104この大穴を前にして(タツヤ)
目の前の赤髪の女兵士は、頬に一筋の涙をこぼしながら、ボソッと口を開く。
「ベベル、、、セイイチ、、、ババア、、、」
おそらく、ババアというは、アイリス=クロニエルのことかもしれないが、知り合いなのだろうか。
「知り合いか?」
「えぇ、ベベルゼルドとは知り合いであります。彼とは約束したのであります。もう一度会おうと。」
目の前の赤髪の兵士は、頬を伝う涙を袖でふき取った。
「教えて欲しいであります。どうやってこのグローリーホールの攻略したのでありますか?」
俺と霞は顔を向き合わせる。正直、アリエルの存在はあまり人には見せたくない。希少な虫だ!とかいって捕まえられるのが目に見えているのだが。。。
「えっへん!!あたしのおかげ様よ。感謝するのです!」
と、アリエルが魔術を解除して、堂々と姿を現わしているではないか。
おい、ちょっと待て。
一応、周りを見渡すが、ちょうどいい感じで岩陰で隠れていて、周りには見えてない。
「あっ、虫。」
赤髪の兵士はRGF社特性の自動照準機能付き小銃を取り出す。
ピーッ、と照準があったときの音がすると。
「待て待て待て、、、」「待って待って待って、、、」
と慌てて、俺と霞で目の前の兵士を止めるのだ。
「おい、アリエル!!」
「大丈夫なのです。ここなら岩陰で誰からも見られないのです。」
「そうじゃないって。」
「あの小銃ぐらいなら余裕でバリアで対処できるのです。」
「だから、そうじゃないのよ。」
そんなやり取りをしているうちに、赤髪の兵士はドン引きし始める。
「えっ、虫が喋ってるん、、、だけど。えっ、キモっ。。。あなた達、虫と友達なの?」
なんとなくだが、その態度はよくわかる気がする。
アリエルは赤髪の兵士の真ん前に浮遊し、手を広げながらくるっと一周する。
「ちょっと、よく見るのです。この美しい羽に華奢な体。そして、この可憐な存在。そう、この世界に妖精はいるのです!」
「なんか体が半透明なんだけど。」
「それは、、、谷より深く山よりも高い理由があるのです。」
赤髪の兵士は小銃を下ろした。
「ふーん、よくわからないけど、この虫の魔術で下まで行くことができたというのでありますか?」
「そうなのです!このアリエルに任せるのです。というか、虫じゃなくて可憐な妖精なのです。」
赤髪の兵士の様子はまだ、半信半疑の様子であった。
赤髪の兵士は、アリエルのほうではなく、こちらを向いて話す。
「ふーん。。。ねぇ、お願いであります。自分をこのグローリーホールへ連れて行ってください。自分は、彼、ベベルゼルドと会う必要があるのであります。お願いします!」
「ちょっと。どっち向いているのです。ふん、このあたしにお任せなさいな!」
アリエルは堂々と、浮遊しているが、再び、俺と霞は顔を向き合わせる。
確かに、グローリーホールの地下に、ベベルゼルドと書かれた置き手紙はあった。
だが、その先に、人はいなかったのだ。
兵士は再び、頭を下げる。
「どうか、お願いします!」
霞が前に立つ。
「ちょ、ちょっと、顔をあげて。ねぇ、聞いて頂戴。あたしたちが見つけたのは置き手紙だけなの。その先に人がいる様子はなかったわ。だから。グローリーホールの底に行けたとして、そのベベルという人たちと会えるとは限らないのよ。」
「えぇ。わかってます。確実ではないのは十分わかってます。だけど、ここに残って確実に会えない世界よりも、1%、0.1%、いや、それ以下でも、ゼロでないなら、会えるかもしれないチャンスが僅かにでもあるなら、あたしはそちらを望みます。ここで、チャンスを逃せば、もう、ないのです。ならば、危険を侵してでも、あたしは、この大穴を下りたい!お願いします。どうか、一緒に行かせてください。」
俺と霞は再び、顔を見合わせるが。
「まぁ、付いてくるぐらい、いいんじゃないか?」
「まぁ、そうなんだけど。」
「なぁ、RGFの兵隊さん、名前は?」
そのとき、赤髪の兵士は、今までにないほどの笑顔を見せた。
薄暗い洞窟に、わずかに照らす光が彼女のショートの髪を照らすが、光の反射のためか、いつもよりもキレイに赤く映えたように見えた。
「RGF社なら辞めます。あたしはもうRGF社の兵士ではありません。『ただの』朱音と言います。」
―――
その後、少し時間は経過するが、そのとき、ふと俺は思ったんだ。
朱音の言葉、
『確実ではないのは十分わかってます。だけど、ここに残って確実に会えない世界よりも、1%、0.1%、いや、それ以下でも、ゼロでないなら、会えるかもしれないチャンスが僅かにでもあるなら』
その言葉は自分にも当てはまるんじゃないかと。




