第六章 緋赤《ひあか》の試練、牙を継ぐ少女の覚悟
雪を蹴立てて数時間、ようやくたどり着いた次の街は、石造りの建物が並ぶ活気ある場所だった。 ミラベルはギンの広い背中に山積みされた、三つ目鹿の貴重な素材や皮、そして保存用に捌いた肉の束を抱え、恐る恐る冒険者ギルドの門を叩いた。
「すみません、素材の買い取りをお願いしたいんですけど……」
カウンターにドサドサと積まれた素材の山を見て、受付の若い女性職員が目を見開いた。巨大な三つ目鹿の角に、丁寧に剥がされた厚い毛皮。だが、彼女の視線は素材よりも先に、ミラベルの着ている「くすんだ赤色のコート」に釘付けになった。
「ちょっと、あなた! その服……もしかして、東の村の宿屋で借りたもの?」
「えっ、あ、はい。おばさんから、結婚して街に出た娘さんのお古だって言われて……」
ミラベルが戸惑いながら答えると、彼女はカウンターから身を乗り出し、ミラベルの手を握って大喜びした。
「やっぱり! それ、私が昔着てたやつよ。その袖の継ぎ接ぎ、私が転んで破いたのを母さんが直してくれた跡なんだから。懐かしいわぁ……お母さん、相変わらず元気に怒鳴り散らしてる?」
「ええ、とっても。これ、おばさんの娘さんに会えたら返してほしいって頼まれてたんです。でも、こんなに早くお会いできるなんて」
「あはは! 母さんらしいわね。でも、それはもうあなたのものよ。それよりも……」
彼女は、ミラベルが大きな麻袋に詰め込み、肩に食い込ませていた大量の鹿の肉や予備の荷物を見て、困ったように眉を下げた。
「そんなにたくさんの荷物、女の子一人で持ち歩くのは大変でしょ。おまけにこれから西へ行くなら、身軽じゃないと命に関わるわ。……よし、これを持っていきなさい」
そう言って彼女が奥から出してきたのは、少し使い込まれた風合いの赤い魔石の埋め込まれた革のポシェットだった。
「これ……ただの鞄じゃないですよね?」
「ええ、冒険者憧れのアイテム『マジックバッグ』よ。ちょうど中古の在庫に回ってきたやつだけど、機能は新品と変わらないわ。たくさんのものを収納できて、中身を軽くして運べる便利グッズ。お母さんへの親孝行だと思って、受け取って」
ミラベルは感激しながら、重かった鹿の肉や予備の防寒具を次々とバッグに放り込んだ。吸い込まれるように荷物が消えていくのに、重さはほとんど感じない。魔法のような便利さに目を丸くしていると、彼女がさらにトレイに乗せた報酬を差し出した。
ミラベルは、そこに並んだ鈍い輝きを見て、今度は腰を抜かしそうになった。
「……銀貨が、こんなに。それに、金貨まで一枚……?」
「三つ目鹿はそれだけの価値があるのよ。特に角は、魔法杖の素材として高値で取引されるから」
提示されたのは、村にいた頃の半年分、いや一年分を優に超える大金だった。初めて自分の力(と、ギンの牙)で稼いだ、正真正銘の報酬。
「……大切に使わなきゃ。ケインさんに美味しいものを食べさせて、聖域を巡るための資金にするんだから」
掌に伝わる、ずっしりとした硬貨の重み。それはミラベルにとって、ただの金銭ではなく、ケインへと近づくための確かな一歩のように感じられた。
そう心に深く誓った直後。 ギルドの隣の屋台から、バターと砂糖をたっぷり使った揚げたてのドーナツの、暴力的なほど甘い香りが漂ってきた。
「……ぐぅぅぅ」
再び響く、胃袋からの悲鳴。ギンの力を借りた代償の「精」の欠乏は、ミラベルの理性を容易く粉砕した。
「……一個。一個だけなら、必要経費よね。……あ、やっぱりその隣の蜜がけのお菓子もください! あと、そっちの焼き菓子も!」
