第一章 『新ヶ島』メランコリー ⑧
屋根を打つ雨音が強くなっていた。
空いたコップにカルピス注ぎ、貂子に手渡した。
「テン、その、さっきは悪かった」
「頭を打ったわ。あー痛い」
「ごめん」
一口飲んで、円卓に置いた。
何故か今日のカルピスはやけに喉にへばりつく。
「まぁいいわ。アンタかなりの取り乱しようだったからね。話を戻すと、アンタはつまり灯宮四葉さんを探してるってことね?」
「あぁ、そういうことになる。」
「行方不明ねぇ・・・詳しく聞かせて?」
「あぁ、でもヒトに話すの初めてだから上手くできるかはわからん。できるだけ簡単にするがまとまってなくても、そこはご愛敬で頼む」
「わかったわ」
灯宮四葉はオレの同級生で幼馴染だ。もの心着く前からいつも一緒に遊んでいた。
幼稚園、小学校、中学校もそうだ。『関津』は田舎で子供が少なく、一クラスずつしか無いからずっと同じクラスだった。よく家にも遊びに来てたし、四葉の実家の犬養神社で親父さんが希望者にボランティアで剣道クラブを開いてくれてて、四葉の勧めでそれに通っていた。剣道が休みでも神社で遊んだり家でダラダラしたりして過ごした。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、全部一緒に。
とにかく側にいるのが当たり前で、それが普通だった。
『関津』には高校が無いから、オレも四葉も隣町の青沼高校に電車で一時間かけて通った。町といっても『新ヶ島』に比べたらまだまだ田舎だが、入学当初は「人がいっぱいだね!」と喜んでいたのを覚えている。
一年生のクラスは別々だったが、四葉は神社で剣道の稽古があり、オレはワケあって剣道を辞めてしまっていたが、実家の手伝いがあるからお互い部活には入らず登下校は同じ電車だった。この頃も会話は、担任がどうだとか、テストの結果がどうとか、なんてことない昔から変わらないくだらない話をして笑ってた。
二年生の時、同じクラスになった。いつも通りの当たり前の日々を送っていた。
しかし、四葉は夏休み明けに退学した。
「お父さんが直接あいさつにいらっしゃって、手続きを済ませて行かれた」
担任の言っている意味がわからなかった。オレはその前日にオレの家で四葉に宿題を見せてもらっていたからだ。宿題もしっかり終わらせていたし、退学するなんて話は全く聞いていなかった。すぐに四葉のケータイに電話をしたが繋がらなかった。
放課後、オレは走って犬養神社にすっ飛んで行ったが、四葉も親父さんも誰も居ず、もぬけの殻になっていた。その後も何度か電話したが繋がらず、送ったメッセージは未だに既読にもなっていない。
「ざっくり、こんなとこかな。伝わったか?」
「えぇ。それからアンタは個人で灯宮さんを探している、と」
「そういうことだ」
「なるほどねぇ・・・」
貂子は腕を組み難しそうな顔をしていた。
「質問いいかしら?灯宮さんは聞くところによると活発でイイ子の印象なのだけど、アンタはともかく灯宮さんには他にも友達は居たんじゃないの?」
「あぁ、アイツは誰に対しても優しくて気さくで人気者だったからな。出会いが高校でだったらおそらく声も掛けれてないと思う。もちろん仲の良い女友達も居て、退学したときは騒ぎになったがそれも一瞬だ。三年になる頃には「そんな人いたね」程度で、卒業する頃には誰も灯宮四葉のことなんて覚えて無かったろうな」
「そもそもアンタの協力者は居なかったてわけね」
「あぁ。薄情な連中を見て、結局そんなもんかってオレの方から切ったって方が正しいけどな」
「自らすすんでひとりを選んだワケね。だからアンタのケータイには家族と灯宮さんしか登録されてなかったのね」
「そうだ・・・ってかお前!あの時、ID入れた時に四葉の名前を知ったのか!?」
「そうよ?」
「なんだ・・・てっきり『新ヶ島』で何か知ってるのかと思ったぜ・・・」
「残念だけど、アタシは名前しか知らないわ。けど、手がかりはあるわ」
「手がかり?本当か!?教えてくれ!」
「えぇ、その前にお手洗いに行ってくるわ・・・もう限界なのっ!」
・・・カルピス飲みすぎなんだよ。
「トイレ共同だから、玄関出て左だ。案内するか?」
「大丈夫、行けるから」
貂子は漏れそうなくせに悠々と出て行った。
しかし、驚いたことは三つ。
一つ目は、貂子がオレの内側を見抜いたこと。
二つ目は、オレが素直に打ち明けれたこと。
三つ目は、手がかりがあると言っていること。
白衣貂子ってヤツはいったい何者なんだ・・・?