獣の化身と大地の化身
獣が山を駆ける、爪を、牙を突き立てて
違う 「ガッ!」
違う「グギャッ!」
違う「助け…ッ!」
どいつもこいつも、あの男と同じ匂いを漂わせておいて、何故こうも違うのか…
土くれの味すら変わらないというのに…
「人形遊びは十分でしょ?山陰リトオ」
獣の本性とは別にタンとしての理性がそう判断した。
口から先ほどまで動物だったものを吐き出す、それは土になっていた。
大木の裏からパキパキと木の枝や木の葉を踏み現れたリトオは傷ついているリスに軽く包帯を巻いて逃がすと
「……閻魔のバイトとしては君を捕らえて情報を聞き出すほうがいいんだろうけど…」
リトオが足を踏み込むと地面が隆起しタンを飲み込みにかかる
「ここを荒らした君を、俺としては殺してやりたい」
山の様子を見に来たらタンが山の仲間たちを傷つけ山の中を荒らしていた、それだけでリトオにとっては逆鱗を連打されるようなものだった。
「ワタシに負けた土くれ程度で勝つ気なんですか?」
隆起する地面から木に飛び移りタンはそう言った、あくまで煽る、上はこちらだぞ、と。
「あの時とは場所が違う」
そう言ってリトオは強く足を踏み込む、地面が形を変えて槍状の人体を容易に貫けるほどの硬さを持った土の槍が何本も現れる
「ここからは、狩りの時間だ」
槍を掴みリトオは投げる、槍投げの選手顔負けの速さと威力。
「どちらが狩る側なのか、理解させてあげます…よ!」
タンは爪をたてて土の槍を切り裂くと木の枝を蹴りリトオめがけてほぼ急降下のように飛ぶと、爪をリトオの首に突き立てる。
「どうしました?雑魚なのは変わらないんですか?……なっ」
リトオの体が土の塊となって崩れると同時に
「狩られるのは君だよ」
そうリトオが囁く声がタンに届くと同時にタンの腹を土の槍が貫いた。
「ぐぅ゙っ゙!」
タンはうめき腹に口を出現させて槍を食べると核のエネルギーを利用して傷を再生させると後ろへ回し蹴りを繰り出す、足から口を出現させて食らうことでダメージを稼ごうとしたそれは、空気を食らって終わった。
「……どこへ…」
タンはきょろきょろとあたりを見回す。
「ここだ」
タン真横あたりからリトオの声が聞こえるとタンの足元がガコッと円状に深い穴が開き、飲み込んだ。
「俺はここにいたぞ」
と言い土の槍を深い穴に落ちていったタンめがけて投げつけた、槍は加速度的に勢いを増していきタンの腕の防御すら意に介さず腕ごとタンの体を貫いた。
「ぎゃぅ゙っ!」
「さぁ、あと何度攻撃すれば、抵抗しなくなるのかな?」
そう言ってリトオは何本も土の槍を投げ込む、タンの体は穴がどんどん空いていく。
「ぎゃぁ゙っ!…がぁ゙!…な゙め゙る゙な゙ぁ゙!」
墓地での戦いからリトオは学んでいた、タンに関しては図体を大きくするだけでは意味がない、なんなら当たり判定が大きくなるから食われやすい。
それ故に土で自分そっくりの土人形を作りそれに視線を向けさせながら土で作った槍などで直接攻撃は避ける。
伊達に生まれてからの半生を戦いに使ってはいない。
墓地での戦闘が初めてであったタンとは経験値が違いすぎた。
タンが地中を喰らい始めた。
トンネル状に掘っていき地中から外へ出ると、空気を両手と両足で喰らって空を駆けてリトオへ迫る。
リトオは土の槍を投げつける、それをタンが喰らって突き進む。
獣の本能に身を任せて、タンは駆ける。
リトオは少しずつ下がっていく、背は向けずに土の槍を投げながら。
「ウラァ゙!」
迫ってきたタンの横っ面にハイキックを食らわせる。
蹴られたタンの体は大木に激突した。
轟音と共に大木にヒビが入る。
タンの体が木から落ちると何とか手をついて、四つん這いで立つ。
タンは体に空いた穴を何十とある核の力を流用して治していく。
理性がこのままではジリ貧だと思っていても体はそんな理性を置いて走る。
「がぁ!」
タンがリトオの足に噛みつこうとして閉じた口には何も入ってはいなかった。
「オラァ!」
リトオの踵落としがタンと地面に熱い口づけをかわさせた。
地面はタンの顔の形にへこんだ。
タンは血だらけの顔の傷を直して血を拭うと蹴りを食らわせようとする。
凄まじい速さ、だが。
「届かないよ」
その言葉はタンの後ろから聞こえてきていた。
タンの後頭部に強烈な打撃が叩き込まれた。
「うっ…」
ふらつきながら後ろを振り向くと無傷のリトオが立っていた。
「君は墓地で手の内を明かし過ぎたんだよ、強いからかどうかは知らないけど、舐めるんじゃない」
最後のドスの効いた声がタンに届いた。
リトオの目、有利に立とうとも、その目は油断なくタンを見つめていた。
「そんなの…そんなの…関係ない!」
そう叫んでタンはリトオに殴りかかる、リトオはそれを触れることなく華麗に避けていく。
