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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
二章 龍宮の養母
20/45

20.王子様の卵

妊娠、出産に関する内容が一部あります。



微妙な空気を換えるように朗が口を開く。


「ああっと、それじゃあ蒼さん、こいつをどこかに移すのか?」


「えっ 」 幸羽があわてて顔を上げる。


「とんでもない。こんな理想的な場所にいるのに。 富貴恵さん、こちらに置いてもらってかまいませんか?」 

いつの間にか部屋のすみにいた富貴恵に蒼聖が声をかける。


「もちろんですよ。 幸羽ちゃんはもう家の人だし、王太子殿下の産屋に選ばれるなんて光栄だわ」 富貴恵が微笑む。


「助かります。ここにいたから今まで見つからなかったんだな。守りが固いから玉の光も漏れなかったんだろう。 ああ、まずは連絡を入れるか」 蒼聖は部屋を出て行った。


「はあ、よかった。 もう、冗談じゃないわ! この上、どこかに行けなんて言われたら… 」

また、ぶつぶつ言っていた幸羽がはっとしたような顔をして富貴恵を見る。


「と言うことは、もうすでに私のお腹の中にその卵があるという事ですよね?」


「そうね」 


「それじゃあ、私のお腹が出てきたのは食べすぎで太ったんじゃなくて、その所為ということ?」


「そうかもしれないわね」 富貴恵がおかしそうに答える。


「よかった。これで心置きなく太郎ちゃんとおやつが食べられるわ」 嬉しそうに言う幸羽に朗があきれた。


「おいおい、まず気にするのはそこかよ」


「あのね、幸羽ちゃん、君はすごく偉い人になったんだよ。宝くじに当たる所じゃない確立で選ばれたんだから」  歩が笑い混じりに言い、良太は首をひねる。


「王子様だもんな、よくわかんないけど凄いんじゃない?」 


「だってそんなの、全然ぴんとこないんですもの。 私にとってはウエストの膨張のほうが大問題なんです。それに、私がおやつを一緒に食べないと、太郎ちゃんが気にするし」  幸羽はため息をついた。


 今まではたまにしか姿を見せなかった太郎が、最近はおやつの時間に毎日出没?するようになっていた。


「まさか、お嫁に行く前に出産することになるなんて! そりゃあ最近はそんなに珍しくないかもしれないけど…… よりによってこの私が他人様の、しかも卵を産むことになるなんて思ってもみなかったわ」


「違うよ幸羽君。君は卵を産むのではなくて、王太子殿下を赤ん坊の形で産むんだよ」

連絡を終えた蒼聖が戻ってきて訂正した。


「どっちも産んだことは無いから同じです。というか、私とその龍国の女性とは体の造りが違うと思うんですけど、大丈夫なんですか? いきなりお腹がぱっくり割れるなんてことにはならないですよね」

自分で言いながら幸羽は、こちらの医療事情はどうなんだろうと不安になる。


「安全に取り出せる方法があるから大丈夫だよ。そうでなければ、こちらの人間を養母に選んだりはしないよ」 蒼聖がなだめるように微笑む。


「そうなんですか。なら安心ですね。だけど、私本当に引き受けた覚えないんですけど、まさか強制なんですか。今からでも、お断りできないですかね」 諦め切れない幸羽が蒼聖を見つめる。


「今からでは難しいね。もう君の体に玉が馴染んでいるから取り出すのは危険すぎる」


「それじゃあ、だめですね。 赤ちゃんに何かあったら大変だもの」 幸羽があわてる。 

他所様の預りものなのに、安全第一、人命優先、心の中でつぶやく。


「受け渡しの日から二度満月が巡った次の新月に生まれるから、君の中にいるのは後二月くらいだね。

あちらの人は成長が早いんだよ。生まれてから一年でほぼ成体になってその後はゆっくりと年をとる。寿命は我々の3倍というところかな。 その分出生率が低いんだ」


「そうなんですか」 幸羽はまた深いため息をつくと、気を取り直して自分のお腹を覗き込んだ。


「はじめまして? 私はあなたのお世話を任されました幸羽よ。 ええっと、王太子殿下でしたっけ、殿下じゃちょっと堅いし、なんて呼ぼうかしら王ちゃん、太ちゃん? うーんいまいちだし。そうだ蒼さん龍国だとどう呼ぶんですか?」


「たいていは敬称で呼ばれるよ。でも王太子なら ルダ・シンクラウムだね」


「じゃあシンちゃんね。よろしくね」 早速お腹に話しかけている幸羽を見て、皆がほっとしたのだった。







 夜も更けたので詳しい話は明日にしようと、蒼聖に言われて幸羽はサッサと寝てしまうことにした。

精神的ダメージが大きかったのだ。


「はぁ、異世界に行っていきなり妊婦さんになりました。なんてメールしたら亜紀はどんな顔するかしら」 不可能なことを想像して幸羽は独り言を言う。


養母というより代理母なんじゃないか、卵を孵すだけだからふ卵器替わりなんだろうか。 美形の国の王子様だから、きっとカワイイ赤ちゃんに違いない、ちょっと楽しみかも。などと、とりとめのないことを考えながら幸羽はいつの間にか眠りについた。











 男湯でまた話し声がしていた。


「それにしても忙しいやつだな。落ちてきたかと思ったら、王子の養母になったって?」


「それなのにちゃんと受け入れてくれたじゃないか。 育児じゃなくて育卵放棄にならなくてよかったよ。

まあ太郎とのやり取り見てたらそんなことはないだろうけど。まだ若いのに大物というか逆に心配になるというかだね」


「違いないな」 朗と歩は顔を見合わせて笑った。





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