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黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
3つ目のルール
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43話 認識統合


幽霊ほど、便利なモノはない。

彼らに壁や鍵など不要だし、何処へ行くのも自由自在。

認識を共有させる術を使えば、幽霊が視ている出来事を感じることだってできる。どんな密談であれ、盗み見ることが出来るのだ。例え、音が漏れないような術を使用しても無駄。

それは、『外』に漏れないようにするのであって、『内側』にいるものには聞こえてしまうのだ。



だから、幽霊を使役するのはメリットが多い。

……もちろん、彼らの姿が見えて使役できれば、だけれども。



「ふぅ……」



私は、息を長く吐く。

何回か繰り返した練習では、出来た。だから今回も、問題ないはずだ。

自分に言い聞かせながら、呼吸を整える。



「ナナシさん……お願いしますね」



幽霊と認識を共有させている間は、身体の方がおざなりになってしまう。

だから、そちらの管理監視をしてもらわなければならない。

私が視線を上げると、ナナシはコクリと頷いてくれた。それを見て安心する。

私は再び神経を集中させる。徐々に周りの音が消え、色も消えていく。



「『浮世彷徨う 迷い人よ 汝―――我に身体を預けたまえ――――認識統合!』」



ガクんっと身体仰け反る程の衝撃が、襲い掛かってくる。

まるで、台風の中にいるような。強烈な風が身体に当たり、押し戻そうとして来る。顔や身体にバチバチと石礫のようなものが辺り、痛くて仕方ない。

眩暈もする。腹の底から吐き気も込み上げてきた。

だけど、それをこらえる様に、神経を集中させて前に進む。




『ぶはっ……はぁ……はぁ……』



すると、それは突然収まった。

始まりと同じくらい突然、嵐がピタリと収まる。

薄ら目を開けると、そこは廊下だった。

現実の自分の目で見るよりも、灰色で冷たくて、寂しい廊下。

そんな冷たい廊下で、無機質な近衛兵たちが巡回している。……が、私がいることに気がついていない。成功を噛みしめながら、ふわりふわりっと宙を滑る様に歩いた。



最初に認識統合をしたとき、幽霊が視ている世界に驚愕を隠せなかった。

今でこそ慣れたが、まさかここまで冷たい世界にいるのだとは、思えなかった。

こんな冷たくて寂しくて、誰も気が付いてくれない苦しい世界にとどまるくらいなら、成仏させてあげた方がイイのかもしれない。彼らだって、成仏できない理由がある。それを果たしてあげた方がイイのかもしれない。



でも、『黒魔術師』としては出来ない相談だ。

だから、心を鬼にして使役を続ける。



(さてと、この部屋だったか?)



幽霊が視る世界には、色がない。

飽きてしまうくらいの灰色だ。だから、モノの形で見極めるしかなかった。

とりあえず、まずは一際装飾がなされた扉を潜る。

だけど、失敗。目当ての人物はいない。

それを何度か繰り返し、5回目くらいでようやくニヤリっと笑うことが出来た。



「――まず、あのナンシーというメイドをどうにかしなくてはな」



アルフレッドが、当然のように玉座に腰を掛けながら呟く。

それに賛同するように、チェイン伯爵や見知らぬ少年が頷いていた。

……どうやら、香奈子が慕い始めたメイドを排除する方法を話し合っているようだ。



国の首脳陣が、こんな状態だとは―――世も末だ。



「ふん、別にメイドごとき処分しなくてもいいだろ」



聞き覚えのある声に、私はハッと息をのんだ。

壁に背を預けながら、ふんっと鼻で笑うその男に目を奪われる。髪の色こそ分からないが、口調や服装、そして放つ空気が、非常に懐かしい。そう、あの人は――



「俺が、香奈子を惚れさせればいいだけの話だ。

俺に惚れさえすれば、香奈子も他の雑魚どもに目移りしないだろうよ」



続けて吐かれた言葉に落胆する。

やはり、元主ゼクスは『逆ハー』を受けて堕落してしまったようだ。



「なっ、何を言ってるゼクス!」

「姐さんは誰にも渡さないッス!」

「ふん、最初っから香奈子は俺の妃だ」

「なんだと――!?」


「貴方たち、いい加減にしなさい」



口論になりかけた場を収めたのは、やはりブルースだった。

理知的な彼は眼鏡を押し上げつつ、ゆっくりと辺りを見渡した。



「メイドの処遇は、いつでも考えられます。

しかし、今は―――ヴェーダの動きに注意するべきでは?」



かかった!

