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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【1】ハグレモノ案件
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1-1 少年シロガネ

 四階建ての屋敷の屋根の上。そこに少年はいた。

 屋根上からの見晴らしは最高だ。街の中央には大きな城が建っている。美しくてカッコイイ。

 遠くを眺めれば、そそり立つ城壁の向こうに山脈が見える。とても広大で惚れ惚れする。

 下を見下ろせば、人々の平和な日常が繰り広げられている。遠目で見る分にはみんな幸せそうだ。

 だけど少年はそこに行けない。みんなの側にはいられない。命を奪ってしまうから。

 少年の右腕は、"死神腕"と呼ばれていた。

 肩から指先にかけて包帯が巻かれているのは、誰かにうっかり触れさせないためだ。

 死神腕は、触れた物を劣化させる。長時間部屋に留まれば、室内の空気をも腐らせる。側にいるだけで危険なのだ。

 だから少年は、非番の時はいつも屋根上にいる。眠る時以外は、雨でずぶ濡れになろうと、北風に凍えようと、頑なに居続ける。

 そこなら誰にも迷惑をかけないから。そこだけが少年の居場所なのだから。

 寂しいと思った事はない。側にはいつもクロガネがいる。双子の弟がいる。少年は独りじゃないのだ。

 そう……。独りなんかじゃ……ない。


「シロガネ先輩! あれ? いねぇ…。センパ~イ! どこッスかぁ~?」

 突然の呼び声で少年は我に返った。何事だろうと下を見ると、屋根裏部屋の窓から赤毛の青年がひょっこりと顔を出す。

「なぁんだ。シロガネ先輩、また屋根っスか~♪」

 メラメラと燃える炎のように逆立った髪型の青年が、ニコリと笑顔を見せる。その名をエンジャと言う。

 20歳くらいの青年なのに、いつも敬語で話しかけてくるので、シロガネはいつも困惑している。

 エンジャは冒険者時代に名を馳せた一流の炎使いだが、王宮戦士としての活躍は一年程度の新参者だ。

 対してシロガネは、推定年齢13歳ながら、5年前から王宮戦士として活躍する中堅だった。

 つまり「先輩を立てるのは当然ッス!」というわけだ。もちろん、それだけではないのだが。

「どうしたの?」

 シロガネが問うと、エンジャはスルスルと屋根上に登り、シロガネの前で深々と頭を下げる。

「ホントすんません! オレの代わりに出撃してくれませんか!」


 出撃!?


 その言葉にシロガネは緊張が走った。

 シロガネに出撃命令が下るのは、よっぽどの事が起きた時だ。この国を揺るがす一大事が進行中なのか。

 ………いや、違うか。

 エンジャはシロガネに「代わりに出撃して」と言った。

 つまり、大事ではない……のか?

 エンジャの炎の能力は、煙草や蝋燭への着火から、岩を溶かすほどの灼熱地獄まで、臨機応変に火力を変えられる。

 対してシロガネの死神腕は加減ができない。結界魔法で無理矢理押さえ込まなければ、日常生活すらまともに送れないのだ。

 にもかかわらず、エンジャはシロガネに「代わりに出撃して」と言った。

 つまり、大事が起きている……のか?


「正直、詳細は現場に行かないと分からないんッスが、任務ははっきりしてます。"掃除屋"退治ッス」

「掃除屋? 掃除屋って……森にいる、あの掃除屋?」

「その掃除屋ッス。森にいるはずの掃除屋が、村の近くに巣を作ったんッスよ! つまり、ハグレモノッス」

 予想以上に大事だった。

「オレが行ければいいんスけど、ダメなんス! 無理なんス! 怪物や化け物ならヘッチャラなんスが、虫だけはっ! 虫の類だけはっ!」

 いい年した青年が、幼い少年に涙目で訴えていた。どうやら本当に苦手なようだ。

「うん。分かった。ボクがやるよ」

「アザースッ!! この借りはいつか必ずお返ししますのでっ!!」

 エンジャは屋根に額を叩きつける勢いで頭を下げる。

「そう言うのはいいってば。それより……現場に魔道士はいるの?」

「大魔道士のラズ爺さんが先行してるって話ッス」

 額をさすりながら答えるエンジャに、シロガネはホッと胸をなで下ろす。

 よかった。じいちゃんがいるなら安心だ。もしもの時は何とかしてくれるだろう。

 そうと決まれば、善は急げだ。

 シロガネは急いで屋根裏部屋に戻り、出撃の準備を始めるながら、心の中で祈った。

 どうか、犠牲者が出ていませんように…。

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