一撃たりとも受けてはいけない、最初の段階で作っておいた槍はすべて使い切り、新しい槍を作る暇もない、土人形も同様のため、地道な格闘戦で削っていくしかない。
拳を交わさずに避けつつタンの意図していない位置に拳や蹴りを叩き込み地道に勝利の階段を登っていく、危ういバランスの階段を。
タンの拳がリトオの頬をかすめた、リトオの頬が抉れた、食われたのだ、タンに。
「ん〜おいし~貴方の味とっても美味しいわ、まるで何十もの肉が凝縮されたよう、なんとも言えぬ独特の苦味もあれば、ヒレ肉のような柔らかさ、に霜降り肉のような絶妙な脂肪、なんて素晴らしいのかしら。こんなお肉と出会ったことはないわ!」
突然調子よく喋りだし、楽しげに食レポを繰り出し始めた。
何故か食レポと共に繰り出してくる拳の速さが増えていく。
「気持ち悪い、食レポを、やめてくれ!」
そう言ってより激しさを増すタンの拳を避けていく、これ以上食われるのはだめな気がした。
「あら、気持ち悪かったかしら?でも事実よ、血抜きされてない肉の段階でこれなら、血抜きしたらとっても特別になりそう!」
と言いながらも血抜きする気なんて全くないタンは全力で攻撃していく。
「あいにくと食用肉になる気も、なる予定もなくてね!」
タンの放った右フックをリトオはバックステップで避けて距離を取り、2人とも肩で息をしていた。
「…少し…疲れましたわ」
「…そうかい…帰ってもいいんだよ?帰すつもりはないけど…」
そう言って足を踏み込ゆんで再度槍や土人形を出そうとするリトオにタンは急接近して拳を叩き込もうとすると
「あっぶな!」
間一髪でリトオは避けることに成功し、拳を構えた。
「そんなことさせると思いまして?」
タンの口調が落ち着いてきている、少し余裕が出てきたのであろうか。
リトオはそれを少し面倒くさく感じていた、理性のない獣であったなら、完全に有利を取れただろうに、今の状態ではより慎重にいかなければならなくなってしまった。
少し後悔しつつも攻撃に転じようとしたとき。
「はいストップ」
2人の誰でもない声が聞こえてタンもリトオも止まった。
空から片眼鏡をつけた長い白髪をふわふわと浮かべながら全体的に白い中華風の服を纏った白澤が降りてきた。
「こちらの計画外の動きをされたら困るだろ?タン」
そうタンを親が子に注意するように窘めた。
2人とも体を動かそうとした、が。
「動か…ない…」
まるで全身をピン留めされたかのように身動き一つ取れなかった。
「リトオ君も、ごめんね、うちのコが暴走しちゃって。あぁ、僕に敵意はないよ、今はまだ計画を実行に移すタイミングじゃないし」
白澤はタンを優しく抱き上げて何か指を動かすと空間がひび割れて通路が出てきた。
「何か詫びとして、そうだね、情報を一つ、伝えておいてあげる。君たちの居る万屋【閻魔】にはこの世で最も重要なものの一つがある、僕たちはそれを奪いに行く。それだけは、教えてあげる」
そう言って白澤はタンを抱き抱えて通路に消えていった、白澤が通路の中に入り切るとひび割れがなくなり元の空間に戻っていた。
固定されていた力がなくなり、リトオは尻もちをついた。
「なんだ…あれ…」
そう小さく呟きながらリトオは対策がないかを過去の記憶から先ほどと似た事例をあさっていた、油断ない奴である。
リトオは久しぶりに正当な命の奪い合いと言えるような戦いを止められたことと情報源を手に入れられなかった悔しさと、またさっきのような勝負ができるかもしれないという高揚感、それと明らかに重要な情報を手に入れることのできた喜び、等の様々な感情がごっちゃになっていながらも、とりあえずは万屋へ帰ることにした。
一方その頃、通路内で
「タン、今回は許す、けど次同じような暴走をしたら、自我が残ったままでいられると思うな、エネルギーだって無限ではないんだ」
白澤の言葉は冷たく重かった。
「…はい」
少ししょげつつタンは言った。
「僕は君に期待している、君がしっかり言う事聞けるなら、またリトオと戦わせてあげるよ」
テストでいい点取れればおもちゃを買ってあげる、と言うかのように白澤はタンに言う、タンが断るはずがないと知っているから。
「いいの!?」
思ったとおりにタンは餌に食いついた。
「いいとも、しっかり言う事聞けるならね」
あのご馳走にまたありつけるかもしれない、と夢心地のタンにその言葉は届いたのだろうか、おそらく届いていないと気づき白澤は苦笑した。
カツン、コツン、と足音を鳴らしながら黒い通路をやけに白い男とその男に抱き抱えられている幼女がどちらも少し笑いながら歩いていた。
なるべく週1は出していきたいです。
月に1回は必ず出します。




