魔導書との製作
「私の能力は『願望の実現』。願いに応じた時間がかかるけど、望んだものは全て作れる」
彼女はゆったりとした口調ながらも、はっきりとそう言いきる。
「じゃあ、仮にどんな魔導書の能力も効かない万能チート武器がほしいって僕が願えば、ウチハの能力で作れるってわけかい?」
「うん、猟犬たちが頑張って作ってくれる。禁書の時は聖釘のせいであの子たちを使役することしかできないけど、あの子たちを使って異常物品を作ることが本来の能力」
なるほど、これはまた強力な能力である。
というか、彼女がいれば『偉大なる昏き魔導書』とか言うラスボスも簡単に倒せる気がする。
そんな考えが顔に出ていたのか、ライラが僕に言ってくる。
「若葉ったら、『これで魔導書蒐集楽勝!』なんて考えてないかしら? その考えは甘いわよ」
「どうしてだい?」
『魔導書はかいばくだん』とか『どく█いスイッチ』とかどこぞの22世紀の道具みたいな便利なものが作れるのだから、今までの戦闘と比べたらずいぶん難易度が下がると思うのだが……
「さっきの火ーちゃんの話聞いてた? 願いに応じた時間がかかるって言ってたでしょ。魔導書を簡単に倒せる武器なんて億年単位で待たなきゃ無理よ」
世の中そう旨い話はないらしい……
「でも、時間を操作できる魔導書がいれば、その問題は解決する。それでも『アル・アジフ』相手だと彼女を捕縛する『紐』を作るのが限界だけど」
ウチハが淡々とそう述べる。
だが、そう簡単に時間を操作できる魔導書何て見つかるだろうか?
「ちなみに時間操作をできる魔導書ってのはライラ達の知る限り何人いるんだい?」
「時間操作系だと友好的な子たちが3人ほど、あと10人ぐらい中立の子がいて、ヤバいやつが2人ってとこかしら」
ライラが指を折って数えながらそう答える。
合計15人か。
「じゃあ、見つけるまでは地道に魔導書を蒐集するしかなさそうだね」
「中々長い道のりなの……」
僕の膝に座っているグースとともに少し落胆していると、ウチハが僕らに向かって声をかけてきた。
「大丈夫、時間操作系の魔導書だけを探す道具ぐらいなら、機能も少ないし検索範囲を狭めれば今すぐ作れる」
「本当かい!?」
大量の魔導書が集まる場所として、ヴァチカンの『グリモア見つける君』もこの街を指していたのだから、狭い検索範囲でも時間操作系の魔導書が見つかるかもしれない。
僕は食い気味にウチハに問い返す。
「本当。せっかくだからどうやってできるか見せてあげる」
彼女がそう言って詠唱を始める。
「鋭角に囲まれし境界より出でて祝福を届ける者どもよ。我は汝らが進むべきを道を作らん」
彼女の声音は落ち着いたものであったが、服装も相まって僕の部屋を神秘的なものにしていった。
「曲線に阻まれし哀れな忠犬どもよ。我は汝らが待望せし門を開かん。今こそ不条理を噛み殺せ」
詠唱が進むとともに、部屋の隅が光を放ちだす。
「疾駆せよ勤勉なる猟犬ども」
彼女がそう言葉を紡ぐと3体の猟犬が現れるのだった。
大きさはカレンさんが出した時と一緒であったが、あの時と違って猟犬たちの毛並みは輝いていて、目は生気に満ちていた。
彼らは主であるウチハの願いをかなえるために、部屋の壁をすり抜けてそれぞれ別の方向に走り出す。
数十秒もすると、彼らは何か得体のしれない宝石や巻物を加えて戻ってくる。
彼らはそれぞれが持ち帰った不思議な物品達を部屋の中央に置くと、それを囲んで走り始める。
そのスピードはこの世の猟犬が出せるような速度ではなく、あまりの速さで宝石たちと僕らの間に黒い残像の壁ができるくらいであった。
しばらくそんな時間が続いていたが、ふと猟犬たちがスピードを落とし始める。
遂に彼らが普通の犬と同じ速度になると、彼らはそれぞれ三方向に走っていって壁に溶けていった。
僕らが部屋の中央に視線を戻すと、そこに不思議な物品達の姿はなく、代わりに美しい正八面体の紅い宝石のついたペンダントが強い存在感を放っていた。
「これで、完成。ここから半径十マイル以内に時間操作系魔導書がいれば、宝石がその方向に引き寄せられる。ちなみに近ければ近いほど強い力で引っ張られる」
彼女は淡々と完成した物品について説明してくれる。
「これってもう起動してるのかい?」
神秘的な異常物品を目の当たりにした僕は少し興奮しながら彼女に尋ねる。
「いや、この子は名前が呼ばれると起動する」
「その名前を教えてほしいんだよ!」
早く起動したくてうずうずしているのはグースも同じなようで、彼女が大きな声で尋ねる。
珍しくライラは冷めた目でペンダントを眺めていた。
そんな中ウチハが彼女の名前を告げる。
「『グリモア見つける君改良型対時間操作系用』起動せよ」
彼女がそう言ってペンダントを起動した瞬間、僕はなんとなくライラが冷めた目をしている理由が分かった気がした。




