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黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
1つ目のルール
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12話 1つ目のルール


あれから、数週間が経った。

寝具にくるまって、ふと「自分の在り方」を考えてみる。

私は、いままで「帰れればいい」と思っていた。

たとえ、どんな手段を使ったとしても。

だから、戦争は沢山の人が死んで可哀そうだけど仕方がない。全ては帰る為なのだ。――そう思っていた。



「……でも、やっぱり……」



今でも、仕方がないとは思う。

だけど、あんなふうに人が死んでいるとこを視ると吐き気がする。

夜眠るたびに、人の悲鳴や臭いが蘇ってくるのだ。冷や汗をかいて飛び起きる、なんてしばしばある。寝不足で、つい3日前には眼の下のくまに気がいてしまった。



「この人たちも……生きていたんだよね」



瓶の中に浮かぶ幾つもの燐光を、ぼんやりと眺める。

ただいま、「世界会議」とやらに参加しているゼクスは、その会議内で「天下統一をする」と明言するらしい。

「どこで開催されるか教えてやろうか」と馬鹿にしたような顔で言ってきた。だから、丁重に断っておいた。

どうせ、教えてもらったところで地図がマトモに入っていない私のことだ。「そんなことも知らぬのか! やはり、馬鹿だな」と言われるのがオチだ。



――今にして思えば、馬鹿にされても知識を深めるために、聞いておけばよかった。

少しだけ、後悔の二文字が横切った。



なにがともあれ、世界を敵に回すような明言した以上、さらに戦争は加速する。

私の能力もさらに向上を、求められてくるのだろう。




そして、私の力を扱う以上、死人が必須。

そして、天下統一する以上は戦争が必須。

香奈子みたいに「話し合いで解決!」と簡単に割り切れない。そんなこと、現実には到底無理な話だから……。



「天下統一しなくても……帰れる方法ってあるのかな?」



ふと、今まで考えてこなかった疑問が湧き上ってくる。

私は香奈子から聞いた「女神」の言葉ばかり、気にしていた。

女神と会話していない私には、別の方法で帰還出来る可能性があるのではないか?

たとえば、遊園地のアトラクションみたいに「非常口」みたいな存在があるかもしれない。もちろん、今はこの「異世界」が「現実」なので、そう都合の良い存在がない可能性もある。



でも、完全に「ない」と断定されたわけではないのだ。



非常口とまではいかなくても、元の世界に繋がる痕跡を見つけることは可能かもしれない。今度、新しい人魂を取りに行かせてもらう際に、ちょっと調べてみようか。

うん、それがいいかもしれない。



ひんやりとした瓶を懐に戻し、ゆっくりと起き上がる。

窓から差し込む朝日は温かく、空は透き通った青空が広がっていた。

今日も良い天気になりそうだ。

浴衣に似た服を調え、文机の前に座す。

今は、地道に文字を覚えている。漢字と似ているだけあって覚えやすい。



「…そういえば、言葉は違うのかな?」



私は「日本語」で話しているつもりだった。日本に多少似ている「エドネス」で通じるのは分かる。だけれども、西洋ファンタジーを具現化したような「グランエンド」ではなぜ通じたのだろう?

今まで考えるゆとりがなかったけど、思えば奇妙な話だ。



「もしかして、私も女神に会ってたりして」



記憶にないだけで、実際は対面していたのか?

でも、なんで香奈子には「記憶」があって私には「記憶」がないのだろう。

そこに、矛盾を感じる。

それに、まず女神と対面していたとしても、何で私は「加護」を望まなかったのか。

香奈子と比較して劣るところだらけの私が、逆ハーとまではいかなくても、もう少し別の「加護」を望まなかったのは納得がいかない。

と、考えると「女神と対面していない」となる。いや、だけど、それなら何で私は、この世界の人達と「会話」出来るのか。



「……」



悩んでも仕方がない。

今は、この世界から出る方法と文字の習得。及び、黒魔術のさらなる向上を求めないと。軽く頬を叩き、書物をめくった。



コトン



気のせいか。

窓に何か小石のようなモノが当たった音が聞こえてきた。

書物を開く手を止め、振り返ってみる。すると、窓の向こうに虚無僧姿の案内人が佇んでいた。



「あ、はい」



一体何の用だろう?

私は首をかしげながら、窓に近づく。

この虚無僧は、ゼクスの警護として「世界会議」とやらに参加していたはずだ。

会議の日程から考えて、ここに戻ってくるのは数日後だと思っていたけど――



「うわっ!」



窓を開けたその時だ。

虚無僧は、躊躇うことなく土足で部屋に割り込んできた。



「んな!?」



こいつ、いったい何を考えているんだろうか?

