その時、お三方は・・・
試験を追いかけると言った三人は、ディーアが久々に帰って来たのもあってショッピングに向かい、そこで時間が過ぎて明日でいいやとなっていた。
いつものマイホーム。我が家に帰ってきたのは午後19時を回ってからだった。
「玄関がものの見事にない。このプライバシーのない空間。ご近所が見たら私のこと誤解するでしょ」
「それに関してはディーア、今試験で死にそうな人とそこでソファーに寝っ転がってる人のせいだからね、勘違いしないでよ」
「何ちょっとツンデレみたいなセリフ吐いてんだよ。どう考えたってインターホンに出なかった事で玄関吹っ飛ばした奴のせいに決まってんだろ。誰がどう考えたって手を出した方が悪いに決まってる。なあディーア」
「二人とも共犯です。違った、三人ともか。罪をなすりつけるのではなく反省すること」
そこには、まるで我が子を説教する母のような姿の聖女がいた。
玄関に関しては、冒険者になり直す意思があるとかで許しを得た気がする。実際に許したかどうかは神のみぞ知るならぬ、ディーアのみぞ知るになっている。
ショッピングでありえない位の買い物(俺とエイジのヘソクリ)のおかげで機嫌がよくなった。
え?ヘソクリがあるのならそれで玄関を直せばいいって、そんなの足りる訳がない。
ディーアが買った物なんて、ちょっといい洗剤とか化粧品とか、そんな感じだった。結局聖女にそこまでの物欲が無いのが幸いしたね。
「そういえばあの試験の待合室にあの人がいたわね、最近巷で話題になってる人」
「ああ、元々血筋が良かった落ちこぼれですね、確かに最近まで話にすら上がらなかったから、てっきり死んだとばかり思っていましたね」
「なんだ、その物騒な話題。あの時にどんな奴がいたんだよ」
「う~~ん、なんて言えばいいのかな、簡単に言えばぶきっちょ?」
「省き過ぎだ!!。それじゃ何が言いたいのか全く伝わらん」
「まあまあ、ここで分からない方が面白くなりますよ。明日行くときに説明してあげます」
何をもったいぶってんだ??となるが。仕方ない。力関係でいえば俺が一番下だ。ここは黙っていよう。
(エイジ・・・死ぬなよ)
こういうセリフって、ヒロインが言うもんじゃないのか、この作品における俺ってヒロイン??
そう変な事を考えてしまった。
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
暗い・湿っている。
(ここは・・・どこだ)
辺りに関しては目視が出来ない。自分が何者なのか、一個ずつ鮮明に記憶をたどる。
(確か、戦闘をした後に俺は応援のゴブリンに負けた。なら、俺は捕まったのか?)
自身の状況を感じる。手を動かそうとした時に縄で結ばれているのが分かる。
現状は最悪か。まずは、痛みだ。体は酷く痛い。
特にお腹の辺りが、最後の一撃は酷く効いたってことか。あの一打は反応が鈍った。
これが・・・冒険者になるってことか。
涙が出て来るぜ。甘かった。簡単になれると、よその作品は冒険者になるのが通過点だ。簡単になって、俺つえーで乗り越えられると思ってた。
これが現実か。下手な幻想なんて捨てきらないと。クソ。俺は・・・諦めない。
例えゴブリンの喉元掻っ切っても生き延びてやる。
まずは、脱出が先だ。男の俺に需要は無いだろうから、良くて家畜のエサだろう。逃げるが恥だが何とやらだ。
何も見えないこの状況に、一本のたいまつが見える。何者かが近づいてくるのが分かる。これが救いの物であることを祈るが・・・果たして。
コツ・コツ・コツ
近づいてきて、目と鼻の先に来る。ゴブリンだった。
残念、世界はそんなに甘くない。
「初めまして、そういった方がお互いのためですね。言葉は分かりますか?」
やっぱりか、このゴブリン・・・知能がある。人語を喋るなんて聞いたことが無い。
ここまできたら、認識を改めないといけない。
でも、なぜだ?なぜ俺を生かして対話を求める。仕方ない。ここは、こちらも返答した方がいいのか。
「ああ、言葉は分かるぞ」
精一杯の言葉だった。やはり頭が理解を拒絶している。向こうはフムフムみたいな表情をしている。
この状況はなんだ、合コンか。
「では、まずは自己紹介をしましょう。それがあなた方流の挨拶だと聞きます。私の名前はカカオと言います」
今何て言った、名前があるのか。しかも・・・カカオ。ゴブリン要素ゼロやん。そんなんあるのかよ。
「ご丁寧にどうも。俺はエイジという。カカオさんか、いい名前ですね」
何この返答、完全に一人前で上がってるOLだよね、完全にオフィスレディーですよね。気まずい。気まずすぎる。状況も良く分からないし、何よりツッコミがいない。
「おっと、今の状況に混乱していますね。いいでしょう。その手の縄を外しますよ」
カカオはエイジの手に結ばれている縄を力で外した。その時点で圧倒的に力関係を見せてきた。エイジではビクともしなかった縄を一瞬で引きちぎった。
エイジは言葉が出ない。
(俺は、いつでも殺されることができる。そう言われた気がした。やばいな)
「縄で手首を縛っていたのは、起きた時に暴れてもらったり、自殺されるのを防ぐためですよ。それ以上の理由はありませんので、深く考えないことをおすすめします」
カカオの言葉は、まるで落ち着くような優しい言い方だった。敵意は無く、まるで優しいお父さんに見えた。
こちらを一目見て、たいまつを手に持ちながら歩き始めた。言葉にせず、付いてこいと、ただそう言われた気がする。
今の俺には、選択肢がない。言われた(言われてない)通りに、付いて行くことしかできない。
洞窟の入口付近に近づいた。自分が洞窟の奥にいたことが分かった。逃げられないようにするためなのか??考えたところで意味はない。
そこには焚火がある。そして焚火を囲みように家族の姿があった。ゴブリン一家の姿だ。全員で15人くらいいる。
圧巻する光景だ。ゴブリンか、確かに家族は居てもおかしくなはい。ただ、人は見たことない物、信じたくないものを見ると志向が止まることを、エイジは初めて知った。




