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一日目の終わりと、二日目の始まり


 一つの焚き火を向かい合い、一家団欒をしているため光景が広がっているのを目の当たりにすると、人は言葉を失うのか。そう。ここはゴブリンの巣穴で、ゴブリンの家なのだ。


 「そう緊張しないで大丈夫ですよ。何も取って食おうなんて思ってません。だとしたらもうあなたは死んでいますよ。ははは」


 笑えね〜よ。どこにも笑える要素なかったよ。実際運がなかったら殺されてたよ。状況が危険すぎる。こちとら身体はボロボロになってるのに、目の前には万全の状態のゴブリンが15体ほどいるってんだ。


 状況に文句言ったって先には進まないし、ここは言われるがままに行動して、隙をついて脱出できるように準備だけでもしよう。


 「私の隣に座ってください。一緒に晩御飯を食べましょう。今日は羊肉を踏んだんに使ったスープですよ」

 「それ完全に俺が仕留めた羊だよね、獲物横取りされてるし。初めての狩猟だったのに」


 声を荒げてツッコミを入れてしまった。目の前で渡された食事が俺の仕留めた羊だった。結局どうなったのか気になていたが、こんな形で再開するとは。獲物を独り占めして今日を満期きつして終えよと思っていたとこでこれか。とほほ・・・


 渡されたスープを受け取る。実際に器を使って食事をしているのか。木製の器だが、ヤスリで全体を滑らかに整えている。持ちやすいし。あえて厚めにしている事で、熱い容器を持っても手が熱くならないように配慮されている。


 渡されたスープもそうだ、見た感じだが、加熱処理がされている。俺の勝手なイメージで生肉とかを食べてる

ものだと思っていたからな。そこは意外だ。


 スープを一口、口に含んだ。まずいかもと思って飲んだが、これが意外。美味しかった。


 色とりどりの野菜と、下処理をしている羊肉がいい味をしている。羊肉なんてジビエ、そう簡単に調理できるもんじゃない。癖もなく、とても食べやすかった。


 「いい、スープだな。食べやすいし、下処理もしてある。俺はこれを焼いて塩で食べようとしてた。美味しいよ」

 「それはよかった。私の妻も喜んでいますよ。今は席を外しているの後で紹介しましょう」


 ここにはいない妻がこの料理を作ったのか、子供がいるなら妻だっているか。当たり前だけど。


 「それでは、場も馴染んだことで、自己紹介といきましょう。私がこの家族の父親、名前はゴッタと言います。そして、あなたと戦闘をして負傷した8男のゴブライが彼。まだ声帯が発達してないので、言葉を話すことはできませんが、この中でも一番あなたを心配していました」


 ゴブライと呼ばれるゴブリンは、首元を包帯のようなもので巻かれて処置されている。今は絶対安静とのことだが、あの戦闘あってか妙に懐かれている気がする。こっちにグッドのサインを送ってきてる。なんか生死を分ける戦いをした後なのに、いいやつに見えてきた。


 「長男を紹介しましょう。コサック、こっちにきて挨拶をしなさい」


 俺の座ってる位置の丁度反対側に座っていたゴブリンの1人が、こっちに歩いてくる。ゴブライとは違って、戦闘に向いてい感じのしない雰囲気がある。少し小柄だからか。


 「初めまして、コッサクです。この群れの長男をしてます。僕はあなたのことを何も信頼してないんで、いつでも首狙ってますから。親父の命令がなければ殺してます」

 「こら、やめなさい。すいませんね、長男として、弟を危険な目に合わせた人を敵視してるんですよ。まあ、その張本人のゴブライはあんな感じで懐っこいので複雑なんですよ」

 「それに関しては、俺からは何も言えないな。まあいい、俺はエイジっていうから、今後はそう呼んでくれ。呼び捨てでもなんでも構わない」


 うんともすんとも言わずに、自分の座っていた位置に戻って行った。


 「残りの兄弟も紹介しましょう」


 そう言われ、残りのゴブリンの自己紹介が始まった。

次男から、ココリ・ゴラン・ゴリゴリ・シルヴェスター・コランベル・キリンデスの計8人からなる兄弟だそうだ。


 「なんか、途中ってか、後半変じゃなかった。完全にシルヴェスターの紹介の時はいかすおっさんが目に浮かんできたし、7男に至っては芸人のネタだよね。完全に。完全に掴みの麒麟ですだよねこれ」

