EP#4 拗らせ冒険者と親友2
「・・・・んぁ?」
口から間抜けな音が漏れる。それとほぼ同時に、俺は自分が眠っていたことに気付いた。
以前にも似たようなことがあった気がする。デジャブというやつだろうか。
でも、今度は―――――、
「お、起きたか。よかったぜ、大事に至らなくて」
「・・・・」
「んだ?どしたよ」
「・・・・いや、別に」
隣にいるのが、男だった。
何故かとてもむなしくなった。
「んじゃ、話せよ」
「・・・・おう」
時間は変わり、俺の目が完全に覚め、状況を完全に認識したころ。
俺の目が覚めるまで、シルはじっと待っていてくれた。
鬱陶しい性質から派生した性格なのか、彼は面倒見がいいらしく、
「お前、丸一日寝てたんだぞ?流石に弱すぎねえか?」
「・・・・ほっとけ」
俺が起きるまで、そばにいてくれたらしい。
それがフィーだったらどんなにうれしいことだったか。
咄嗟にそう考えてしまうあたり、本当に業が深い。
「まあ、憑き物が取れたみてえにすっきりした寝顔だったな。最近のお前からは考えられないくらいに晴れ晴れとしてた」
「それは・・・・まぁ」
いろいろと、あるからな。
そんな俺の心中はお見通しだとばかりに―――――、
「・・・・隠し事なし、だかんな」
鋭い視線でねめつけられ、昨日の殴り合いを思い出し、震え上がりそうになる。
――――こいつ、体術なら俺より強いからな・・・・。
総合的な能力で言えば俺の圧勝だが、体術一点張りなら、シルの方が俺よりいくらか上を行っていた。
それもきっと、冒険者特有の体の変化によるものだろう。
シルはシルで、才能のない者なりに、工夫しているのだ。
総合面で周りに劣るなら、一点に集中して、一つでも秀でたものを編み出そうと。
「・・・・わかったよ、言うよ」
「よし言え」
「・・・・ここ最近、ほぼ寝ずに狩り行ってた」
「はぁ!?また戦闘狂発動かよ!!まさか、例の悩み事に関係あるのか!?」
「そう、だけど・・・・」
まあ、実感があるだけいくらかマシ・・・・なのか知らないが、今回もまた、俺は拗らせている。
好きなのに、その相手にも好きな人がいて・・・・自分が少し行動を起こすだけで相手は幸せになれるかもしれない。
そんな、彼女の幸福の鍵を、俺は持っているのに・・・・使わない、使いたくない。
彼女の幸せを先送りにし、ささやかな己の幸せが、少しでも長く続くことを望んでいる。
そんな自分が嫌いで、死んでしまいたいくらい嫌いで。
でも、街の外で命がけの時間を過ごしている間だけは、それを忘れて狩りに没頭できた。
だから、彼女と会うとき以外は、ほとんどの時間を街の外で過ごした(流石に、飯は酒場で取った)。
やはり俺は、抜け殻になっても戦闘狂のままなのだ。
「よぉし!!ぜんっぶ受け止めてやらぁ!!だから、言え!!言ってみろ!!」
「・・・・そんなに、面白い話でもない、本当に、醜い話だけどな?俺は――――」
どんと来いという彼の目をしっかりと見据えて、俺は己の中にある醜悪を吐き出した。
「バカじゃねえの?」
「なっ」
「バカじゃねえの?」
「何で二回言うんだ・・・・!」
全部ぶちまけた上で、開口一番にくらった言葉がそれだ。
流石、少しばかり怒りが沸いてくる。
「だってよ?そんなに好きだってんなら、その子に言えばいいだろ?好きだー!って」
「お前っ俺がそれを言えたらどんだけ楽かっ・・・・!」
思わずつかみかかりそうになって、踏みとどまる。
「第一、お前はそんな経験あるのかよ・・・・」
「あるぞ!!故郷で告白しまくって、全部キモいで振られたぜ!!ぎゃはははは!!!!」
「はは・・・・ははは」
乾いた笑いが漏れる。
俺より闇が深いやつがすぐそばにいた。
