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046⚫️わすれないために

「ねえ、じいちゃん。どうして畑を出るときに、おでこを指でさわるの? むねに手をあてるの?おまじない?」

「はっはあ。これはなあ、忘れんようにしとるんじゃ。」

「わすれない? なにを?」

老人は少し遠くを見るように目を細めた。



そのふたつの村は、いつも揉めていた。

人口が増え、食糧は少なく、水争いも絶えない。

毎年のように怪我人が出て、憎しみだけが積み重なっていく。


ある日、大男と少女がふらりと現れた。

少女は争う大人たちの間に飛び込み、叫んだ。

あなたたちの頭は、なぜついているの!

あなたたちの心は、なにをしているの!


大男は周囲を睥睨し、大声で言った。

こいつの言うことを聞かんやつは、オレがバラバラにしてやるぞ。


ふたりはふたつの村の間で、毎日作業を続けた。

少女は時を進めた。

朝に撒いた種が夕方には葉を出し、翌日には実をつける。

何日も繰り返す。

村人には「品種改良」という言葉の意味はわからなかった。

それでも少女の真剣な眼差しは、周囲の胸を打った。


大男は荒れ地を切り開き、川筋を変え、水路をつくった。

ふたつの村は水に困らなくなった。

砕いた岩で道を舗装した。

雨でも道はぬかるむことがなくなった。


やがて村人たちはふたりを手伝うようになり、

少女と村人が生み出した種は、想像を超える恵みをもたらした。

大男に続く者たちは、道を整え橋を架け、風車をつくり出した。


それでも天災は牙をむいた。

大嵐は、せっかく切り開いた農地を土砂で埋めた。

膝をつく村人たちに、大男はクワを担ぎ事も無げに言った。

いくぞ。ここからだよな。


ふたりが去るとき、少女は言った。

頭は考えるためについている。

心は助け合うために、その胸にある。

奪い合えば足りない。分かち合えば余る。


・・・村人はよりよい種を生み出し、施設を改良し、今がある。


「わしが額に触れるのは、この頭がなぜあるのか忘れんため。胸に触れるのは、心がちゃんと動いとるか確かめるためじゃ。子どものころ、作業の合間によく遊んでくれたんだ、あのふたり。ヘラクレスとヒポクラテス・・・。ガウとリンリンと呼び合っていたがな。」


少年は深くうなずいた。

夕焼けが赤い。明日もよい天気になりそうだ。

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