19.尋ね人の行方
蒼聖は食事を済ますとすぐにまた出かけて行った。 夕食を食べながらその話になる。
「俺もさぁ、龍宮関連なのに他の所が出て来ないのは変だと思ったんだ。うまそうな話放って置くわけ無いからな」
「龍宮とはどこも懇意にして置きたいだろうしね。そういう点では蒼さんは適任だよね。
権威なんかに興味ないしね。 ご指名を受けたんじゃないかな」 歩が納得したようにうなずく。
「あの方の高潔さは皆が知る所ですから、当然ですね。『銀の聖』の名に相応しい方ですわ」
「『銀の聖』?」 幸羽が首をかしげる。
「蒼さんの通り名だよ。 幸羽ちゃんは見たことなかったかな? 蒼さんは力を使うと髪の色が銀色になるんだよ 」
「名の知られた術者は、通り名とも呼ばれる二つ名がつけられるのですわ。『明星の識者』だの『漆黒の賢者』だとか、色々な方がいらっしゃいますわよ。もっとも、自分から名乗る恥知らずな愚か者も多いですけど」 女の宝石屋が説明してくれる。
蒼聖の「蒼」は師匠からもらった名前で本名は弟子入りの時に捨てるのだそうだ。術者とやらも大変そうだと幸羽は思った。
蒼聖が再び出かけてからしばらくは平穏な日が続いた。
ただ、幸羽は少し体調を崩していた。といってもダルクて朝起きられない程度のことだったので、ここの生活にも慣れて緊張が解けたせいだろうと皆も思っていた。
「思い切って薬屋の薬をのんだら?」
歩がニヤニヤしながら言うが、いろいろ話を聞いた後ではとても飲む気にはなれなかった。
百歳の老人が走り回れるくらい元気になる精力剤なども扱っているらしいが、それこそ何が材料なのか想像するのも恐ろしいと幸羽は思った。
その後、数日で回復したので、薬屋の世話にならなくて済んでほっとしたのだった。
幸羽がこの世界に来てから三週間を過ぎた朝、着替えをしていた幸羽はパンツのウエストがきつくなっているのに気づいた。
「ヤダ、太った? もう、富貴恵さんのご飯が美味しすぎるから!」 幸羽はがっくりと肩を落とした。
胸もろくに無いのに、腹なんか出たら悲惨なことになってしまう。 マヨネーズのイメージキャラクターと同じ体形になるのは避けたい。そう思って幸羽が朝ごはんを控えめに食べていると、
「アラ、また胃の調子が悪いの?」 富貴恵が気にしてくれる。
「いえ、そうじゃなくて…… あの、ちょっとスタイル的に不都合が出てきまして、なので少し控えようと思って」 恥ずかしそうに言う幸羽を皆が笑う。
「あらあら」 「飯、美味いもんな」
「女の子には辛いところだね」
「みんなして、他人事だと思ってひどいです。 だけど、家の中でごろごろしてるんですもの当然よね。
蒼さんはまだ、帰って来られないんですか? 私、まだ外に出ちゃいけないのかしら」 幸羽がため息をついた。
「そういえば、あれから半月は経ったよね。まだ仕事が終わらないのかな」 歩が首をかしげる。
「どうやら、龍宮の養母の居所がまだつかめないようですよ。 いったいどこに潜んでいるのやら」 良太におかわりを運んできていた富貴恵が眉をひそめる。
「その人は自分が養母だと知っているんだよね?」
「もちろん、話があるはずですよ。お世話役だっているはずですもの。だから自分から名乗り出てくるのが普通なのだけれど。
まあ、殿下の御身は玉によって守られるので生まれるまでは危険はありませんし、いくらなんでもそれまでには見つかるでしょう」
「そうか。なんにせよ、早く見つかるといいね」
歩の言葉に皆がうなずいた。
その夜、幸羽がお風呂から上がって着替えていると、ミアがやって来た。
「蒼聖が戻ったわよ、朗もね」
「そうなんですか。よかった。私、聞きたいことがあったの」
幸羽は脱ぎっぷりの良いミアから思わず目をそらす。 グラビアモデル並みのスタイルは女でも目の毒なのだ。その上現在ダイエット中なので、なおさら精神的ダメージを喰らいそうだ。
幸羽はそそくさとお風呂場を後にした。
「お帰りなさい」 幸羽が声をかけると、スキンヘッドの男が軽く手を上げる。
「よお、幸羽。元気だったか?」
「おかげさまで。仕事は終わったんですか?」
「一区切りついたからな、とりあえず休憩だ」
朗は三日程、仕事場に泊まり込んでいたのだ。 声も態度? も大きい男がいないと館の中がなんとなく静かだった。
「蒼さんも、お帰りなさい」
「だだいま。幸羽君」 穏やかに微笑みかけた美男子がふいに真顔になる。 そのまま凝視されて、幸羽は顔を赤らめる。
「やだ、もしかして顔まで丸くなっていますか?」
両手を頬に当てて恥ずかしそうにする。
「富貴恵さんの飯が美味すぎて、太ったって気にしているんだよ」 歩がおかしそうに言うが、蒼聖は聞こえていない様子だ。
「そうか、そうだったのか…… 判らないはずだ」 なにやらつぶやく。
「あの、蒼さん?」
呼びかけられて蒼聖は皆が自分を見ているのに気づき苦笑した。
「ああ、すまない。考え込んでしまった。 だけど、仕事のめどが立ったよ。 自分の足元は目に入らないとはこの事だね。 まさか尋ね人がここにいるとは思いもしなかったよ、幸羽君」
「まさか例のあれか? こいつが?」 朗が驚いたように目を見開く。
「そうなのかい?」 「びっくりだね」
目を丸くして見つめられて幸羽が戸惑う。
「ええっと、あの、何のことですか? 私だけわからないみたいなんですけど…… 」
申し訳ないように問いかける幸羽に蒼聖が破顔した。
「ああ、すまない。じつは、私が探していたのは君だったんだ。つまり君が龍宮の養母なんだよ」
幸羽は唖然としてしまう。
「はぁ、私が? 冗談ですよね」
「私はそんな冗談は言わない」
「そんな、何で私? いつの間にそんなことになったんですか? 」
「私に聞かれても困るな。 君が一番よく知っているはずだよ。 君がここに来たのは満月の前だったよね。
満月の夜にはすでにここにいたわけだから、養母に選ばれるのは可能だったわけだ。 玉の受け渡しは満月の夜に行われるからね」
「そういわれても、そんなもの受け取った覚えはないんですけど…… 本当に私なんですか? 人違いじゃなくて?」
困惑した幸羽がすがるように蒼聖を見つめる。
「現に君の中で光っている玉を見間違えようがないよ。 いやー、この間会った時は見落としたんだな。君自身の魂の光と混同してしまった。私もまだ修行が足りないな」
「もう、確定だな。 あきらめろ幸羽 」 朗に言われて、幸羽が肩を落としうなだれる。
「もう何で私なんですか? どこから来たのかわからない異世界人を、ワザワザ選ばなくてもいいじゃないですか。
面倒ごとはもう十分。 いいかげんにしてほしいわ」 小声でつぶやく。
そんな幸羽を他の者は気の毒そうに見つめた。
「まあ、ほら一応名誉なことなんだし」 歩が励ますように言ったのだが。
「それ、迷惑の間違いじゃねーの?」
良太の正直すぎる一言でキャンセルされてしまいその場に、微妙な空気が流れた。
満月とか書いていたら団子が食べたくなりました。
次のお話は遅くなってしまうと思います。
本日は読んでくださってありがとうございます。




