第一章 『新ヶ島』メランコリー ⑨
「お待たせっ」
貂子が便j・・・ゴホンッ、失礼。お花畑から戻って来た。
お年頃の女子こういったことも気にし、根に持つからな。妹から学んだことだ。
お花畑でお散歩中にいろいろと考えてみたが、貂子が持っている手がかりというやつの見当がまるでつかない。
「おかえり、ところで手がかりって何なんだ?」
「そんな食い気味でこないでよ・・・」
コホンッ、と得意げな表情で彼女は咳ばらいをして続けた。
「アンタの『悪運』よ。名探偵テンコの推理によると、その『悪運』と灯宮さんは何か関係があると思うの」
・・・誰だその子供探偵は。
見た目は子供ってのは認めるが。
「待ってくれ、テン。『悪運』が始まったのは『新ヶ島』に来てからだぞ?四葉の失踪は高二だ。最低でも一年半のズレがある。コレのどこに関係があるってんだ?」
「まず『悪運』について、前にも言ったかもしれないけどアンタツイ(・・)てる(・・)のよ」
「それだ。オレはお前の言っている意味が分からなかったし、今も分からない」
貂子は呆れた顔で深くため息をついた。
そんなに露骨にガッカリしないでくれる?さすがに傷つくじゃん?
「だから、憑いてるの。とり憑いてるって意味よ」
・・・は!?
「とり憑いてるって・・・オレに何かが!?」
「そんな驚かないでよ。そんなに連続的に集中して災難に遇ったら、そう疑うのが普通よ。鈍感にも程があるわ」
「だからって、そんなの何の根拠もないだろ!『新ヶ島』に来てからとり憑かれるようなことしてないぞ?」
「『新ヶ島』で、ではないわ。もっとずっと昔から憑いてるように視えるから」
・・・ん?
今、なんて言った?
「お前、今みぇ」
「と・に・か・く!そういうことよ。霊的なモノってより『呪い』に近いと思うわ」
『呪い』そう考えれば『悪運』についても頷けるが、そんなモノが実際に存在するのか?
にわかには信じがたいな。オレ、いろいろと信じない派だし。
「百歩、いや千歩譲って『呪い』だとして、なんでずっと昔のソレが今キテるんだ?」
「そこが問題なのよね・・・」
お前、分かってなかったのかよ。
「なぁ、テン。『呪い』ってのが仮に本当にあったとしてだ。ソレってのは、たまたま憑くモノでは無いよな?」
「えぇ。霊だとしたら霊の意思でってことはあると思うけど、『呪い』には必ず、かけた(・・・)人とか(・)けられた(・・・・)人が存在するわ」
ってことは、誰かに意図的にオレに『呪い』をかけたってことかよ・・・
誰が何の為にそんな・・・
「信じられないかもしれないけど、アンタに憑いてるのは確定事項よ。ソレが何故今なのかはわからないけど」
「なんてこった・・・」
呪われるようなことしたっけな・・・
ずっと昔ってことは子供の頃ってことだよな。
「ねぇ、灯宮さんが居なくなってからも『新ヶ島』に来るまでの間は何も起きなかったのよね?」
「あぁ、『関津』に居た頃はなんともなかった」
「本当に何も?」
「あぁ、間違いない」
『新ヶ島』に出てきてから自分が死ぬ夢を見るようになって、それから現実にも現れてくるようになった。靴紐が切れたり、鳥の群れにフンを集中的に落とされたり、事故で死にかけたり。悪夢に始まって大小様々ランダムに襲ってきているきている。
貂子は最後の一杯分のカルピスを自分のコップに注いだ
「不思議ね・・・古い『呪い』が新しい『新ヶ島』で現れるなんて」
「やっぱり『呪い』と、四葉のことは関係ないんじゃないか?」
「関係性は怪しくなってきたけど、現状では全くのゼロとも言い切れないわね」
はぁ・・・なんでこんなことになっちまったんだ・・・?
「オレはただ、四葉が今どこで何をしているのか知りたいだけだぜ?世の中誰かを探してる人なんて大勢いるだろ・・・?」
「そうだ!」
ゴクゴクゴクと仕事終わりのサラリーマンのように残りのカルピスを一気に飲み干した貂子は、ガバッと急に立ち上がった。
「どうした?テン。何か名案でもあるのか?」
「現在の『呪い』と過去の灯宮さん、このまま考えても埒が明かないってこと!」
「・・・そう言いましても、それ以外の何でもないんだが?」
すると彼女はお得意の悪だくみをする子供のように、ニヤッと笑った。
「『呪い』の過去と灯宮さんの現在を徹底的に調べあげるの!」
文字通りの逆転の発想。
そうと決まれば、と学生カバンを肩にかけ貂子はスマホを取り出しポチポチし始めた。
「お、おい。何するってんだ?」
スマホの操作を終え、雑にジャケットのポケットに突っ込んだ。
「さぁて、行くわよ!」
「はぁ!?どこに・・・これからか?」
貂子は既に玄関にしゃがみ込み背中を向けている。ローファーを履くのに苦戦しているようだ。玄関狭くて悪かったな。
「これからって、まだ日も暮れてないわ。とにかく付いて来なさい!」
「お、おう・・・」
特に準備することも無いのだが、何もかも急すぎて慌ててしまった。
とりあえず財布とケータイさえあれば大丈夫そうだが、いったいどこに行くのだろう。
その前にオレにはどうしても貂子に聞いておきたいことがある。
「テン、ちょっと待ってくれ!」
「なに?アタシ待つの嫌いなんだけどっ」
これだけは聞かないと気が済まない。
水原灰二というひとりの人間としてだ。
「どうしてオレの正体が分かったんだ?」
「正体って・・・アンタ吸血鬼かなんかなの?太陽ダメ系?」
「違うっ、オレという人間の本質がどうして分かったんだってことだ!」
貂子はドアノブに手を掛け、三分の一ほどドアを押し開いたところで止まった。
「そんな大袈裟なことじゃないわ、ちょっと似てただけよ」
「似てた?」
「・・・いいでしょなんだって。アンタ男のくせに遅いのよ!早くして置いて行くわよ!」
「わっ、わりぃ!今、行く!」
行く先も分からないまま部屋を飛び出し、小走りする小さな背中を追いかける。
雨はあがっていた。彼女は水たまりをピョンピョン避けて行く。
何か不思議な力に導かれるように、ひねくれ者のはずのオレは真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ走った。
真っ暗闇で独りもがき苦しんでいたオレに突如差し込んだ一筋の光。
白衣貂子がこじ開けた一線を踏み違えないように。
希望をもう二度と見失わないように、離れないように。
「テェン!待ってくれぇっ!」
なりふり構わず、ガムシャラに走った。




