EP#5 冒険者と少女のハッピーエンド
いやはや遅れてしまった。
なかなか納得いく形にならなかったもので。一応は納得しました。書き直すかもしれませんが。
「本気で、言ってんのか・・・・?」
「は・・・・?」
何を言っているか理解できない、というようなシルを見て、俺は何か違和感を覚えた。
もしや、こいつも知らないのか?と考えて、すぐにその考えを破棄する。
こいつは、俺と違ってよく街にいる。正直、親の脛かじり虫なんじゃないかというくらい。俺は当時、一日中狩りをしていてほぼ街の外にいたため、噂のことを知らずにいたが、シルなら、街の花屋の娘が知っているような情報など、酒場で噂が出始めたかなり早期から聞いたことがあるはずだ。
「いや、例の異名持ちの冒険者だよ、知ってるだろ・・・・?」
「あ、ああ。知ってる。もちろん知ってる」
ホッとした。どうやら何も知らないから何を言っているかわからない、という類いの疑問ではないようだ。
ならばなぜ、理解不能と顔で語るのか。
「じゃあ、教えてくれよ」
「それ、冗談のつもりで言ってるわけじゃあ、ねえんだよな?」
本当にどうしたこいつ。何がそんなに不思議なのだ。
何か、食い違いのようなものを感じる。
それを正すことも考え、俺はシルの問いに頷く。
「・・・・もちろん、そうだが」
しばらく俺の真意を測りかねていたようだったが、やがて一つの結論に達したらしく、彼は大きくうなずいた。
「わかった、教えてやるよ。『死を呼ぶ新参者』の正体」
「頼む」
ゴクリ、と唾をのむ。
一体、どのような奴なのだろう。
やっぱり、美形なのか?それとも、あまり容姿は整っていない?
戦闘センスの方は、駆け出しとしては異常なほど高いらしい。じゃあ、性格は?いいやつなのか悪いやつなのか?
結構残虐なやつなのではないだろうか。魔獣の血で真っ赤になりながら依頼から帰ってきたと聞くし。
じゃあ俺でも勝ち目はあるのでは・・・・いや、もしそいつがとてつもなく美形で、フィーが容姿で人を判断するような女だったら勝ち目がない・・・・いや、フィーは人を見かけで判断するような女じゃない、はず・・・・。
でも、俺ずっとフィーのこと騙してたし・・・・外面だけでなく、内面も最悪だ。
じゃあ、やはり、勝ち目ない・・・・?俺、結局振られるじゃん・・・・。
端から勝負の土俵に立とうともせず、諦めていたもともとの彼を考えれば、告白することを決意したことは、かなり大きな心境の変化と言えるのだが・・・・。
ディードはそれに気づいていない。自分のことに関しては、かなり鈍感な彼だった。
――――ええい、ままよ。もう当たって砕けろ、シルの精神だ。どんなに無謀だったとしても、告白してやる。
「そいつは―――――――――」
シルが口を開いて出てきた、『死を呼ぶ新参者』の正体。それは――――――
「いらっしゃいませー・・・・あ、ディード!こんにちは!」
「おう」
もうそこそこの回数交わした挨拶。
俺はすでに、常連と言ってもいいくらいの回数、この店を訪れていた。
「今日は何をお求めでしょうか?」
「・・・・」
「ディード・・・・?どうしたの・・・・?」
急にだんまりを決め込んだ俺に、心配そうな目を向けてくるフィー。
――――――本当に、やさしいやつだな。フィーは。
だから、好きになったのだ。
「・・・・話が」
「え?」
「・・・・話が、あるんだ。俺についてきてくれないか?」
「え・・・・っと・・・・」
俺の目から何を感じ取ったか、すぐに彼女は了解してくれた。
「うん、わかった。店閉めるから待ってて」
「話って、なに・・・・?」
そこは、街の中の路地裏の片隅。
俺が何度も、自問自答した場所だった。
ムードもへったくれもないが、俺にはそこが自分の気持ちを伝える最上級の場であるように思えた。
心臓が元気にはしゃぎ始めた。やめろ、暴れるな。
胸が痛い。まずい、魔獣の攻撃より痛い。
持病の発作が始まったらしい。
ついに、決着をつける時が来た。
俺が今までしてきたことを話せば、恐らく―――――否、ほぼ確実に振られる。
そして、彼女の想いを踏みにじることになる。
気持ちを受け入れられるか、否か。
後者の確率の方が圧倒的に高いが、これで持病の苦しみにも、折り合いをつけられるはず。
―――――本人に拒絶されればきっと、諦められる。
端から諦めムードだが、それは仕方のないこと。
俺は彼女に、本当に、本当に、悪いことをしたのだから。
それでも伝えようと思えたのは、だいたいがアイツのおかげ。
間違っても、口に出して呼ぶことはできない、親友のおかげだ。
「俺は・・・・」
苦しい。
「うん」
胸の苦痛も、彼女の声を聴けば安らぎ、いくらかマシになる。
「俺はっ・・・・」
――――――言え。
自分で自分の背中を押すように、心中で俺を急かす己の声。
「うん。ゆっくりでもいいよ」
「・・・・俺は、フィーが・・・・」
―――――――言え。言え。
背中を押すような急かす声も、早まっていく。大きくなっていく。
「・・・・うん」
――――――――言えっっっっ!!!!!!!!!!!!!