私が呆気にとられているうちに、虚無僧は慌ただしく、それでいてどことなくテキパキと鞄を広げる。

革製のショルダーバックのような鞄で、その中に上級黒魔術を記した本を入れ始めたではないか。



「ちょっと?朝っぱらから盗み!?そういうのは、夜中寝静まってからやりなよ!」



思わず素の言葉で話しかける。

でも、虚無僧は私の言葉に全く耳を傾けない。

むしろ、指を口元(だと思われる辺り)に置き「静かにするよう」ジェスチャーで伝えてきたのだ。

いや……確かに盗んでいる張本人からしたら、私に騒がないで欲しいのだろうけどさ。



「この本さ、ゼクス…様から『覚えろ』って命じられたものだから、盗られると怒られそうなんだけど」



私が、そう告げた時だ。

扉が慌ただしく叩かれ、扉の向こうから



『開けてください、黒魔術師殿』



という声が聞こえてきたのは。

これ幸い、と私は扉を開ける。もちろん、虚無僧がそれを止めようと動くが、知ったことか。

盗みに入るのが、悪いのだ。



「はい、実は盗人がいて……っ!?」



そう言いながら、扉を開けて後悔した。

扉を開けた瞬間、私の眼の前に飛び込んできたのはキラリと光る槍の先。

思わず扉から飛び退いてしまう。



「黒魔術師殿。誠に申し訳ないが、拘束させてもらう!」



槍を携えた兵士が、何人も乗り込んできたのだ。

その槍の先全てが私に向き、じわりじわりと距離を詰めてくる。



「ちょっと、どういうこと!?私―――ここにいていいと言われています」

「ゼクス様からの命令でございます。

『世界会議の結果、黒魔術師の存在を“消す”べし』と」

「け……す?」



消すって、存在を無くすってこと。

つまり、殺せってこと?

そんな、つい数日前まで『お前の能力が必要だ』って言ってくれていたのに。

私は、世界会議に同行していた虚無僧に視線を向けた。そして、その視線を逸らしたすきを狙われてしまう。



「御免!」



その掛け声とともに、槍の先端が貫こうと迫ってきた。

避けることが出来る距離でも、そこまで広い部屋でもない。

光る槍の先端が、私の胸まであと数㎝―――というところで、槍が突如消えた。



「な、ナナシ殿!何をなさっておるのです!?」



ナナシと呼ばれた虚無僧が、刀を抜いていた。

どこからともなく取り出した刀を、槍の先端を失った兵士たちに向けている。みると、槍の先端は私の足元に無残な形で転がっていた。



「……」



ナナシは、何も答えない。

ただ、刀を兵士たちに向けたまま、私に鞄を押し付ける。



「黒魔術師に手を貸すというのですか、ナナシ殿!」

「ゼクス様への叛逆ですぞ!」



兵士たちが口々に、ナナシを説得しようと口を動かす。

だけど、ナナシは動かない。

まるで私を庇うように、ナナシは刀を兵士に向けていた。



「そもそも、ナナシ殿はグランエンドで行われていた『世界会議』に出席なされていたはず。何故、こちらに」

「グランエンド!?」



その瞬間、すざましい勢いで仮説という名の図が脳内に浮かび上がってきた。

会議が行われた場所は、グランエンド。

グランエンドといえば、香奈子がいる場所だ。そう……つまり……



ゼクスは、香奈子の『逆ハー』を受けてしまったのだ。



香奈子が「幽霊を使って人を惑わす方法を使う人なんて……信用できません!」と、一言いうだけで、今まで自分が貫こうとしていたことを捨てられる。血縁でもなんでもない「黒魔術師」なんて、消せてしまう。



恐るべし、逆ハー。

これはもはや、洗脳に近い。



つまり、私は―――どうなる?

ゼクスに捨てられた私は、どうなる?

押し付けられた鞄を、痛いくらい抱きしめる。再び周囲から色が消え始めた。



「―――逃げなさい――」



ふと、耳元で声が聞こえた。

酷く掠れて聞きにくい声だったけど、それは確かに私に向けられたもの。



「貴方は逃げなさい。ここは、時間を稼ぎます」



深編傘の向こうで、ナナシが笑っている気がした。

その問いに返答する前に、ナナシは私の肩を後ろに押す。すると、ふんわりとした力に包まれ、身体が羽の様に軽くなった。脚は地面に着かず、宙に浮いている。



「そ、それは高等飛行魔術!」

「やめてください、ナナシ殿!本気で黒魔術師を逃がすおつもりで!?」



ナナシはその返答に答えない。

代わりに、ナナシは私の耳元に顔を近づけると、こう囁いた。



「ソウレ山へ行きなさい。そこで『ルーシェ』という名の人物を頼るのです」



囁くように、まるで最後の言葉を漏らすかのように。

そして、力の限り私の身体を窓の外へと押し出す。身体が軽くて力が入らない私は、為されるがまま空に放り出された。



「うわっ!」



そのまま風に攫われるように、白石を敷き詰めた屋敷から、新緑の森へと飛ばされる。



「ナ、ナナシさん!」



ほんの数瞬前まで私がいた屋敷に向かって叫ぶ。

返答の代わりに、窓が轟音を立てて吹き飛び、爆炎が立ち上った。白い石は真っ赤に踊り、黒い煙が屋敷の至る所から立ち上る。



そう、ここはもう「帰る場所」ではないと見せつけるかのように。



「私……何度裏切られればいいの?」



最初は香奈子に、そして次は信用し始めていたゼクスに裏切られた。



「人を信じるのは……いけないのかな?」



ナナシは助けてくれたけど、彼も世界会議に参加していた。

ソウレ山という所に赴き、果たして大丈夫なのだろうか。

身を挺して救ってくれたとはいえ、彼を信用してイイのだろうか?



風に流されるしかない私は、「人は裏切る生き物」と胸に深く刻み続けていた。

これから、どうすればいいのか。

それすらも定まらないまま―――ただ「人は裏切る」というルールのみを深く刻みつけて。






第一章これにて終了です。

お気に入り登録してくださった皆さん、本当にありがとうございます。

次の第二章は、(序盤はともかく)もう少し明るい話になる予定です。

それでは、次回からも頑張ります!


9月2日:一部訂正

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