「だから、そいつの方がその子を幸せにできる!なんてこと、例え事実だとしても気にしなくていいんだよ!!男は根性!振られてなんぼだ!!当たって砕けて、より固くなれ!!」
「砕けちゃうのかよ・・・・」
「細けえことはどーだっていいんだよ!!ようはお前の気持ちだ!!お前が、そいつ以上に、その子を幸せにできるように、努力しりゃあいい!!頑張ればいいんだ!!気持ちが強ければ、ぜってえ伝わる!!」
「でも、お前全部玉砕してるじゃん・・・・」
「それは俺の気持ちが足りなかったからだ!!そんなすぐ乗り換えて次の子に告白するなんてうすっぺれえ野郎だったから、俺は誰にも受け入れられなかったんだ。でも、お前は違う。お前は・・・・」
「俺は・・・・?」
「たとえ醜いって思ったって、その子を諦めきれなかった。そうだろ?」
「でも、フィーの気持ち、全部無視して・・・・」
そうだ、相手のことを考えないで、好きなんて言って、どうする。
相手の気持ちを顧みないで告白して、その先に何がある。
「好きって感情は、究極的にいえば、自分だけの物だ。少なくとも、俺はそう考えてる。相手がどう思ってるか考えて気遣うなんて、後づけだ。『愛し合う』と『愛する』は違う。別の感情だ。すべては、相手を手に入れたい、って感情から始まる。お前の今の状態が、それに近い」
何やら自論のようなものを持ち出してきたシル。
「お、おう。いつにも増して、お前が頼もしく見える・・・・」
「だろう?俺はいつだって頼もしいやつなんだぜ!」
「いやそこまでいってねえよ」
「・・・・本調子になってきたみてえで張り合い出てきたけどよ、すぐ否定するのはホントにやめてくれねえかな?」
いつも通りのやりとりだ。いつだって、こいつは俺に馴れ馴れしくて、そんなこいつを、俺は突き放す。
「だって事実だ」
「お前はダチ公に少しは温かい言葉をくれないのか?」
「ダチ公じゃねえ」
「・・・・」
ハァーっと、大きくため息をつくシル。
だが、その様子は悲しそうでも、少し嬉しそうでもあった。
「・・・・とにかく、お前はお前の気持ちを正々堂々ぶつけろ!!もし振られても、俺が慰めてやらぁ!!失恋と体術に関しては、俺はお前の先を行ってる!!」
「かっこいいこと言ってるようで、まるでかっこついてねえな・・・・」
「そうだ、俺はそれでいいんだ。でも、お前はこれからかっこつけに行くんだ。行けよ、正々堂々と!!親友野郎!!」
「・・・・ああ」
気持ちはまだまとまっていない、でも、道は示されたような気がした。
あとは、道を進みながら、気持ちを整えていけばいい。
たどり着いた先で、きっと形になっている。
でも、でも俺は――――――!
「でも、俺は―――――」
「まだなにかあるのか?」
「――――――お前の親友じゃねえ」
「今それ言うのか」
頼むからたまには俺を受け入れてくれよ・・・・といつも通りの顔をした。
そう簡単には、認めてやらねえよ、親友。
「あ、そうだ」
「・・・・まだ何か?」
傷心状態でうなだれるシルを見据える。
大事なことを、忘れていた。
「ああ。正々堂々行くなら、通らなきゃならない道だ。俺は、知らなきゃならない」
奴を、奴の正体を――――――、
「『死を呼ぶ新参者』って誰だ?」
「は・・・・?」
今まで見た呆け顔の中で、一番間抜けなものになったシル。
それでも、俺は構わずに続けた。
「『死を呼ぶ新参者』って誰なんだ?どこに、いるんだ・・・・?」
「おい、お前・・・・」
「・・・・なんだよ」
「本気で、言ってんのか・・・・?」
「は・・・・?」
何を言っているか理解できない、というようなシルを見て、俺は何か違和感を覚えた。
シルさんはかっこいいけど、異性にはモテないタイプですね。そして、同性とも、ほぼ確実に仲良くなる前に馴れ馴れしさで嫌われます。本当に、もったいない性質です。