心中で叫ぶ己の声。それをかみ砕き、言葉に込めて、放つ。
「フィールのことが、好きだ」
「・・・・ふぇ・・・・?」
自分の予想とだいぶかけ離れたことを言われたらしい彼女は、即座にアクションを起こすなく、硬直してしまった。
「そ、それって・・・・」
「・・・・」
「恋愛とか、そういう意味ですか・・・・?」
「そう、です・・・・」
「ふぇぇ・・・・」
やっと自分の状況を理解したらしいフィー。
顔を真っ赤にして、悶え始めた。
かわいいなぁ・・・・。
「で、でもっ、わたっ私っディードに好かれるようなこと、全然してないよっ!?」
「命を救われて、看病してもらって、惚れた」
「ぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」
もう茹ったタコのように真っ赤っかな彼女は、とても恥ずかしそうだった。
かわいい。かわいいのだが、俺は、肝心なことを聞いていない。
「返事は・・・・?」
「えっ、えっ、えっと、その、あの、えっと・・・・」
「一回、落ち着いてくれ」
「う、うん・・・・」
すぅーはぁー、深呼吸。
何度目かで、やっと少し冷静になったらしい。
彼女の形のいい唇が動く。
「多分、私も、ディードのこと、好きだよ・・・・」
「え」
そんな、バカな。
おかしい。何かの間違いだ、そんな、そんな―――――――
「ディード優しいもん。会うたびに優しくされてたら、そりゃあ・・・・好きになるよ・・・・」
「で、でも・・・・!」
おかしい。俺の予想していた返事と違う。
俺は、断られるものと思ったのだが。
なのになぜ、だって、フィーには好きな人がいるんじゃ――――――
「『死を呼ぶ新参者』のことが好きなんじゃないのか・・・・?」
「えぇ!?な、何で知ってるの!?私、言ってないよね!」
「そりゃあ、アイツの話すると、見てればわかるくらいにデへデへしてたし・・・・」
あ、ショートした。
全身の血が集まっているかのごとく、顔が真っ赤になっている。なんか湯気見えるし。
「~~~~~~~!!」
だから、そんなに好きなら、なぜ?
「・・・・赤面するくらい好きなんだろ?なのに、何で俺が好きとか嘘つくんだよ・・・・」
「――――――ひとつ、違ってるところがいるよ」
「――――何が違うんだよ」
「それは、うん。私、あの人のことは好きだったよ」
「じゃあ・・・・!」
「でも、あくまで、だった、なの。過去形。今の私が好きな人は、私の目の前にいる」
「でも、でも・・・・!あんなに、幸せそうに、あいつのことっ・・・・!」
「じゃあ、ね?ディードに質問。身近にいて、いつも優しくしてくれる人と、どこにいるかもわからない人。ディードなら、どっちを好きになる・・・・?」
「・・・・身近にいる人」
「でしょう?そういうことなの。だから、前の私は、確かにその人のことが好きだったけど、今の私は、あなたのことが、その・・・・大好き、なの・・・・」
「だい、すき・・・・」
そう言われて、胸が締め付けられているような痛みを覚えた。
それは、恋愛的なものなんかじゃなく―――――、
「俺は、フィーが思ってるほど、優しくなんてねえよ」
「ディード・・・・?」
「俺は、君を、ずっとだましてきた」
「どういう、こと?」
覚悟を決めろ、言うんだ。言え。
――――隠し事は、無しだろ?
親友の声が頭に響く。
――――ありがとうな、シル。
お前の言葉で、覚悟が決まる。
今度何かおごってやるよ、親友。
だから、振られたらめいっぱい慰めてくれよ・・・・?
