嘩をしたことはない。
改めて並べられたお菓子を見る。
並べられたお菓子の中にはルーティスの好きそうなものもある。
お土産にもらって帰れれば喜ぶだろう。
それならばリラージュは自分の好きなお菓子をいただくことにしよう。
マカロンに手を伸ばす。
そこで思い出した。
「そういえば、先日いただいたお菓子はどうでしたか?」
「王宮のかい?」
「はい」
確か彼はマカロンをお土産にもらって帰ったはずだ。
それとも食べずに妹にでもあげてしまったのだろうか?
「グーリエ嬢はどうだった?」
「弟と友人と分け合いましたけどどれも美味しかったです」
リラージュはルーティスとアンドレアとそれぞれがもらったお菓子を分け合って食べた。
リラージュは好きなものを持たせてもらったが、ルーティスもアンドレアも分け合って食べることを前提として選んだのだろう。
さすが王宮のお菓子だ。
どれもとても美味しかった。
今思い出しても頬が緩みそうになる。
慌てて気を引き締める。
ゼリア侯爵令息は軽く首を傾げた。
「友人?」
どうやら何とか表に出さずに済んだようだとほっとしてリラージュは答える。
「同じテーブルにいたアンドレア・トア伯爵令嬢ですわ。今は弟の婚約者ですの」
アンドレアのことは覚えているだろうか?
あまり興味がなさそうだったからもしかしたら覚えていないかもしれない。
そうしたらどこまで説明すればいいのだろう?
お隣の領地だから幼馴染みということまでは話して大丈夫だろう。
特産品とか紹介すべき?
年齢くらいは言って大丈夫なはず。
あとは……。
リラージュは頭を悩ませる。
だがゼリア侯爵令息は違うところに反応した。
「もう婚約を?」
「もともとその予定だったのです」
「ああ、なるほど」
そういう者たちはルーティスたちだけではないのですんなりと納得してもらえた。
実際に何組も婚約が成立している。
その話はゼリア侯爵令息も聞いているのだろう。
「グーリエ嬢にはそのようなお相手はいなかった?」
「いたら今お見合いをしていません」
「ああ、そうか。そうだよね」
ほっとしたように見えるのは気のせいだろうか?
「そうそう王宮でお土産にもらったお菓子の話だったね。話を逸らしちゃってごめんね」
「いいえ。どうでしたか?」
何故かゼリア侯爵令息はじっとリラージュを見る。
どうしたのだろう?
やはり自分では食べなかったのだろうか?
それならそう素直に言ってくれていいのだけれど。
あの王宮でのお茶会の時もあまり食べないと言っていた。
美味しく食べる人が食べるのが一番いいとリラージュは思っている。
好きでないものを無理矢理食べるのはお菓子への冒涜だ。
こてりとリラージュは首を傾げる。
「あの、食べていないなら食べていないと素直におっしゃっていただいて大丈夫ですよ?」
「いや、食べたよ」
そう告げて何故かリラージュの前の皿にマカロンを置き、自身も一つマカロンを食べた。
置かれたのでリラージュもマカロンを食べる。
やっぱり美味しい。
思わず頬が緩む。
何かを確認するかのようにゼリア侯爵令息は頷いている。
どうしたのだろう?
リラージュは目を瞬かせる。
ゼリア侯爵令息は満足そうな微笑を浮かべた。
彼の中では何かしらの結論が出たようだ。
「ああ、ごめん。王宮でもらったマカロンの話だったよね」
「はい。どうでしたか?」
「うん。僕はあまりお菓子を食べないけれど、あのマカロンは美味しいと思ったよ」
本当だろうか?
どことなく違和感を覚える。
リラージュはじっとゼリア侯爵令息を見る。
「本当ですか?」
ゼリア侯爵令息は微苦笑した。
「グーリエ嬢は鋭いね。正直に白状すると、期待値が高過ぎたんだろうね。こんなものか、って思った。でも食べているうちに美味しく感じるかなって思って、残りも全部なんとか食べたよ」
そんな……とリラージュはショックを受ける。
リラージュにとってお菓子とは美味しく食べるものであって無理に食べるものではない。
「無理して食べられるお菓子が可哀想です」
思わずそう言ってしまう。
言ってから失礼だったと気づく。
「ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。グーリエ嬢の言う通りだと思う」
「いえ、でも人それぞれだと思うので」
それはあくまでもリラージュの考えだ。
人に押しつけるものではない。
「うん。だから僕もグーリエ嬢の意見に賛成だよ」
「本当、ですか?」
「うん。美味しいと思って食べることが大事だ」
「いえ、美味しく食べることが大事です」
ニュアンスが少し違う。
無理矢理思うのは美味しく食べたことにはならないのだ。
言葉では小さな事だが、実際には大分かけ離れている。
「ごめん。僕はあまり食には興味がなくて」
恐らくそうなのだろうとは思っていた。
「だと思いました。素直にそうおっしゃってくださってよかったのです」
「そっか。最初からそうすればよかった」
「はい」
ふぅっと気が抜けたようにゼリア侯爵令息は微笑う。
それからマカロンをもう一つリラージュの皿に載せ、自分でも一つ食べた。
マカロンはいくつでも食べられるリラージュも自身の皿に載せられたマカロンを食べる。
「でも、君と食べるマカロンは美味しく感じるよ」
「え?」
「最初から君と食べたかった」
本当に残念そうに言われて、リラージュの胸は何だかぽかぽかとしてきた。
不思議だけど悪い気はしなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。