気づけば、手に入れたばかりの硬貨の一部が、次々とほかほかのお菓子に化けていった。 両手に抱えたお菓子を幸せそうに頬張るミラベルを見て、影の中からギンの呆れたような声が響く。
『おい、ミラベル。大切に使うという誓いはどこへ行った。……お前、食欲に魂を売ったのではないか?』
「はふっ、んぐっ……だって、身体が欲しがってるんだもん、仕方ないじゃない! ギンが強すぎるのがいけないのよ!」
マジックバッグのおかげで、荷物の重さからは解放されたミラベル。しかし、その分バッグに詰め込まれた「食料」への執着は、以前にも増して強くなっていた。
「……ふぅ。やっぱり、甘いものは別腹ね」
口の端に砂糖をつけたまま、最後の一口を惜しむように飲み込む。 路銀は増えた。装備も整った。だが、ギンが力を振るうたびに「精」が根こそぎ持っていかれる感覚だけは、まだ慣れない。
そんなミラベルを横目に、ギンが雪の積もった西の山際を見据えて言った。
『……ミラベル。この近くに、少し寄りたい場所がある。かつて「慈雨の女神」と呼ばれた精霊が祀られていた祠だ』
ミラベルは目を丸くした。 「慈雨の女神……。そこでケインさんの力を預かってくれる神様と、契約するのね?」
だが、ギンは首を振った。その黄金の瞳には、どこか寂寥感が漂っている。
『いや、そこにはもう、女神と呼ばれた精霊は残っていない。……私のように依代を得ることも、魔に堕ちて生きながらえることも選ばず、人々に忘れ去られるがままに消えてしまったのだ』
ギンは静かに歩き出した。たどり着いたのは、深い森の奥、雪に埋もれかけた小さな石の祠だった。屋根は崩れ、かつての威容はない。けれど、その中心に置かれた台座の上には、周囲の冷気とは一線を画す、透き通るようなみずみずしい水晶石が鎮座していた。
『長く神がいなかったことで、祠に満ちていた澄んだ魔力が、その石に溜まっている。……ミラベル、それを持て。一時的ではあるが、それは他の「元神」たちの依代となる器になるはずだ』
ミラベルは祠の前に膝をつき、そっと手を合わせた。 かつてここで、雨を願い、恵みに感謝した人々がいた。今は誰も来なくなってしまったこの場所で、一人静かに消えていった女神の孤独を思い、胸が締め付けられる。
「……長い間、お疲れ様でした。この石、大切にお借りしていきますね。いつか、ケインさんと一緒に……この水晶石を戻しにきますから」
ミラベルがそっと水晶石に触れると、石は彼女の手のひらで、まるで生きているかのように微かな熱を帯びた。 その瞬間。
(……ありがとう……)
鈴の音のような、透き通った女性の声が耳元を掠めた気がした。
「えっ……? 今、誰か……」
驚いて顔を上げたミラベルに、ギンは淡々とした声で返した。
『風の音だろう。……さあ、行くぞ。その石があれば、次に巡る聖域で、力を失いかけている者たちとの交渉がスムーズに進むはずだ』
ミラベルは不思議そうに首を傾げながらも、預かった水晶石を胸元に大切にしまい込んだ。 消えてしまった女神が遺した、最後の奇跡。 それは、ケインを救うための「器」として、ミラベルの旅に新たな希望を灯していた。
街を離れてから数日。ギンの背に揺られながら辿り着いたのは、雲を眼下に見下ろす冬山の頂だった。
「はぁ……はぁ……、ギン、空気が……薄い、よ……」
ギンの加護があるとはいえ、標高の高さにミラベルは肩を上下させ、白く凍てつく息を吐き出す。マジックバッグから取り出した鹿肉の干し肉を噛み締め、必死に「精」を補給するが、寒さと気圧の低さが体力を削っていく。
