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黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町 朱穂
2つ目のルール
14/77

13話 星空の下で

新章開始です。

今回のみ、香奈子視点でお送りします。


星を見上げると、いつも横切る顔がある。

それは星空が大好きな――私の親友の顔だ。

天気の良い夜には必ず、父親の望遠鏡を取り出していたみたい。

流星群の夜には必ずベランダに立ち、そこで寝入ってしまって風邪を引いてしまったこともあった。

でも、マスク姿の彼女は後悔をしないで「沢山星が視えたんだよ!今度、香奈子も一緒に観ない?」と笑っていたっけ?



「澪ちゃんも……この空を見上げているかな?」



数えきれないくらいの星が瞬く、この夜空を。

きっと、星空が好きな澪ちゃんだもの。この星空を感極まる表情で、見上げている気がする。手を叩いて飛び跳ねる澪ちゃんの姿が、容易に想像できた。



「澪ちゃん、ごめんね」



もう何度目になるか分からない、謝罪の言葉を呟く。

その言葉は星空に吸い込まれていくように、頼りない言葉だけど――きっと、澪ちゃんには伝わっているよね。



















澪ちゃんの言い分は、理解できている。




元の世界に帰るためには、『戦い』が必要だっていうくらい。

でもね、私は『戦い』という選択肢を選びたくない。

それは、耳心地の良いだけの絵空事なのかもしれない。最終的には、武器を取らなければいけない事態になるかもしれない。

でもね、私は『血を流さない平和』を実現してみたいんだ。

戦争で親兄弟、そして愛息子を亡くす人もなく、みんなが笑っている『世界』を作りたい。



アルフレッドさんも、ブルースさんも、チェイン君だって、私の理想に協力してくれる。

だけど、ちょっと頑固な澪ちゃんは反対し続けていた。

きっと、このあと私がどんなに『平和』を説いても、澪ちゃんは『戦争は避けては通れない』と言って密かに戦争の準備に励みそうな気がする。

それに、



『もう1人の天女を、アルフレッド反対勢力の旗印に』



って動きがあると、チェイン君が教えてくれた。

反対勢力って言うのは、アルフレッドさんの姉上様アーニャの勢力。美人のアーニャさんは、次期王の座に就きたいって野心を抱いている。でも、アルフレッドさんがあまりにも優秀で、人望もアーニャさんを上回っているの。だから、アーニャさんは人望回復のために、澪ちゃんを自分の派閥に引き入れたいみたい。



