表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/190

152妖精はすべてを見ていた。(アリエル)

 

 アリエルです。

 妖精はすべてを見ていました。


 それが真実だったのです。

 隣にいる霞も声をかけることが出来ません。だってタツヤは、タツヤは……、ずっとずっとずっと、ずっとずっと転生を何度も繰り返してきて、ようやく好きだったあの人と、再び出会えるチャンスだったかもしれない。なのに……。


 もちろん、踏切での出来事もそうです。

 それに、タツヤと出会って以来、タツヤがあの霞という女性と出会って、そして、霞が転生者ということがわかってから、どれだけの想いを寄せていたのかもよく知っているのです。


 タツヤは孤独でした。

 タツヤは転生者、何度も何度も、生きては死を迎えて転生するという人生を、何度も何度も、繰り返しているうちに、普通の人間の感覚というものを失っていたのでしょう。


 ただ、その時を生きる、という単調な作業の繰り返し。

 そうやって、タツヤは何度も人生を繰り返してきたのです。


 けども、タツヤが霞と出会ってからというもの、その人生は少なからず変わったはずなのです。

 タツヤが転生する以前に、会いたかった先輩、その先輩に瓜二つの女性が目の前に現れた。

 それが、タツヤに僅かながらも希望を与えたずなのです。それまでの、ただ生きるだけという目的も何もない単調作業から、少しだけ生きるための目的が見出されたはずなのです。


 そして、さらに彼女はただ似ているだけでなくて……、霞さんは転生者でした。


 その事実がどれだけタツヤの人生に大きく影響を与えたことでしょう。

 それまでであれば、あの人と、霞はよく似ているだけ、という言い訳が出来たのです。

 けども、その事実を知ってしまったからというもの、言い訳なんて出来なくなったのです。

 タツヤは、霞は、『あの人が転生した姿かもしれない』、ということを信じようとしました。

 いえ、違いますね。

 タツヤは長年、ただ生きては転生する、だけという人生を過ごしていたのです。

 そんな人生を過ごした彼からすれば、その事実は彼の生きる希望のはずなのです。何もない単調な世界に花開いたたった唯一の希望なのです。それは、『かもしれない。』などではすまされない。『霞は、あの人が転生した姿』であることが事実でなければならなかったのです。


 だけど、彼は弱虫だったのです。


 なので、かつて一度だけ、その事実を確認する機会があっというのにもかかわらず、彼は自らチャンスを逃しました。


 けども、そんな情けない彼にあたしが喝をいれたやったことも、

 彼が霞をラビリンスのギルド裏に呼び出して、告白したことも、

 彼がアイギスの居城で夜、霞と語らったことも、

 彼が満天の星空も下で飛空艦の甲板上で霞と語らったことも、


 そのすべてを妖精は見ていたのです。

 まぁ、すべてというか、ほとんど覗き見ですけど、でも、あたしはそれで弱虫だった彼の決意が固まっていく様子をちゃんとこの目で見ていたのです。


 そして、朱音。彼女は誘ってもいないのに勝手にこのグループに入って来た人物でした。けども、彼女はある人物ともう一度会うという彼女自身の夢がありました。そして、その夢を自らの力で、彼女の会いたい人に出会ったのです。彼女は自らの手で成し遂げたのです。


 その事実がどれだけ彼の背中を後押ししたことでしょうか。


 妖精はそのすべてを見ていました。

 彼の努力と勇気、そして、彼の心が徐々に希望に傾ている様子、そのすべてを妖精はちゃんと見ているのです。

 だから、妖精は知っているのです。


 これまで、ただ生きるだけだったの人間が、希望を持ち、そして、心を決めて、自らの行動でその真実を知ったというのに、その真実はあまりに残酷だったとき、

 どれだけ悲しい気持ちになるというのでしょうか。

 どれだけ落胆が広がるというのでしょうか。

 どれだけ失望するというのでしょうか。


 彼は何度も何度も繰り返し繰り返し、生きては死ぬという転生を繰り返してきたのです。

 回数にして何十、何百なんていう単位ではないはずなのです。

 年数にすれば、それは、無限とも思える期間であったでしょう。それだけの年数が経てば希望なんてなくなります。


 でも、この今回の転生ではたった唯一の希望を見つけたはずだった…。

 その結果が、これなのです。


 運命はあまりに残酷なのです。悲しすぎるのです。

 普通の人ですら、立ち上がることはできないでしょう。


 彼にとっては、何年、いや、もう何万年、何億年と待ち望んだ希望。それがこれです。これなんです。


 あたしも、このときほど、運命というものを憎んだことはないでしょう。


 あたしは妖精。妖精は人々の想いでできた純度100%のピュアな生き物なのです。

 それは時に恋のキューピットですら出来てしまう程のピュアな生きもなのです。


 けど…、ですね。妖精も万能ではないのです。出来ることと出来ないことはあるのです。

 どんなに、妖精の力が凄くても、この真実を変えることだけでは出来ないのです。


 あたしは、妖精アリエル。

 妖精とは、なんて非力な生き物なのでしょうか。この事実を変えることもできない。

 妖精にできるのは、ただ、その後ろ姿をただ見つめることだけなのです…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