その時、ギンの喉の奥から地響きのような唸り声が漏れた。それに呼応するように、鉛色の空が突如として真っ赤に染まる。
「キェェェェェエエエッ!!」
鼓膜を突き刺すような鋭い鳴き声とともに、天空から巨大な影が舞い降りた。 それは、全身に燃え盛る炎のような羽を纏った、三本脚の巨大な魔鳥。かつて太陽神として人々に崇められていた、古の神獣「ルー」だった。
『ルーよ。久しいな。我らと同じく落ちぶれたお前に、一つ話がある』
ギンが重厚な声を響かせ、ケインという器に力を預ける「契約」を提案した。だが、ルーは冷笑するようにその嘴を歪めた。
『……契約だと? 笑わせるな。人々に忘れられ、石像一つ残らぬこの地の寒さに、私の誇りはとうに枯れ果てたわ!』
ルーの両翼が激しく羽ばたき、周囲の雪を一瞬で蒸発させるほどの熱風が吹き荒れる。
『私はもはや神などではない。これより魔力に身を委ね、麓の街を焼き尽くし、恐怖によって我が名を再び刻んでくれるわ! 契約を望むというなら……私を力で屈してみせよ!』
ルーの紅蓮の瞳が、敵意を剥き出しにして二人を捉えた。
「そんな……交渉どころか、戦うしかないの!?」
ミラベルは、吹き荒れる熱気と冷気の渦に耐えながらギンの首筋にしがみつく。
『……ミラベル、覚悟を決めろ。奴を仕留めるのではない、正気に戻すのだ。だが、それには私の全力をぶつける必要がある……!』
「……っ、わかってる! ギン、私の『精』、全部持っていきなさい!」
ミラベルが叫んだ瞬間、ギンの体が銀色の雷光を纏って膨れ上がった。 かつて世界を支えた二柱の古き神々による、空を割り、大地を溶かす激突。
しかし、ギンの爪が、ルーの炎が振るわれるたび、ミラベルの視界は急激に暗くなっていく。魂の芯から根こそぎ力が吸い上げられる、凄まじい「対価」の苦しみが彼女を襲っていた。
銀世界の頂上は、もはや地獄の様相を呈していた。 空を焼き尽くすルーの紅蓮の炎と、大地を震わせるギンの銀色に輝く雷光。二つの神威がぶつかり合うたび、山頂の岩肌は溶け、衝撃波が雲を散らす。
だが、その中心でギンの背にしがみつくミラベルの消耗は、もはや限界を超えていた。
(……あ、つい……。なのに、身体が、冷たい……)
ギンが跳躍し、雷光を放つたびに、ミラベルの体内から凄まじい勢いで『精』が吸い上げられていく。マジックバッグから手当たり次第に食べ物を掴み、口へ押し込むが、補給が追いつかない。ついには蓄えていた食料が底をつき始めた。
『……ミラベル! 無理だ、これ以上は貴様の命に関わる。一度退くぞ!』
ギンの焦燥に満ちた思念が響く。だが、ミラベルは震える手でギンの毛並みを力一杯掴み、血の気の失せた唇を噛み切った。
「……ダメ……。やめないで、ギン!」
視界が真っ暗になり、意識が遠のく。極限の飢餓と疲労の中で、ミラベルは地面に這いつくばるようにして、雪の下から覗く凍りついた雑草をむしり取ると、そのまま口にねじ込んだ。泥の味と、胃を突き刺すような苦味。
「ケインさんは……もっと、もっと……辛いところにいるの。一人で、世界を背負わされて……! ギン、お願い、絶対に屈服させて! そのためなら……私の魂の一部だって、差し出したって構わない!!」
その魂の叫び、勇者を想う狂気的なまでの執念が、契約を通じてギンの心核に火をつけた。
『――よかろう。小娘、その覚悟……確かに受け取った!』
ギンの咆哮が山々を揺らし、その額からかつてないほど巨大な「雷光の角」が突き出した。 神獣としての全盛期すら彷彿とさせる、純白の雷の柱。
