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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【1】ハグレモノ案件
3/27

1-3 出撃

 シロガネの死神腕は、吸い取った生命エネルギーを自身のために活用する。

 ステータス強化の魔法と同等の効果が永続的に発現しているので、人並み外れた動きが出来るし、怪我を負っても短期間で回復する。

 何より異常な能力を発揮するのが右腕で、自身の体重より重い武器を軽々と持ち上げ、自在に振り回せる。

 自分より大きなグレートソードを右腕で担ぎ、意気揚々と部屋を出るシロガネ。

 だが……

「ちょっ、ちょっと先輩! 床引きずってますよ!」

「うん、気をつける」

「そんな、担いだまま振り返っちゃダメですって! 壁に傷が~っ!」

「うわっ! ど、どうしよ」

「廊下の天井に穴がっ!!!」

「ぎゃ~!!」

「大家さん自慢のツボがぁぁっ!!」

「ひぃぃぃ!!」

 このグレートソード、実は最近手に入れたばかりで、シロガネはほとんど装備した事がない。取り回しに慣れていないせいで、進む度にどこかにぶつけてしまっているのだ。

 廊下も別に狭いわけではない。周囲に気をつければ問題無いはずなのだが……。

 いかにチートな死神腕でも、シロガネの"不器用"までは直せないようだ。いや、むしろ強化されている?

 死神腕の名は伊達じゃないという事か。シロガネが廊下を進む度に何かが壊れる音が響く。

 そこに、部屋から飛び出してきたライオ隊長の雷が落ちた。

「何やっとるかシロガネ~~~~!!!」

 野獣のような咆哮が寮内に響く。仏の隊長も流石に我慢の限界だったようだ。

「ご、ごめんなさい~~~~!!!」

 二人は大慌てで走り出し、玄関から外に飛び出した。 


「あらあらあらあら♪ シロ坊じゃないか♪ 久しいねぇ♪ 元気にしてたかい?」

「あれ? ばあちゃん? どうして?」

 王宮戦士の寮の前では、いかにも魔女といった装いの老婦人が待っていた。穏やかなオーラをまとい、シロガネに笑顔を振りまいている。

 大魔道士ベロニカ・ベルトチカ老師。王宮魔道士の一人で、シロガネにとっては幼い頃からの知り合いだ。

 ここ数年は魔法の研究に専念していて、"タルタロス"に篭もりきりだと聞いていたのに、こんなところに何故?

「それがねぇ、グリゴリに頼まれちゃったのよ。『緊急事態だから王宮戦士を転送してくれ』って。ほら、グリゴリとはアタシが美少女魔法使いだった頃からの腐れ縁でしょ? 若気の至りで"赤い糸"を結んじゃったままだから、不本意ながら手伝う事にしたのよ♪」

「へえ。そうなんだ」


 事件の現場に駆けつける方法はいくつかある。

 地上を走って直接現場に向かう。自力で向かえる。

 飛行術で空を飛んで直接現場に向かう。自身に能力が無ければ魔法使いに頼る事となる。

 転送ゲートで現場近くの村まで跳び、そこから現場に向かう。村まではひとっ飛びだが、現場への移動で手こずる。

 …等々。

 今回の現場は、どの方法でも応援の到着に時間がかかる。しかし現場にいるラズ老師は時間の余裕が無いと判断。

 "赤い糸"という特別な契約、もしくは呪いを結び、様々な能力を共有するベロニカ老師に協力を申し入れたようだ。

 二人の習得した転送術は、人や物を直接相手の側へ送り込むという特殊な魔法だ。

 例えば、Aが敵陣に潜入する。中央に辿り着いた時点で、Bから武器なり兵なりをAの元へ転送する。

 簡単に敵陣の殲滅や占領が出来てしまうわけだ。

 ただし、BがAの正確な座標を把握してなければ転送は出来ない。

 "赤い糸"を結べば簡単に把握できるようになるが、"糸"は一人としか結べない上、相手の秘密を全て知る羽目になる。

 その結果、愛し合う二人が殺し合いを始めるという悲劇が度々起きた。

 今でこそ笑い話だが、二人の老師も若い頃にガチの殺し合いをしたらしい。

 そのため"赤い糸"は現在、禁忌扱いなのだそうだ。


「早速だけどシロ坊、送り出してもいいかい? 積もる話はあるけど、グリゴリがうるさいからね」

「あっ! そ、そうだばあちゃん! 壊れた物って魔法で直せるよね! お願いできる?」

「あはは♪ さっきの怒鳴り声はそう言う事かい♪ いいよ、いいよ。ばあちゃんに万事任せときなさい♪」

「シロガネ先輩! 虫退治、よろしくお願いします!」

「うん。じゃあ、行ってくるね」

 ベロニカ老師が杖の頭で軽く触れると、シロガネの視界が一気に歪む。

 気がつくと風景は変わり、目の前にはベロニカ老師の代わりにラズ老師が立っていた。

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