『今の所、アーニャ一派との接触を防いでいるけど……親友サンが巻き込まれるのは、時間の問題だろうね』



その一言を聞いたとき、私は顔面蒼白になってしまった。

澪ちゃんが、戦力闘争に巻き込まれてしまっては申し訳ない。巻き込まれる前に、元の世界に反してあげたい。でも、私にはどうすればいいのか分からなくて……

だから私は、ブルースさんに相談したの。



『澪ちゃんを、王宮から遠ざけて』って。



澪ちゃんは、王宮から離れたところで平穏な暮らしを送ってもらう。

私は『世界会議』を開いてもらって、そこで『話し合いによる天下統一』を実現させる。

そしたら、私も元の世界に帰れるし、澪ちゃんだって自動的に帰れるはず。

『加護』を持たない澪ちゃんも安全だし、私も『加護』で守ってもらえるから安全だ。

だから、心を鬼にして私は『眠り薬』を盛ったの。



「カナコ、お疲れ様!」

「アルフレッドさん!」



眩しいくらいの金髪青年、アルフレッド王子が近づいてきた。

王族の服装を脱いだ平服姿は、ちょっと珍しい。なんだか、いつにも増して色っぽく見えた。



「『同盟』に参加した国は、『カタリナ皇国』『ベグール自治領』『メルト王国』『エドネス国』。

参加しなかった国は、『ヴェーダ帝国』と『プツェル公国』。でも、半数以上の国が同意してくれましたね」



ベランダの桟に腰を掛けながら、アルフレッド王子は指を折り数える。

私は顔を膨らませて、首を横に振るった。



「私、エドネス国嫌いです。だって、数日前の戦争で『死霊』を使ったんでしょ?」



エドネス国の次期王と対面した時のことを思い返す。

なんでも、死霊を使った奇策でエドネス国を勝利に導いたらしい。

もう既に安らかに眠るべき『死霊』を、戦争の道具にするなんて……何が起こっても不思議ではない異世界とはいえ、俄かに信じられなかった。



「人の魂をもて遊ぶみたいな人……あまり好きにはなれません」

「ははは、確かにな」



私が指摘したら、目から鱗が落ちたような表情をして『黒魔術は、もう使わない』って言ってたから、心を入れ替えてくれればいいんだけど。



「……ねぇ、アルフレッドさん。ヴェーダ帝国とプツェル公国は、どうして賛成してくれなかったのかな?」



脳裏に浮かんだ2人の女性に、ため息を溢してしまった。

孔雀の羽で作られた扇を仰ぐヴェーダ帝国の女帝と、高潔を絵にかいたような公女は、口をそろえて同盟に反対したのだ。



「ヴェーダ帝国は、『そんな簡単に同盟に参加しては、今まで流した同朋の血に申し訳ない』、プツェル公国は『長年争ってきたグランエンドに屈するわけにはいかない』でしたね」



いつの間にか隣にたたずんでいたブルースさんが、アルフレッドさんの代わりに答えてくれた。

アルフレッドさんは、嫌な者でも見るような眼でブルースさんを睨みつける。



「ブルース、君は何故ここにいるんだい?書類が溜まっているんだろ」

「それはこちらの台詞です」



ブルースさんは、眼鏡をくいっと持ち上げる。



「各国の重鎮様と夕食を共にする時間ではありませんでしたか、王子?」

「あのような席、私が出なくても大して問題あるまい」

「いいえ、問題があります。さぁさぁ、天女様は私が相手いたしますので、王子はお戻りください」

「いや、私がカナコと話している。ブルースこそ、さっさと仕事に戻れ!」



アルフレッドさんとブルースさんは、また口喧嘩を始めてしまった。

まったく……顔を合わせれば、この2人は喧嘩をしている。仲の良い幼馴染って聞いたけど、あまり仲良さそうには見えないんだよね。

でも、すぐに私が『やめて』って間に入ると仲直りしてくれるから……『喧嘩するほど仲がイイ』ってことなのかな?



「ヴェーダ帝国は、『今までずっと戦争をしてきた。ここで何事もなかったかのように辞めてしまったら、死んでいった兵士たちに申し訳ない』。

プツェル公国は、『長年争ってきたグランエンドに、はいそうですかーっと跪けるわけがない』。

彼女たちには、彼女たちの理由があるんだよ、天女サン」



ふらりっと何処からともなく現れたのは、チェイン君だ。

いつもつかみどころのないチェイン君は、ちょっと怖い感じもするけど3人の中で1番大人って感じがする。年齢は、私とほとんど変わらないのにね。



「う~ん……でも、『死んでいった兵士に申し訳ない』と思うのは何処の国だって同じだし、『争ってきたから、跪けない』っていうなら、『カタリナ』と『ベグール』も同じだよね」



他の国々は、即決に近い雰囲気で同盟に了承してくれた。



「『死んでいった兵士に申し訳ない』なら、もう戦争を辞めて、悲しむ人を作らなければいいのに。

争ってきたから、跪けないなんて……そんなの、『向こうが謝らないから謝らない』みたいだよ。

どっちの国も、まるで子供みたい」


私が言うと、チェイン君は面白そうにクスリと笑った。



「子どもみたい、か。面白い言い方だね……君らしいよ、天女サン」

「それ、褒めているの?」

「褒めてるのさ」

「おい、チェイン!カナコと何を話している?」



私とチェイン君が話していることに、アルフレッドさん達はようやく気が付いたみたい。

チェイン君の方へ怖い顔をしながら、2人は近づいていく。……困ったな、いつもこの後3人交えた口喧嘩が始まるんだもん。

観てて面白いけど、今日は観戦する気分じゃないな。



「ねぇ、口喧嘩は止めてよ。

せっかく同盟をむすんだばっかりなのに……仲間内で喧嘩だなんて」



そう口にした途端、怖いくらいピタッと喧嘩が収まる。

3人は慌てた様に私に駆け寄ると、それぞれが口々に弁解し始めた。それぞれが一気にまくしたてるので、何を言っているのか分からないけど……過去の経験上、『ごめん、申し訳ない』という様な事を言っているんだろうって思う。



「もういいよ。だから、少し静かに星を見たいな」




ねぇ、澪ちゃん。

あと残り2国で、世界を統一できるよ。

早くまた、会いたいな。男の人ばかりに囲まれるのは嫌じゃないけど、たまには飾らずに話す澪ちゃんみたいな女の人とも話したいよ。



頭上に零れそうなくらい散りばめられた星々を眺めながら、私はぼんやりと親友のことを思うのでした。





9月3日:一部訂正

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