『……なっ、その力……!? 貴様、小娘の命を使い潰す気か!』
ルーが驚愕に目を見開いた瞬間、ギンは流星となって天空を駆け抜けた。 雷光の一撃がルーの紅蓮の翼を真っ向から貫き、太陽神の炎を力技でねじ伏せる。
「ギ、エェェェェエエエッ!!」
爆鳴と共に、巨大な魔鳥が山頂の広場へと墜落した。 立ち込める土煙と焦げた匂いの中、ギンはその鋭い爪でルーの胸元を深く踏みつけ、低く、重厚な勝利の声を響かせた。
『……勝負ありだ、ルー。貴様の誇りは、この小娘の覚悟に敗れたのだ』
戦いは決した。 ミラベルはギンの背から崩れ落ちるように雪の上に倒れ込んだが、その瞳だけは、勝利を確認するまで決して閉じようとはしなかった
ミラベルが次に目を開けた時、視界に飛び込んできたのは灰色の空ではなく、清潔なギルドの救護室の天井だった。
「あ……気がついた? よかった、本当に心配したんだから!」
覗き込んできたのは、あの宿の女将さんの娘――ギルド職員の彼女だった。 彼女がいうには、巨大な銀狼が意識のない少女を背に乗せて街に現れた際、門番も住民も腰を抜かして大騒ぎになったという。
「ポーションや回復魔法で傷は塞がるけど、極限の『飢え』だけはどうしようもなくて……。今はとにかく、何かお腹に入れなさい」
ミラベルは力なく頷き、差し出された温かいスープを一口、また一口と喉に流し込んだ。胃が熱を帯び、凍りついていた感覚がようやく戻ってくる。
枕元では、影の中に潜むギンの黄金の瞳が、安堵の色を浮かべて光っていた。 その傍らには、慈雨の女神の祠から持ち出したあの水晶石が置かれている。今はその石の芯に、揺らめく炎のような小さな紅い光が宿っていた。
『ルーも観念したぞ。今は水晶石の中で傷を癒すため、大人しくしている。……お前も、早く食べて体力を戻せ』
「……よかった。ルーも、一緒に来てくれるのね」
『ああ。……だが、無茶をさせた。私に全力を出させるために、お前は自分の命の源まで燃やし尽くしたのだ。おそらく、数年ほど寿命を失ってしまったかもしれんぞ』
ギンの静かな告白に、ミラベルはスープを口に運ぶ手を止め、少しだけ考え込んだ。そして、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。
「うん、大丈夫。私、100歳まで生きるつもりだったから。それが数年減ったくらい、ケインさんに会えない時間に比べたら、なんてことないわ」
その言葉を聞いたギンは、一瞬だけ呆れたように耳を伏せたが、すぐに鼻を鳴らして『……ふん、大馬鹿者が』と短く笑った。それは、初めて彼が見せた、神ではなく「相棒」としての暖かな笑いだった。
「……ねぇ、ギン。あなたが力を使ったら、私が気絶しちゃうくらい精を使い果たすはずよね? なのに、どうやってここまで私を運んでくれたの?」
『……ルーの奴が墜落した際、散った羽根をいくつか食らったのだ。神獣の魔力を直接取り込んだおかげで、一時的に私自身の力で動けた。……ついでに、お前のマジックバッグにもいくつか放り込んでおいたぞ』
ミラベルがバッグを探ると、中から燃えるような紅い羽根が数枚出てきた。触れても熱くないが、生きているように脈動する神秘的な輝き。 それを横で見ていたギルドのお姉さんが、悲鳴に近い声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って! それ……鑑定するまでもないわ、伝説のフェニックス(ルー)の羽根じゃない! 一枚で城が建つとまでは言わないけど、一生遊んで暮らせるほどの報酬になるわよ!」
