表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
3つ目のルール
68/77

66話 3つ目のルール

暖かい感覚に包まれる。

それと共に、感じるのは浮遊感。爆ぜる火花の音に、燃え盛る轟音が耳につく。

きっと、私は死んだ。痛みはなかったから、充満する一酸化炭素を吸い込んで死んだのだろう。ぼんやりした思考に違和感を覚えながら、そっと目を開けた。



「これは――そうか」



視界一面に広がっていたのは、炎の赤い色。

黙々と上がる黒い煙を避けるように、炎を飛び越える。遠ざかる世界。そう、浮遊霊とは、こういう状態なのか――なんとなく、漂っているのとは、少し違う。自分の意志とは関係なく、炎から逃れるように世界が遠ざかっていく。

まるで、誰かに抱えられているような――



「――って、生きてる!?」



この時、ようやく気がついた。

私は、誰かに抱えられて移動していることに。景色が、どんどんと遠ざかっていく。揺れるたびに腰回りが痛いことから察するに、誰かの肩に担ぎあげられているのかもしれない。私が視えるのは、誰かの広い背中と遠ざかっていく赤い風景だけだった。



でも、私は――捕えられていたはずだ。

咄嗟に、腕を見渡してみる。肌を焼かれた形跡は、どこにもなかった。

けれども、その腕には私を縛っていた蔓が残っている。しかし、その地面に繋がっていたはずの先端は切り取られたのか、どこにも見当たらない。まるで、植物の腕輪のようだった。



「ここ、は?」

「しゃべるな、舌を噛むぞ」



突然聞こえてきた声に、飛び上がりそうになった。

仰け反る様に顔を上げると、ようやく私を担いでいる人物の顔が見えた。

大きく奔った生々しい額の傷――そして、私と同じ黒色の髪――そう、その人物は



「ナ、ナナシ!?」



裏切ったとばかり思い込んでいたナナシだった。

業火に追われるように、私を担いでどこかを駆けている。

どうして、何故、香奈子側についたナナシが、私を助けてくれたのだろうか。少し顔を横に動かせば、力尽きた様なハヤブサが視えた。私を助けたのは、香奈子の命令でハヤブサを助けるついでにか、それとも別の思惑があるからなのか。



まったく、理解できない。



ナナシ自身の意志で助けてくれたなら、それは嬉しい。だけれども、香奈子の命令で、そのついでに助けてくれたのであれば、悲しい以外の何物でもない。

いや――違う。嬉しいとか、悲しいような、そういう次元の問題ではない。

なによりも、心臓を握られたかのように、ナナシの思惑を理解しきれないことが苦しかった。どうして、思惑を理解しきれないことが苦しいのか、分からない自分が嫌で仕方ない。



エリザベートやルーシェの思惑を理解できないときは、こんな気持ちにならないのに――。



「飛ぶぞ」

「えっ――ひゃあ!」



突然の浮遊感。

落ちる、と思ったが、ナナシは浮遊系の黒魔術を使えるのだと思いだす。

なんとなくだけど、懐かしい感覚に包まれた。あのエドネスの屋敷から脱した時も、こうして空を飛ばされていた。あの時は1人で飛ばされたけど、今はナナシとハヤブサがいる。

黒魔術だと分かれば、下に目をやる余裕も出来た。眼下に視えるのは、王宮の庭だ。ただ、いつもの優雅な雰囲気とは程遠い戦場と化していた。



「ヴェーダ帝国軍だ」



私の上げた合図を見たのだろう。

作戦通りに、武器を手に行軍している。完璧に整えられた木々を掻き分け、花々を踏みつけて行軍する。ナナシに抱えられた私とハヤブサは、風に乗ったように空から様子を眺めていた。



私は――黙ってその様子を眺めていた。



「……」



ふわり、と着地する。

戦場から少し離れた丘の上。ちょうどヴェーダ帝国軍が野営地にしていた辺りだ。

グランエンドの王城を振り返ると、黙々と黒い煙が上がっていた。城の上に翻っていた旗が、火の粉を浴びて燃え始めている。



「ナナシさんは――どうして」



ハヤブサを撫でながら、勇気を振り絞ろうとする。

いつも通り私を見下ろすナナシに、聞きたいことを尋ねるために。

今、ここで聞いておかないと、後で絶対に後悔する。今までために溜めていた質問が、泉のように身体の奥から湧き上がってきた。



「ナナシさんは――」



裏切り者ですか?

