表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
3つ目のルール
47/77

46話 裏庭の暴君


「――いや、なんでもない。人違いだな」



ゼクスはそう言うと、私の肩にポンッと手を置いた。

叩かれた私は、はははっと乾いた笑みを浮かべた。怪しいことこの上ない反応だが、とりあえず、この場は誤魔化すことが出来た。




と、ホッとしたのは、つかの間だった。グイッと耳元近くに口を押し付けられ



「あとで、裏庭に来い」



と、囁かれる。

そして、何事もなかったかのようにゼクスは香奈子に笑いかけた。



「それにしても、さすが俺の妃だ。茶を飲む様になってるではないか」

「だから、妃ではありません!」



ムッと頬を膨らませた香奈子が、腰に手を当てて注意する。

私は気が気ではなかった。

これは―――完全に気がつかれた。すすめられた紅茶も、マフィンに似た菓子も、香奈子が進めてくれるのだから、きっと頬が落ちるくらい美味しいモノなのだろうが―――味を感じることが出来なかった。

その動揺を、香奈子は『ゼクスが意地悪したせい』だと勘違いしてくれたが―――これ以上、不信感を抱かれたら不味い。なんで動揺しないで、背筋を伸ばしていられなかったのだろうか。


今さらながら、未熟な自分が嫌になる。



「よし、行こう」



パンパンっと頬を叩き、裏庭へと歩き出す。

堂々と行こう、舐められないように。

大丈夫、私はやればできる。なんとかなる。もう―――数か月前とは違うのだ。

そう言い聞かせながら、ゆっくりと裏庭の木戸を開けた。木戸をあけると、夜の風が髪を撫でる。

私はカツラを抑えながら、人の気配を探った。



(見張りは――いない。下がらせたのかな?)



と、思いながら松明の明かりを頼りにゼクスを探す。

これ自体が、何かの罠ということも考えられるのだ。慎重に行かなければならない。

目を細めて、暗闇をじっと見つめる。神経を尖らせて、耳を澄ませる。師匠ルーシェとの修行で散々学んだことを思い返しながら、視野を広げていく。すると、大木の影に、動く影を見つけた。他の木の影よりも、若干色の濃い影は、僅かながらに動いている。よく視ると、白い髪の毛が一際光って見えた。



「見つけましたよ」



ゆっくりと、距離を測りながらゼクスに近づいていく。

すると、ゼクスはニンマリと笑いながら



「ほぅ、少しは成長したようだな」



と言って、木の影から姿を現した。

昼間見た時のようなラフな格好で、ゼクスは私を見下ろしている。



「久し振りだな、黒魔術師」

「黒魔術師?さぁ、なんのことでしょう?」



私は、なんでもないように惚けてみる。

内心は、やはりバレていたか……と苦い思いを噛みしめている。だけど、その一方で、やっぱりそうだなと思う私もいた。バレてしまったなら、仕方がない。腹をくくって、次に打つべく最善の一手を考えるのだ。

そう、今はそれこそが大切。



「大方、カツラをかぶっているのだろう。俺の目はごまかせん」



その問いには、何も言わない。

私は頭を振るって、まっすぐゼクスを見上げた。

開き直って、次の手を考えることにした瞬間、その冷淡な眼が、不思議なくらい怖くなくなった。



「万が一、かりに私が黒魔術師だとしましょう。

……どうするおつもりです?」



あの場で暴露しても良かったのに、それをしなかった。

ゼクスなら、あの場で私の正体を露見させなかった理由が―――きっとあるはず。

そう思って、冷淡なまなざしを見つめ返した。



「別に。ただ、あの男が『処分した』と伝えた女が、まさかヴェーダの人間としてくるとは予想外だっただけだ」

「あの男?」



今、妙な感じがした。

私は眉間に皺を寄せる。

ゼクスが言う『あの男』とは―――誰だろうか?



「お前は、俺に生涯をささげると言ったはずだ。

生かすも殺すも、俺次第。つまり、俺の所有物だ。なのに、ヴェーダに尻尾を振るとは、いい度胸だな」



すらりっと、ゼクスは腰の刀を引き抜く。

松明の炎を浴びて、切っ先が怪しく燃えるように輝いていた。

普段の私なら、臆してしまうだろう。でも、今―ー聞こえた言葉を確かめる方が、貫かれる恐怖心を麻痺させていた。



「おい、何か反応したらどうだ?」



あの男。

私の知らない誰かだろうか?

あの時私を殺そうとしてきた、槍兵か?それなら可能性がある。

『私を逃がした』と報告するより、『処分した』と偽った報告をすれば、褒美を貰えるかもしれない。

どうせ、私はあの屋敷にいなかったのだから―――口裏さえ合わせれば、何も問題がない。

だけど、果たしてそうなのか?



「聞け」

「!」



気が付くと、刀の切っ先が喉に軽く押し付けられていた。

うっすらと斬られた場所からは、ジワリと血が滲み出ている。

だけど、『あ、血が出ている』としか感じなかった。それどころではないのだ。



「俺との契約を忘れたわけでは――」

「すみません。『あの男』とは、誰ですか?」



ピキッとゼクスの額に筋が立った。

ココで初めて、しまったと思う。

考え事に夢中になるあまり、心を遠ざけ過ぎてしまったようだ。

だけど、今更、遠くに追いやった心を戻すことが出来そうにない。私は黙って、ゼクスの返答を待つしかなかった。



「あの男とは、あの男だ」

「誰ですか?」

「だから、深編笠を被ったナナシさ」



ゼクスがその後に、『俺の所有物の分際で、先に意見するとは、いい度胸だ』と低い声で言い寄ってきたが、まったく気にならなかった。



ナナシが、『処分した』と報告した。

黒魔術師を庇うために、わざと虚偽報告を送ったのだろう。

そこは分かる。だけど、それは『どの』タイミングで?



思い返してみよう。

ナナシは、槍兵たちに伝言が伝わる前に、私の部屋に来ていた。

つまり、本来であれば槍兵たちにゼクスが下した命令。だけど、実行したのは、ナナシになっている。

ナナシがグランエンド出国前に、虚偽報告をしたのだろうか?いや、それはありえない。



「アノ様子だと、やっと間に合ったという感じだった」



慌てて入ってきたような雰囲気だった。

つまり、情報を手に入れてから、すぐに行動に出たとしても―――黒魔術師暗殺に一歩早く到着しただけ。とてもではないが……出国前に虚偽報告することは不可能だと思う。

なら、暗殺未遂事件後か?

いや、それもない。なにせ、槍兵辺りが『ナナシが裏切って出奔しました』という連絡がいっているはず。

私が『処分』されたという事実が、そこでおじゃんに……



まて。

何かがおかしい。

なぜ、裏切り者の『報告』を信じるんだ?

自分の所有物だから?たった、それだけの理由で?



「……聞いてないな、人の話を」



視界が黒く染まっていく。

嫌な予感が、頭の中をグルグルと駆け巡り始めた。

オカシイと思っていた。

いくら『もう1人の天女』を探すためとはいえ、3か月もかかるか?

ナナシ程の実力のある傭兵なら、見つけ出すことが出来なくても――すぐに結果を出せると思う。

それに、ルーシェの情報網に引っかかってないか調べるためなら、さっさと来ればよかったのだ。なにも、3か月も経ってから来なくても、よかったのに。




空白の3か月――もし、アーニャからの命とは別に、ゼクスか『あいつ』の意志で動いた命令だとしたら?

最悪な予感が、芽を出し始める。そうなったら、もう止まらない。

私は、その言葉を口から零れ落してしまった。



「もしかして―――ナナシは裏切っている?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