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冒険者と少女  作者: 某某
6/8

追加EP#1 少女と死にかけ冒険者


私の両親は、魔獣の中でもひときわ凶暴で個体数も少なく神出鬼没である、『希少種』と呼ばれる魔獣に殺された。

半年前、両親は森近くの花畑へ出かけた。なんでも、森の周辺でしか咲かない、育たない、貴重な花があるらしく、それを見に行ったのだとか。

当時、店の仕事で任されることが増えてきた私だ、一日くらいならば両親がいなくても大丈夫だろうと考え、両親にそれを伝えると、親孝行な娘だ!などと喜んで、少し躊躇いがちに、でもとても嬉しそうに店を私に任せてくれた。

その後、一日経っても帰ってこない両親。何かあったのだろうかと思い始めた頃。

鎧を着た、兵士らしき人がうちに来て、両親は死んだのだと言った。

なんでも、あの花畑には、魔獣の群生地である森の近くであるにもかかわらず、滅多に魔獣が現れないことで、魔獣を引き寄せないようにする術式がきちんと張り巡らされてなかったのだという。

そこへ向かった両親。そして、突然現れた希少種。希少種が近いうちに現れる場所には、通常の魔獣は現れないという説があった。つまり、そこは希少種の発生地点だったのだ。

戦う技術のない一般人と、戦闘職ですら倒すことが難しいとされる希少種。力の差は歴然で――――――


「あなたの両親は、希少種の犠牲になった」


そう、兵士は言った。




まず、お父さんがお母さんを庇って殺された。お母さんは、全身傷だらけ、片腕を失った状態で、不幸中の幸いというべきか、近くに偶然いた冒険者に助けを求めた。その直後、息絶えたという。

すぐにでも討伐隊を結成し、希少種が街に近づく前に討伐すると兵士は言った。

目の前が真っ暗になった。心も真っ暗になった。何も見えなくなった。

私があの時二人を送り出さなければ、二人は死なずに済んだのかもしれない。よく、そう考えては、自分自身が嫌になる。

過去には戻れない。過去は変えられない。そう自分に言い聞かせては、夜な夜な泣きじゃくる日々。

何日か経って、また同じ鎧の兵士が来た。

曰く、希少種は無事討伐された。魔獣除けの術式はより強固に張り巡らされ直し、最初に出た夫婦二人の犠牲を最後に、誰一人、犠牲者は出なかった。

何が無事なのだろう。最初に人が犠牲になったんでしょう?それのどこが無事なのか。第一、術式が不十分だったから両親は死んだんじゃないのか。なぜ、もっと厳重に張らなかった。なぜ、注意を怠った。なぜ、なぜ、なぜ―――――――、


「――――――」


「あなたの両親の犠牲は、尊いものだ。あなたの両親が、人々の平和を守ったも同然。あなたの母親が、知らせてくれなければ、最悪希少種は街に入り込み、さらに犠牲者が出ていたことだろう。よって、感謝を。人々の安寧は、彼らに守られた」


自分ではどんな表情になっているかわからないけれど、とても人に見せられるものじゃないことだけはわかった。

そんな私の顔が見えているのかいないのか、兵士は淡々と言葉を紡いだ。

淡々としているようで、よく聞けば、彼の言葉一つ一つに、尊敬にも似た感情、感謝の念が含まれていることに気付いた。でも、違う。

私は、せめて一言でいいから、謝ってほしかった。

あなたの両親を助けることができなくてすみませんでした。術式に不備があり、二人の尊い命が失われてしまいました。こちらの落ち度でした。申し訳ございませんでした。

そこまで深くなくたっていい、ただ一言、ごめんなさい、と。


「―――――やまってください・・・・」


「?」


「二人にっ・・・・謝って、くださいっ・・・・!」


激情とともに目元から熱いものがあふれ出した。

兵士は、はっとして、


「申し訳、ございませんでした」


その言葉が、最も淡々としているように聞こえて。

涙でゆがんだ視界では、兵士がどんな顔をしているのか、よく見えなかった。


















それから、半年ほど経ったある日。

数日に一度、両親が死んだ花畑を訪れては花束を置いて、去る。

今も苦しいままだけど、失った悲しみを忘れたくないから、いつしか習慣と化していた行動。

その日も、花束を持って、街を出た。


「―――――――」


血だらけで、倒れている人がいた。

お父さんも、お母さんもこんな風に死んでいったのだろうか。

ぼーっとその人を見て、考えている自分がいた。

そうして数秒。我に返ると、その人に駆け寄った。

もう自分の知っている人が、両親と同じように死ぬなんて嫌だ。

目の前で、死にかけている人だって、もう自分の知っている人だ。


「だ、大丈夫ですか!?」


「――――――――」


顔を覗き込むと、男性のようだった。返事はない。意識もない。脈は・・・・大丈夫。

心配なのはその出血量と傷だけど・・・・。――――――!?


「傷が、ほぼ塞がってる・・・・!?」


致命傷はほぼ塞がっている。ただ、あくまで致命傷だけなので、このまま放置しておけばいずれ血が足りなくなって、死んでしまうことは変わらない。

しかし、これだけ血が出る大けがなのだ、自然に治ったとは思い難い。ということは、つまり。

以前、お父さんが言っていた。

冒険者は、職に就く際、身分証明兼生存率向上のため、独自の回復系魔術式を体に埋め込むという。


「この人、冒険者なんだ」


血で、赤黒く染まってはいるが、装備はまだ新しい。駆け出し冒険者なのだろうか。

血だらけ・・・・駆け出し・・・・今自分が気になっている『ある人物』と特徴が重なった。


「・・・・ないない」


そんな偶然あるはずないし。

バカなことを考えてないで、早く街まで運ばなくては・・・・。

治療術師のところへ行こうかとも思ったが、あそこは料金が高い。それほど金銭的に余裕があるわけではない自分だ。駆け出しであろうこの人もまた、金銭に余裕があるとは思えない。


「これも何かの縁だよね・・・・」


彼が元気になるまで、自分が介抱しよう。

幸い、致命傷は塞がっている。たっぷり、とまではいかないものの、時間に多少は余裕があるはず。

なんとか背負えるか試してみる。・・・・重い。


「門まで、なんとか頑張ろう・・・・!」


街の門にたどり着けば、衛兵さんたちがいる。彼らに誰か人を呼んでもらって、運ぶのを手伝ってもらおう。

冒険者の足を引き摺る形になってしまうものの、ギリギリ背負って行けそうだ。

待ってて。すぐに助けるから。


―――――それが、(ディード)と出会ったきっかけ。

間抜けお調子慢心過信盲目的バカ(以下略)冒険者さんと少女が出会ったきっかけ。

フィーがその日、花畑へ向かおうとしなければ、もっと言えば両親を失っていなければ。

ディードは死んでたかも。

フィーの両親が亡くなったら、ディードが助かり、フィーの両親が存命だったならば、ディードが亡くなっていたかもしれない。

結局、どちらにしても最低一人は亡くなっていた可能性が高い。

フィーの両親はディードの命の恩人・・・・心情的に複雑ですが。

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