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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
二章 龍宮の養母
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18.龍宮の養母

 翌日は休日で朝食後も皆がのんびりと、お茶などを飲んでいた。こちらの世界も一週間が7日なのは代わりがなかったし、曜日も同じ。ただ一月が28日で一年は364日、13ヶ月だ。 

他にも、祝日が異なり、夏と冬の休暇が二週間ずつ決められていた。


 幸羽としては大体同じで少し違うというのが、かえってややこしく感じられた。






 休日関係なしの、宝石屋とミアが出かけた後、しばらく留守にするといっていた蒼聖が戻ってきた。幸羽の様子を見に戻ったのだ。冷静沈着と言われている男だが身内には過保護だった。


「体は大丈夫です。頭は時々混乱しますけど…… 」 体調を気にする蒼聖に幸羽は苦笑して答える。


「マチルダに会ったんだって? まあ彼女に関してはレオンハルトが女装をしていると考えていいよ。中身は同じだからね」


「はい、一緒にお風呂には入るなと朗さんに注意されましたから」


「はは、なるほど。それは賢明だったな」


「だね」 部屋にいた他のものも同意した。





  蒼聖は富貴恵が運んできた遅い朝食を食べながら話をする。


「何だ、終わったわけじゃねぇのか」 部屋から出てきた朗も加わる。


「ああ、今回はある人物の護衛なんだが、護衛対象の居場所が不明なんだよ。全く、どうなっているのだか」 蒼聖がため息をつく。


「気が乗らねぇみたいだな」 朗が笑う。


「断われば良かったのに」


「大人の事情があるんだよ、良太。 だけど、行方不明じゃ困るよね」


「おまけに、どんな人物かも詳細不明だよ。依頼する側も把握してないというのだからあきれた話だろう? まぁ、今回は予想外の人物が選ばれたらしいから仕方ないといえばそうなんだけどね」


「もしかして、龍宮の養母君ルダ・マームのことかしら?」 味噌汁の御代わりを運んできた富貴恵が口を挟む。


「流石は富貴恵さん耳が早いですね。玉の受け渡しは済んだとの事なんですがまだ確認が取れなくて、もめてるんですよ」


「そういえば一昨日は満月だったものね」 富貴恵が訳知り顔でうなずく。


「ねぇ、一体何の話なのかな?」

 黙って二人のやり取りを聞いていた皆を代表して、歩が問いかける。


「ああ、実はね、先日龍国の王妃が卵を産んだんだよ」


「へぇー」 歩と朗は納得したようにうなずいたが良太と幸羽は首をかしげた。





蒼聖の話によると龍国の人たちは卵胎生で、女性には卵を育成する器官があり一旦産み落とされた卵はそこに収納され育まれる。しかし王妃は特別で養母に卵の育成をまかせる。その人を『龍宮の養母』― 龍国ではルダ・マーム ― と呼ぶのだとか。

『龍宮の養母』は人間から選ばれる為、優秀な女性を予め選抜しているのだそうだ。

そして今回はどうやら、選抜された女性以外の人が選ばれてしまった為、混乱しているらしい。


「ふーん。龍国の人は卵を産むんだ。ていう事は、やっぱり龍っていうくらいだから、鱗とかあるんかね」


幸羽はエイリアン映画のワンシーンを思い浮かべた。

ひび割れた卵から、粘液にまみれた鱗だらけのつめの長い手がニューっと出て…… 思わず身震いした。あの手の映画は苦手なのだ。


「ああー、幸羽ちゃんも今、変なもの思い浮かべたでしょう」 青ざめた幸羽を歩が笑う。


「私、蛇とかトカゲとか苦手なので」


「ははは、そんなわけないよ。見た目は私たちと変わらないし、むしろ美形が多いからカワイイ赤ん坊だと思うよ。

王族は皆青い目をしていてね、王の血の濃さで色が変わる。だから血縁のある高位貴族なんかは青い目が多い。

 特に直系王族は深い青で、『深海の青の瞳』とよばれて王族の印になっているよ」


蒼聖の説明で、頭の中の爬虫類の映像が消えて、幸羽がほっとする。


「でも、蒼さん、確か王族の卵は光るのではなかったかしら? 見分けるのは簡単でしょう?」

富貴恵が首をかしげる。


「人間の体内に入ったばかりの頃は光が弱まるのだそうですよ」 蒼聖は吐息をつくとお茶を飲む。


「光るんだ。なんかスゲーな」 良太が感心したように言うの聞きながら幸羽は、大きなお腹がイルミネーションのように光る女性を思い浮かべた。


「ただし光るのは玉と呼ばれる王妃の卵だけだし、それが見えるのは直系の王族と極限られた者だけだ。

おそらく王の血が反応するんだろう」


「なるほど、蒼さんには見えるんだね。それで駆り出されているのか」


「そういうわけだ。別に放って置いても生まれるまでは堅固な殻に守られるから危険は少ない。 それに生まれるころになれば、それなりの者には判別可能なほど光るから、すぐに見つかると思うんだが…… 

どうやら男子のようで周りがうるさくて」 蒼聖がイヤそうな顔をする。


「男の子なら王子だもんなぁ。未来の王になるかもしれない卵じゃ、扱いに神経質になるだろうよ」


「かもじゃありませんよ。最初のお子さんですもの。その玉は王太子におなりになる方ですよ」


「へぇー、そりゃ大事だ」


「寿命が長い分、出生率が低いからね。万が一にも不手際があってはならないんだよ。

私としては、養母の女性の安全面さえ確保できれば十分だと思っているんだが関係者が、やれエネルギーのよい場所が必要だとか、胎教によい環境にいてもらわなくてはいけないだとか、うるさくてね。 

龍国から特に申し入れがあるわけじゃないんだが」


「外交上の都合っていうやつだね」


「そういうことだね」 蒼聖は肩をすくめた。



「そんな大事な卵なら、なぜ自分の国で育てないのかしら? 龍国の人に養母になってもらえばいいのに」 幸羽は思ったことを口にする。


「慣例というやつらしい。卵や幼児期の生育にこちらの空気がいいという説もあるが、確証はないよ」


「慣例ねえ。要するに、はっきりした根拠もないのに続けている古い習慣ていう事だな。 

まあ、あちらで養母を選ぶとなると、いろいろ都合の悪いこともあるんだろう。権力争いとかさ」

朗がいい、皆が納得したようにうなずいた。



 

「龍宮か、やっぱりお城もあるのかしら、海の中じゃ無くても羽の生えた鯛やヒラメが飛んでいるなんてことはないわよね。 なんかありえそう。 乙姫様は女王様だったりして…… 」

そんなことをつぶやいている幸羽の脳裏に人影が一瞬浮かんだがすぐに消えたのだった。





前振りが長くてすみません。 何とかお話になってきたでしょうか。

キーワードの王子がやっと出せそうです。

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