「本当は、『死を呼ぶ新参者』の正体は、だいぶ前からつかめそうだったんだ」
「え・・・・?」
「でも、俺は・・・・君を『死を呼ぶ新参者』に取られるのが、渡すのが・・・・怖くて・・・・嫌で。だから自分の身勝手で、君が『死を呼ぶ新参者』にたどり着くのを阻止してた。・・・・本当に、ごめん」
心中の醜悪の塊を、思うがままにさらけ出す。ぶちまける。
彼女の顔が見れなくて、目をそらす。
結局自分可愛さで、彼女の傷ついた顔を見て、自分が傷つくのが嫌で、目をそらすのだ。
本当に、醜悪の塊だ。
そんな俺が、彼女にすべてを打ち明けたら、何も残らないのではないだろうか。
それこそ、己に残された抜け殻すら醜悪で出来ているだろうから。
「ディード・・・・」
「謝って済むものでもないってわかってる。でも、許される許されない関係なく、謝らせてほしい。本当に、ごめん。ごめんなさい」
頭を下げた。精一杯の誠意をこめた。
そうしないと、罪悪感で押しつぶされそうだった。
許されようと、許されなかろうと、彼女から何かしらのアクションを得て、自分は救われようとしている。
本当に、嫌な人間になってしまった。
いや、もしかしたら、元々俺の中に、存在していたものなのかもしれない。
彼女が近づいてくるのを感じる。
平手打でも、されるのだろうか。
「ねえ、ディード」
「・・・・」
「私、嬉しいんだ」
「ぇ・・・・?」
彼女の発言の意味が、そして意図が理解できなくて、俺は急いで顔を上げ、せめてその表情から、意図をつかもうとした。
――――彼女は、とても幸せそうな顔をしていた。
それは、初めて彼女の口から噂を聞いた時と、同じかそれ以上のものだった。
「こんなの、変かもしれないけど、すごく、すごく嬉しいんだ・・・・。父さんと、母さんを失って、自分を心から好きだって、必要だって言ってくれる人がいなくなって・・・・悲しかった。でも、それ以上に―――――寂しかったの。最初の一か月くらいは、毎晩泣いてた。今でも、ふとしたきっかけで泣いちゃいそうになるの」
「・・・・」
何も、言えない。
それこそ、何か気の利いたことを言って励ますべきだろうに、何も言えない。
「だから、私を好きだと言ってくれて、取られたくない、渡したくないって・・・・言ってくれる人が、私の大好きになった人だったから。本当に、本当に、ほんっとうに、嬉しいの・・・・!」
そう言って、フィーは泣き出した。
彼女の言葉の意味が頭に入って来ない。なぜ、彼女が泣いているのかもわからない。
どういうこと、なんだ?
俺は、彼女を騙して、幸せを妨げようとして・・・・でも、その行動を知った彼女の気持ちは・・・・『嬉しい』・・・・?
「でも、俺は・・・・」
「―――――あぁもう!!でもじゃないの!あなたが好きなの!それでもういいの!!」
「でも・・・・んっ!?」
不意に急接近してきた彼女に対して、咄嗟に回避行動をとることができず、接触する。
冒険者が聞いて呆れる。こんな素人に不意打ちされては、まだまだどころか三流にすら届かない。
などと、この状況に見合わない、現実逃避じみた考えで、頭が支配されたのは――――――。
――――――接触したのが胴体、ではなく―――――唇だったから。
ほんの一瞬の接触から解放されると、俺はさらに混乱した。
「な、なんで・・・・」
狼狽える青年と、綺麗な顔をこれ以上ないまで赤く染めた、少女。
「・・・・ファーストキス、あげた。これでもまだ、『でも・・・・』なんて言うの?」
「ぅ、ぁ・・・・」
「許してあげます。もう、チャラにしてあげます。怒ったりしてないから、ショックも受けてないから。だから、だから、ずっと一緒にいて」
「い・・・・いいのか・・・・?俺、なんかで」
「ディードでいい。ディードがいい」
「・・・・ありがとう。―――――――のあっ!?」
またも不意打ち、今度は抱きつかれる。
これは完全に鍛えなおさなければいけないな・・・・などと、現実逃避じみた感想が頭を支配したのは、彼女の柔かいからだと、優しい匂いのせい。
抱きついてくる彼女の腰に、恐る恐る手を回す。
すると、ふふっ、と、嬉しそうに笑って、さらに強く抱きしめられた。
「・・・・好きだ」
「うん」
「・・・・大好きだ」
「・・・・うん」
「愛してる」
「うんっ!」
どうやら、告白は成功してしまったらしい。
嬉しいが、俺の今までの葛藤は何だったんだ・・・・とどこか悲しい気持ちになった。
