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混血のバイト  作者: ルト
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人妖病院 2

痛む体を叱咤して走った、ひたすらにただひたすらに走り続けた。

少し離れた病室、普通ならば歩いてでもすぐに着く程度の距離。

その距離が今は千里の距離にも感じる、己の身体が思うように動かない。

悪い予感はしていた、店長の姿を見たときから。

店長の治っていない足も今の俺の体を止めようとするこの痛みも、トウカのあの喉も全て、ソータがいるのならあるはずのない怪我。

店長とトウカの話によればソータは数千、数万年もの時を進められたという、その元凶は撃破され桜に吸収、さらにあの桜が人型になったのはそいつが関係している可能性があるとも聞いた。

目の前にある扉に手をかける、全身の痛みなどお構いなしに扉を強引に開く。


「ソータ!」


俺の呼びかけに応える奴は、応えて欲しい奴は、ベッドに寝ていた。

すやすやと寝息や寝言が聞こえてもおかしくないようなそんな顔をして。


「おや、ソータのバイト仲間かい」


「あぁ、あの、たしか…ロクさん」


「そうさ、よく知ってるね」


「ソータがよく話してたから」


ソータの横に座っていたおばあさん、ロクさんは俺に隣の椅子に座るように言った。

そしてロクさんは少しずつあの時の話を聞かせてくれた。

摩訶不思議な、万物を若返させる少女と万物を老いさせる老人と戦ったという話だった。

その一部始終を語り終えたロクさんは俺に


「安心しなさい、コウジくん。ソータは起きるよ」


必ずね、とそう言うロクさんは慈しむようにしてソータの頭を撫でた。

その表情は友人や近所の子供に向けるような顔とは違い、大切な息子を見るような、そんな顔をしていた。


「あの、ロクさんにとってのソータって」


「大切な子だよ、なんてったってあたしの息子にそっくりなんだから」


「息子さんって、先代のろくろ首の?」


「あぁ、あたしよりも先に死んだ馬鹿者さね」


「ソータとその人が似てるって」


「あの子もソータも本質が同じなんだよ」


その言葉によって病室に訪れる静寂、俺の心臓の鼓動も喉を鳴らす音も、全ては誇張されすぎたように俺の耳を震わせる。


「その2人の本質って」


「自己犠牲の精神さ、あの子もソータもどこまでも己を捨てて他の子に尽くそうとする。あの馬鹿息子は一人娘のむつのために能力を使わず店長さんと通じて町を守れる下準備をした、ソータも人を癒やすために己の能力を遠慮せずに使う、例え敵に囲まれてても仲間を守るためにほかの全てを投げ打ってでも能力を使うのだろう」


俺は先代ろくろ首のことをよく知らない、万屋にやって来ることもなければ、噂も聞いたことがなかった。

会っていたら一体どんな話をしたのだろうか、どんな関係で出会ったのだろうか。

お客様としてだろうか、敵としてだろうか、それとも共に肩を並べる戦友となることもあったのだろうか。

そのどれも叶わない、死んだものは生き返らないのだから。

だから、大切なものを生かすために病院がある。

だから、大切なものを守るために力を欲する。

何も失いたくないと言って何の努力もしないものからふるいにかけられていく。

そのふるいにしがみつくために、他のものを守り抜くために、俺は力をつけなければならない。

そう思う者も少なくはないはずだ。


「そうですね、ソータは自分はどうなってもいいなんて考えるバカです、だからこそ、誰よりも人を守れる。そんなバカです、そんなバカが俺の仲間です」


「そうかい、それはいいことを聞いた」


「うんうん、まさかぼくもコウジが僕をそんなふうに思っていたなんて思わなかったなぁ!」


「そうですかね…って、はぁ!?」


俺が俯いていた顔を上げると視界には起き上がったソータとロクさんが微笑んでいて、後ろから聞こえるデジタル音に振り向けば店長とトウカ、それにサングィス家の当主とミアちゃんが動画を撮っていた。


「謀ったな…」


「じゃじゃーん!ドッキリ大成功!」


と言いその言葉通りのプラカードを持つソータの頭に傍にあったハリセンで一撃を入れる。


「あいた!」


「この程度で許してやるから、これからはもうこんなことするんじゃねぇぞ!わかったな!」


泣きそうな気分だ、これが嬉し泣きなのか悔し泣きなのかよくわからない、ただ、怒らないとこの感情は溢れ出してしまうだろう。


「はいはい」


「慰めるんじゃねぇ…」


俺の背中をさする手が温かい。

それは少しづつ増えていき俺の感情が静まるまで、数分間続いた。


俺が落ち着いた時に種明かしをしてもらった。

店長の車椅子は普通に演技でソータによって治ったあとだったこと。

トウカの喉は元からそんな怪我などしていなかったこと、掠れた声は俺が起きたとき辺りでハバネロを十個一気に食って出したということ。

ミアちゃんは普通に喧嘩して家を飛び出してきたこと。

最初から最後まで俺のことは撮影されてたということ。


「いや、トウカはこんなことにかける元気の方向性が違うだろ?それにミアちゃんは大丈夫なのか?普通に家を飛び出してきたなんて」


「ミアに関しては僕がいるからね、逃げられることはないしそれに、妻の説得は俺の仕事だからね」


「私はあの人とはお話しないわ、だって…苦手なんだものあの人」


「こらこら、自分のお母さんをあの人って呼ぶのはやめなっていつも言ってるだろ?」


「だって、私は嫌いなんだもの、あの人とは遺伝子的に合わないのよ、あ、お父様のことは尊敬してるわよ?」


あの人を選んだこと以外はそう呟くミアにその場にいた誰しもが戦慄したのは言うまでもない。


そして少し話すとその場は解散となりまた後日正式に会議のようなものを行うことになった。

関係者を全てできる限り呼び集める形で。

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