感極まる気持ちを抑え、慎重に耳を澄ませる。

それこそ、私が今まさに待っていた話題。ちょうどアルフレッドの頭の上に浮かびながら、ブルースの言葉を待った。



「どういうことだ?」

「決まっています。ヴェーダは天女様を殺そうと考えているのです」



周囲から、濃厚な殺気が湧き上がる。

私は、ほぅ……と感心してしまった。やはり、腐っても次期宰相。侮るがたしと判断したエリザベートは正しかったのだ。




「それは何故か、ブルース?」

「どう考えてもおかしいですよ。あの『女帝』がプツェルが負けたくらいで、あそこまで弱弱しく成り下がると思います?」



アレは演技。

やはり、見抜かれていた。……いや、見抜かれると予想はしていたが、ここまで簡単に見抜かれてしまうとは。



(だからこそ、この仕事を完遂させなければ)



相手の出方を、しっかりと調査する。

ヴェーダが何年も前から用意していた『伏兵』を使うよりも、こうして自分たちで調べた方が良い。

『伏兵』の使いどころは、ここではない。

もっと、別の所―――



「どうする、ブルース。私の権限を使えば、すぐにでも捕らえることが出来るが?」



アルフレッドの問いに、ブルースは静かに首を横に振る。



「いいえ、ここは泳がしておきましょう。

捕まえる口実を用意しなければならないので」



表面上、『建国の儀』を祝いに訪れた他国の国王陛下なのだ。

しかも、表面上は友好関係を結びたいと言っている。

無下に扱うことをしたら、逆に反感を買ってしまう。それこそ、香奈子の嫌う戦争を勃発しかねない。



「口実作りか。だが、泳いでいる魚が網を食い破ったらどうする?」



ゼクスが、ブルースを馬鹿にしたように笑う。

ブルースは少しムッとしたような表情を浮かべた。震える右拳を抑える様に、ギュッと握りしめたのが、上空から見て取れる。



「それでは、エドネス王には何か考えでも?」

「簡単よ。罪をこちらで作ればいいのだ」



その言葉に、ガタンっとアルフレッドは立ち上がる。

美しい顔は般若のように歪み、ゼクスを思いっきり睨みつけていた。



「そんな犯罪まがいのことが、出来るわけないだろうが」

「王は時として悪にも手を染めなければならない。……なぁ、カタリナ殿」



カタリナ殿と呼ばれたバンダナ少年は、ぷぃっと顔をそむけた。



「僕の考えは、カナコ姐さんが笑顔で暮らせること。

だけど、真実を知ったら姐さんは喜ばない。本当に、考えることが外道だな」

「真実を知らさなければいいだけだ。腑抜けども」



ゼクスの意見は、確かに正しい。

だけど、それをやられた場合、すぐさま城から逃げないといけないので―――なるべく、止してほしい。

たぶん―――この調子で行くと、この案は不採用になるだろう。

でも、どう転ぶか分からない。一応、逃げ出せる手筈は整えておこう。



「で、このことを天女サンに伝えた方がいいんじゃないの?」



チェイン伯爵が囁いた。だけど、アルフレッドはブルースと同時に首を横に振る。



「カナコには伝えないでおこう。

これは、俺たちだけで内密にことを進める」

「ええ、これしきのことで、天女様を不安にさせてはいけません」



自分たちで、いや―――自分が香奈子を護る。

そう心に決めているみたいだった。……少しだけ、香奈子が羨ましい。

ここまで思ってくれる人がいるなんて、そうそうないことだ。


―――たとえ、『逆ハー』の力を使った偽りの絆だったとしても―――



それを真剣に答えようとしない鈍感な香奈子が、妬ましい。



「私達で、ヴェーダ王国の野望を打ち砕こう!」



アルフレッドの宣言に、同意するハーレム陣。

香奈子の一大事ともあれば、互いに手を取り合うようだ。



(上等)



なら、私が野望を叶えてみせる。

そして、あなたたちの野望を打ち砕こう。



「――とりあえずは、様子見ってとこか」



ゼクスがいうと、大層不満顔なバンダナ少年が頷いた。



「ゼクスさんの意見に賛成したくないッスけど――それしかないッスよね」

「今のところは、だな」



様子見。

それが、どんな痛手を被るか―――彼らはまだ知らない。

その時の様子を思い浮かべながら、1人にやりと笑うのであった。




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