「えっ!? これ、そんなに凄いの……?」
思わぬ副産物に、ミラベルの目が点になる。当面の路銀どころか、ケインを救うための旅路に必要な資金は、これでお釣りが来るほど揃ってしまった。
「……ふふ、これでケインさんに、もっと贅沢なご飯をいっぱい作ってあげられるわね」
ミラベルは再びスープを啜りながら、窓の外の西の空を見つめた。 失った寿命も、消えない飢えも、今は誇らしい勲章のように感じていた。
数日後。ギルドの宿で栄養をたっぷり摂り、睡眠も十分。すっかり元気になったミラベルは、再び西への道を突き進んでいた。
「銀貨も金貨もたっぷりあるし、フェニックスの羽根もある! もう食費を気にせずケインさんの元へ一直線なんだから!」
そう意気込むミラベルだったが、すぐに「ぐぅ」と腹の虫が鳴る。
「……の前に、まずは腹ごしらえね」
街道沿いにある、旅人がよく使う野営に使うちょうどいい洞穴を見つけ、そこでお昼休憩にすることにした。マジックバッグから取り出したのは、街で仕入れた新鮮な肉と、冬でも瑞々しい根菜たち。
「今日は豪華にポトフを作っちゃうんだから」
ミラベルが鼻歌まじりに野菜を切っていると、胸元の水晶石がカッと熱を帯びた。 すると、中から一筋の火の粉が飛び出し、ミラベルの肩に着地する。
「え……ルー?」
そこにいたのは、炎を纏った小鳥サイズのルーだった。かつての神々しい魔鳥の面影はなく、まるで村にいるスズメがメラメラと燃えているような姿だ。
「かわいすぎる……! スズメみたいで、なんだか美味し……じゃなくて、愛らしいわ!」 『プッ……。おい、あの偉そうな太陽神が、今やただの焼き鳥もどきか。傑作だな』
ルーの変貌した姿を見たギンが、腹を抱えてルーを馬鹿にする。 『……うるさいぞ、駄犬! 暇だから仮の姿で出てきただけだ。……ほら、さっさと作れ。火くらいは貸してやる』
ルーが嘴から小さな火花を飛ばすと、積み上げられた薪に一瞬で火がついた。 「わあ、便利! 魔法のコンロみたいね。ありがとう、ルー!」
早速、鍋からいい匂いが立ち込める。ミラベルは出来立てのポトフを「はふはふ」と幸せそうに頬張った。しっかりした食事を摂ると、ギンと繋がっている「精」が満たされていくのがわかる。
しかし、食後の一服を楽しんでいたその時。 ギンとルーが、同時に西の空をハッと見つめ、鋭い殺気を放った。
『……風向きが変わったな』 ギンの低い声が、洞穴の空気を震わせる。
『ほう、風の勇者か。……いや、もはや「風」などという生温いものではない。あれは――「雷」だな』
「え……? ギ、ギン、どういうこと?」
『あの男、また別の力を取り込みおったな。風が荒ぶり、雷へと変貌を遂げている。……一段階、魔王への階段を上ったぞ』
西方の地で、ケインに何が起きたのか。 新たな敵を討ったのか、あるいは強すぎる宿命が彼の魔力を変質させたのか。
「雷の勇者……。そんな、また一歩、魔王に近づいちゃうなんて……」
ミラベルは、手元に残ったポトフの器を強く握りしめた。 力が強まれば強まるほど、彼は人間から、そしてミラベルの知る「ケインさん」から遠ざかっていく。
「急がなきゃ。……もう一杯おかわりして、すぐ出発よ、ギン!」
『このタイミングでもう一杯食べるのか……随分と図太くなったものよ』と呆れるギンを尻目に、ミラベルは残りのポトフを猛烈な勢いでかき込み、短くなった髪をなびかせてギンの背に飛び乗った。
冬の風を切り裂き、銀色の閃光が再び西へと走り出す。 その速度は、焦燥感とともに一段と速まっていた。