 「掴み??何を言ってるのか分かりませんが」

 「しらばくれるな、確信犯だろこれ」


 名づけに法則性がないことは分かった。


 「では、次に姉妹を紹介しましょう。長女のタケシです。こっちに来なさい」

 「タケシ?女の子で名前がタケシ。頭がいかれる。待ってくれ、名前の付け方おかしくない」

 「初めまして、タケシです。どうも」

 「名前からは想像できない位かわいい声してんな。何でタケシなんて名前にしたの?」

 「生まれてきたときは男だと思っていたんですよ、でも、成長したら女の子だって気づいて、無理もなかった。生まれえた時の名づけは絶対。そのまま名乗らせてます」

 

 なんか・・・かわいそうだな。これが種族による統治か。つらい、つらいよ。だから俺をそんな目で見ないで。


 助けて下さいって目で見て来る。タケシが。助けてやりたいがこの状況かじゃ無理だ。諦めてくれ。


 「他の姉妹も紹介しましょ」


 そういい、紹介された。次女から、ワイナイナ・マルチ・カプル・ココロと名乗られた。おかしいのはタケシだけで、まだよかった。


 総勢15匹からなる、ゴブリン一家だ。なるほど、言語を話せるってだけでも脅威だが、家族となると更に脅威が増す。ちなみに、この家族の母親の名前はラントと言うそうだ。


 「さて、全員の自己紹介が終わったところで、少し真面目な話をしましょう。私がなぜ、あの場でエイジを殺さずに、この巣穴に運んだのか」

 

 一気にこの空間の空気が変わった。肌でそれを感じ取れる。


 「私があなたを救ったのは・・・・・・・を成し遂げたいから、それが私のお願いです」

 「なるほど・・・それを俺に為せと。確かにクレバーな案件だな」


 だいぶ、迷うというか、実現できるかも怪しい内容だった。ここで直ぐに判断できるものでもないし、だけど、断るという選択肢が現状存在しないのも事実だ。


 多分、断ること自体は簡単だ。NOと一言いえばいい。それをさせない雰囲気が漂っている。頷くしかないのか。


 「それを引き受けた時、俺になんの得がある」


 精一杯のやせ我慢だ。この状況で俺が生かされてる事を理解しての、交渉だ。今すぐ首を刎ねられてもおかしくない。だからこそ、ゴッタは嬉しそうに口を開いた。


 「引き受けてくれるってことですね。でしたら、私が所持している結晶を差し上げます。この試験の合格には必要なはずです。私のお願いを聞いてくれるのなら、あなたに合格できるだけの結晶を交換条件として差し上げます」


 周りで黙っていた他のゴブリンも嬉しそうな顔をしている。言葉には出していないが、笑みが浮かんでいる。ただ、一人を除いて。


 実際、達成できるかは微妙だった。色々と調べないといけないし、多分準備もきつい。俺の持てる知識でどこまでいけるかわからん。


 「わかった。取引成立だ。他の奴らにも手伝ってもらう」

 「構いません。よろしくお願いします」


 そういい、この組織のボスであるゴッタは、深く頭を下げた。どこで覚えたのか知らないが、人間の礼儀を知っている。


 まさか、冒険者試験の二次で、人間ではなくゴブリンと協力関係を築くとは思っていなかった。

人生、何があるかわかったもんじゃないな。


 「今日はもう遅いですから、この先にある個室で寝てください。ちゃんとベッドも用意しています。ワイナイナ、部屋まで案内してあげなさい」

 「はい、お父さん。おっさんこっちだよ」


 ワイナイナは立ち上がり、焚火から火を貰い歩き始めたので、置いていかれまいと急いでこっちも立ち上がり後を付いて行った。

 