香奈子の手に落ちたんじゃないんですか?

どうして――いつも私を助けてくれるんですか?


……聞きたいことが、喉の奥まで出かかる。だけれども、その後の反応が怖くて、言いだすことが出来ない。



結局、私は臆病者だ。

唇を噛みしめて、ナナシから目を逸らしそうになる。だけど、このままじゃいけない。腕の中で眠るハヤブサに目を落とす。こんなにも臆病だったハヤブサが、心の支えになるくらい強い存在に変わったのだ。私だって、少しは成長しているはずだ。右拳をギュッと握りしめ、そして――



「貴方は、どうして私を助けてくれたんですか?」



それは聞きたくて、ずっと聞けなかった質問。

エドネスを脱した時も、今回も。いや、それだけではない。あの怪談話をする羽目になった村でも、一度は私を疑っても殺さないでくれた。それに――何よりも、香奈子の魅了を受けても、ゼクスの配下であったとしても、敵であるはずの私に味方してくれる。



それは、ただたんに黒髪と言う同族だからだろうか。

それは、ヴェータ帝国のためなのだろうか。



「……自分で考えてみろ。

それよりも、何故――今回は独断で行動した?」



ナナシは質問に答えなかった。

代わりに、淡々と問いを投げかけてくる。



「だって……ナナシさんは香奈子の――天女に編笠を外されたんですよね?

平和になったら傭兵業なんていらなくなるから、別の仕事を探した方が良いと天女が囁いたと聞きましたが」



思い出したくもない記憶を、掘り起こす。

すると、ナナシは虚を突かれた表情を浮かべた後、心底呆れたように息を吐いた。



「貴方は――ミオは、俺が何と答えたか聞かなかったのか?」

「えっ?」



……記憶を遡る。

そういえば、聞きたくなくて、耳を塞いでしまったのだ。その先に続く言葉が、あまりにも容易に想像できたものだから。



「傭兵以外の仕事を探す、とか、平和になるまで剣を振るう、とか言ったのだとばかり考えていました」

「……」



どうやら、予想が外れていたらしい。

香奈子の魅了がかけられていなかったのか?

編笠は、既に外されてしまっていたのに?

混乱する私を見て、ナナシは脱力したような様子だった。普段は見せない表情が逆に新鮮で、ナナシもこのような表情をするのだと思うと、くすりっと笑ってしまった。



「……」

「あっ、すみません。その――てっきり、魅了にかけられていたのだと思い込んでいたので、作戦の実行時期について必死に考えを巡らせてて、聞いていませんでした」

「……俺は、天女の魅了にかかっていない」



その後は、何も言わなかった。

でも、その一言で十分だ。

どうして、魅了にかからなかったのかは分からない。



だけれども、私が起こした騒ぎを聞きつけたナナシが、間一髪で助けてくれた。



その事実が、よく考えてみなくても――ナナシが魅了にかかっていないということを現わしている。私を殺そうとするアルフレッド達の表情は、演技に視えなかった。彼らは本気で、あの場で私を殺そうとしていた。もし、香奈子がミールを救おうとするのであれば、自ら現場に赴き、アルフレッド達に一言いえばいいだけの話。それをせずに、ナナシに助け出させたなんて、非効率すぎる。



「……」



陣に急ぐぞ、と言わんばかりに、ナナシは歩き出した。

ハヤブサを抱えた私も、慌ててその背中を追いかける。大股のナナシの歩幅についていくのは大変だけれども、それでも全力で追いかけ隣を歩いた。

追いついた私を、ちらっと彼は横目で見る。だけれどもそれだけ、何も言わない。

そんなナナシに、もう1つ――ずっと言いたくて、言う機会が無かった言葉を告げることにした。



先程の質問よりもハードルは、ずっと高い。

でも――今なら不思議と言葉にできそうだ。

むしろ、今を逃したら、その言葉を口にできない。



口にできる時に、しっかりと言葉にしよう。





「ありがとう」




8月7日:一部改訂


あまりにも、「3つ目のルールの章」が長くなってしまうので、分割します。

次回から最終章に突入です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