まあその葛藤も、自業自得だ。
その葛藤の果てに、彼女と結ばれることができたのだから、無駄ではなかったのだろう。
その無駄ではなかった葛藤を、忘れることがないよう、彼女を、騙した分だけ、大切にしていこう。
俺の抜け殻のようだった心を、何か温かい物が満たしていくのを感じた。
「ところで・・・・」
「おう」
「『死を呼ぶ新参者』って、結局どんな人だったの?」
当然の疑問だ。
俺もついさっき知った正体だが、かなり驚いた。
「知りたいか?」
「うん。一応、好きだった人だから。どういう人だったのか、名前くらいは、知っておきたいかなって」
「俺」
「え・・・・?」
「正体、俺だった」
「はあああああああ!!!!?」
はい、『死を呼ぶ新参者』は俺でした。
驚きました。スゲエ驚きました。
まさか、今まで自分自身を恋敵だと認識していたとは。
ちなみに、フィーが俺でなく、『死を呼ぶ新参者』を選んでいた場合。
彼女に正体を打ち明け、平手打でも食らって潔く振られようと思っていた。
俺が、彼女に今までしてきた本当に、本当に、悪いこと。
それが、これ。
一歩間違えれば、フィーを大きく傷つけていた。
それに、俺と『死を呼ぶ新参者』には、いくつか共通点があったのだ。よく考えれば、気づけていたかもしれない。
「まず、俺とそいつは同期・・・・つまり、同じ試験で冒険者ギルドに入った。それが一つ」
「う、うん・・・・」
「そして、二つ目。俺は、フィーと初めて会ったあの時まで、ずっと朝から晩まで狩りばかりしてた。時には、全身を魔獣の血だらけにして、帰ってきたことも何度かあった。どうやら、それに尾鰭がついて、毎回血だらけで帰ってくるやつ・・・・という話になったらしいな」
「・・・・」
「そして三つ目。俺はある意味で、かなり仕事熱心だった。そしてそいつも、仕事熱心だと聞く。それらを踏まえると・・・・」
「同一人物、っぽいね・・・・」
「だろ?そして、俺はついさっき、知り合いに聞いたんだ。『死を呼ぶ新参者』は誰なんだ?って。そしたらそいつは、こう言ったんだ。『お前だよ、間抜け』」
「ぷふっ」
「あ、笑ったな!?」
「わ、笑ってない笑ってない・・・・ぷっ」
「くっ・・・・。だからまあ、俺が、『死を呼ぶ新参者』ってことです。その、夢壊してごめん」
「そっか・・・・。なんだか不思議な気分だなぁ・・・・」
「・・・・すまん」
「何で謝るの?別におこることでもないよ。それより、前好きだった人と、今大好きな人が、実は同じ人だったんだよ?すっごいふしぎ」
「まぁ、確かに」
俺もまあ、今まであんなにも羨ましがって、そして憎んだ相手が自分自身だったことについさっき驚いたばかりだ。
俺は今まで自分自身を憎んで、自己嫌悪に浸っていたのか・・・・あれ?つまりどういうことだ?
訳が分からなくなってきた。
「まあ、でも。それって素敵なことでもあるよね?」
「俺は、別にそうは思わないけど」
自分が二人いるみたいでむしろ嫌な気分だ。
「私にとっては素敵なの。だって、二人の好きな人が、同じ人だったってことは――――」
「同じ人だった、ってことは?」
「二倍好きになれるってことだよねっ!」
「そんなただ足したみたいな・・・・」
「別にわからなくていいよ。それにきっとこの気持ちは、二人を好きな、私にしかわからないことだから・・・・」
そう言った彼女の表情はとても光っていた。
―――――綺麗だな・・・・。
そして、そんな彼女の隣に在れるのが、自分で本当に良かった、そう思った。
「もどろっか。私、まだ営業時間中だったのに、店閉めちゃったから。もう一回開けなきゃ」
「おう」
そうしてどちらからともなく手をつないだ。
彼女に引っ張られるような形で、その場を後にしていく。
「いこっ!『死を呼ぶ新参者さんっ』
「うぐっ!?ちゅ、厨二臭いから、その名で呼ばないでくれ・・・・」
「ふふっ、『死を呼ぶ新参者さんっ!『死を呼ぶ新参者さーんっ!」
「や、やめて・・・・」
「やーだよっ!騙してた罰だよーだ!」
そう言って振り返ったフィーの顔は、いたずらっぽくて、幼さを残した笑顔だったけど。
彼女と出会ってからみた笑顔の中で、一番晴れやかなものだった。
これにて本題は完結です。
不定期&きまぐれで後日譚なり、空白の時間の話なり、前日譚なり追加していこうかと思っております。
お読みいただきありがとうございました。