 「訂正しておくが、俺はおじさんなんて歳じゃない。まだこれでも若いからお兄さんにしてくれ」

 「ああそう、器の小さい男は持てないぞお兄さん。ねえ、うちの長男がなんかごめんね、悪気はあっただろうけど、それも愛なんだよね」

 「愛?」

 「家族愛だよ。誰よりも冷たいけど、誰よりも家族を愛してる。長男ってだけで、周りを引っ張らない取って悩んでんだよあいつは」


 ワイナイナの顔は見えないが、そんな兄がいて幸せだと物語っている感じがする。種族は違えど、兄はどこも大変だと思う。つらいな、生きてる順番が先頭なだけで背負うものが増えるってのは。


 

 そこから、少しの雑談しながら歩いた。ワイナイナが足を止めた。どうやら俺に当てがる部屋の前に着いた。場所は洞窟の入口と最奥の丁度中間くらいだろうか。


 「じゃ~あとはお好きにどうぞ。明日からよろしくね」


 そう言い残し、来た道を帰って行く。


 他にすることも無いので、扉を開けた。そこは普通の部屋がある。ご親切に松明までちゃんとついている。空気穴まで、酸欠を防ぐためか。


 ベッドがあるだけだが、俺が野宿するよりも断然心地がいい。肌触りから違う。多分いい素材使ってる。ベッドも枕もきれいで清潔感がある。俺の想像していたゴブリンはもっと汚いイメージがあったけど、こうやって実際に目の当たりにするとこいつらも生きてるのが分かる。


 ありがたくベッドを使わせてもらう。そう思い、思いっきり横になる。


 天井を見ながら、現状を整理しよう。


 まず、試験時間が残り大体60時間くらいだ。その間にやることはまず偵察だ。他の冒険者候補がどんな感じか調べないとならない。次にこの鳥かごの全体の把握だ。これも同時進行で行わないといけない。で、最後は・・・を作ることだ。こればっかりはもっと知識に長けた奴がいないと厳しい。


 問題は沢山あって、正直めんどい。まあ、ここのゴブリンは一応は信頼できそうな気がするから、存分に使わせてもらう。


 今気づいたが、あのスープ何か入ってるな。薬草か?そういえば体の痛みが消えている。ここまで手の上って事か。気に食わねえな。


 最後に笑うのが俺なら、どんなことでもしてやるよ。


 小さく胸に覚悟を刻み、エイジは眠りに着いた。


・・・・・・      ・・・・・・      ・・・・・・      ・・・・・・


 エイジが眠りに着いた同時刻、焚火でゴブリン一家が話し合っている。


 「なあ、父さん。あの人間は信用できるのか。俺にはまだ信じることができない」

 「わたしも、どちらかと言えば信じれない」


 そう声を発したのは、ゴラン(三男)とカプル(4女)が先陣を切った。


 「まあ、信じれなくてもいいけど協力は使用よって話。今更どうこうあたしたちが出来ないもん」

 「いいじゃん。面白そうだし、人間と話す機会すら珍しいのに。ここで疑ったままだと、先には進めないぞ」

 「反抗してきたら、殺せばいい。それが俺たちの生存本能だろ」


 信用していないけど、面白そうと発しているのはマルチ(3女)とココリ(2男)、シルヴェスター(5男)だ。


 他の物は、逆に信じてみようという感じだ。人間を信じるのではなく、父を信じている。これでも、子といえども、長の命令は絶対だ。そこに各々の不満はあれど、決定には従う。


 「なんだか、面白そうな話をしてるね。混ぜてよ」


 人間を送ったワイナイナが帰って来た。ちなみに、ワイナイナを送りに使ったのは、この中で一番戦闘が強いからだ。ワイナイナは戦闘のスペシャリストである。


 「ワイナイナはどう思う?あの人間」

 「僕は信じてもいいと思うな。害をなすみたいな感じはしないし、結局は双方に得がある関係でしょ」

 「ワイナイナが言うなら、説得力がある」

 「それに、もし何かあれば僕が切ればいいだけでしょ。簡単だよ」


 ワイナイナの目から見ても、あの人間は非力だと判断できる。でも、頭は良い。だからこちらが足元救われないようにしておけないといけないとも思っている。


 「まあ、各々が様々な意見を持つことは大切だ。直感とか感情とかな。大切にしろ。その上で出来る事を探せ。信じるなら協力するもよし、信じないなら自分で道を切り開くもよし。好きにしていいぞ。今回わな」


 父ゴッタの言葉を聞き、この場にいる皆が自分の考えで行動することを許可された。


 「いいじゃねえか。長がこう言うってことは、みんなで同じ方向を向かなくても今回は良いってことだ。好きにしようぜ。俺もそうするからさ」


 最後に口を開いたのは長男だ。一番冷静に物事も見ている。


 その言葉を最後に、各々が寝室に向かった。


 その後、ゴッタとコサックが最後まで何かを話していた。


・・・・・・     ・・・・・・      ・・・・・・      ・・・・・・


 誰かが扉を開けてきたのが分かる。ただ、昨日の疲れなのかまだエイジは眠っている。


 「ほい、起きな!!朝飯だよ」


 その一言で思いっきりたたき起こされた。


 「何だ何だ、あんた誰だ??」


 そこには見たことのないゴブリンがいる。一目見て分かった。ゴブリンを束ねる母だ。


 「昨日は色々と話がまとまったそうだね、私はここの母のラントってな、起きな寝坊助」


 そう言い残し、先に部屋を後にした。あっさりとした登場に土岐坊抜かれた。頭が追い付かない。


 「どしたどした。お兄さん大丈夫??」

 「この状況が大丈夫に見えるのか」

 「よかったね、お母さんお兄さんを認めたんだね」


 認めた??あれで??殺しに来たの間違いだろ。完全にあれは獲物を捕まえた目をしてたぞ。


 「はいはい、起きて起きて。今日はレーズンパンだよ」


 ワイナイナに急かされ急いで支度をし、昨日の焚火のとこに向かう。


 そこには、数名が朝食を食べていた。いるのはゴッタ、ラントをはじめとした、エイジの事を支持する面々が集まっている。

 

 「昨日はよく寝れましたか?」

 「ああ、一気に疲れが吹っ飛んだよ。いいベットだったね」

 「それは良かった」


 ほっこりとした笑顔をゴッタが向けてきている。どうして俺の周りにはこんなんしかいないんだ。


 朝食の入ってるプレートを渡された。そこにはレーズンパンが2個ある。できたてなのか、湯気が立っているし、いい香りもする。


 「うまそうだな。いただきます」


 一口かじったが、確かに絶品だ。味付けはシンプルなパンだが、出来立てだからか美味しさが引き立つ。これはやる気が出るってもんだ。


 俺が食事を楽しんで味わっている時に、横からワイナイナが話しかけてきた。


 「ねね、お兄さん。今日これから何するの」

 「敵情視察だな、今はこの中にいる他の冒険者もどきの情報を集めて、装備とか使えそうなもんを奪う」

 「お!!いいね!!楽しそうだし、付いて行っていい?」

 「いいぞ。人手は大いに越したことない」

 「すまないね、私は手伝えなくて」


 意外なことに手伝えないと声を掛けてきたのはゴッタだ一番信頼していたから以外だ。そればっかりはしょうがない。自分に出来る事で努力するさ。


 「そうそう、これはエイジの荷物だろ。返しとくよ」

 「ありがとう」


 受け取ったのは、俺が倒れた後に回収してくれた武器やらなんやら一式だ。


 荷物は受け取ったし、腹も膨れた。ぱっと立ち上がり外に行く準備をする。


 「さあ、行くか」


 そう自分に言い聞かせた。





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