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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第四章 真実(うそ)から出た嘘偽(しんじつ)
48/55

4-13

 ………………。


 闇から浮かんでくると、加減なしに襲ってくる激しい頭痛――。全身を駆けずり回る軋むような筋肉痛――。

 堪えつつ薄っすら瞼を開けた。辺りはすっかり暗がりになっていた。わずかにわかる天井は檜じゃなく、まっさらな画用紙のような空間が広がっている。


「うっ……ぐぐっ……まだくらくらする……」


 頭はひんやりして、背中はもこもこしている。身体を起こそうとすると、立ち眩みがすごい。


「こらこら、まだ休んでおかないとダメだよ、お前さんは」


 テーブルに座って、俺を看ていたリラに止められる。

 カーテンの閉まっていない窓から、月明かりがリラを照らす。俺は、電気の灯っていないリビングのソファーで、寝ていたようだ。たしか説得に失敗して、そのまま闇堕ちしたんだっけ。それにしても……。


「リラ。今、何時だ……?」

「二十時過ぎ、だね。ほぼ十二時間眠ってた計算だよ。それよりあの青年に感謝しなよ。お前さんをここまで運んで、夕方まで看病までしてくていたんだからね」

「それは、悪いことをしたな。明日、お礼を言っておかないとな」

「そういえば、お前さんの両親はいつ帰ってくるんだい? 今日は朝早くからでかけていたみたいだけど」


 父さんと母さんは今朝から裁判所に出向いている。新樹のソフトボールの試合の日に届いたあの手紙の件だ。


「そろそろ、帰ってくると思う。それよりもだ。鈴宮さんのオーラだ。どういうことなんだ、あれは」

「ふむ。あれは、あたいにも予想外だらけだよ。とくに驚いたのは、自身で喋れるようになっていたことさ。もっとも気になるのは、『胸の中にずっとあった』という言葉。ということはだよ。あの貧乳のおなごとオーラは、一心同体で運命共同体となっている可能性が高いね」


 真剣な面して、また変な呼び名を……。つか、リラにだけは「貧乳」て、言われたくないな。


「一心同体になるとどうなるんだ? 厄介者がさらに厄介者になるってことか?」

「前代未聞だからね。しかし、一心同体になるには裁判官の、《魂の捕獲――ソウル・キャッチ》を受けてはいけないことが最大の条件なのさ。どうやらあの魂は、一度も幻界に召さずに人に憑いたようだしね。制限がかかってないんだと思うね。ほかとは違う――雲泥の差が出るオーラのチカラが」


 いろいろ気になるワードがわんさか出てくる。俺はいても経ってもいられなくなり、ガンガン打ち響く頭痛を我慢しながら身体を起こした。


「だいじょうぶなのかい? 無理はよくないよ」

「平気だ。それであのオーラのデカさと、その雲泥の差のチカラは、やはり関係するのか?」

「たしかなことではないけど、あたいなりに推測は立ててみたよ。あの身体は、おそらく『嘘』でできたもので間違いないね。貧乳のおなごが、嘘をつくたびデカくなっていく仕組みになっている。それにしてもあのデカさは『異常』という表現以外ないけどね」


 あのオーラが鈴宮さんに寛大なのは、そういう理由もあったのか。そりゃ無理に止めたりしないか。酷使するほど自分に有益なのだから。


「オーラのチカラを弱めたりすることは無理なのか? 説得はできなくとも、今のままじゃ、鈴宮さんはどんどん昔の俺みたいに……」


 今の俺に、鈴宮さんのオーラを説得することは、不可能に近い。鈴宮さん本人を変えてくれるような人物が、鈴宮さんには必要だ。まるで――俺が新樹に出会ったように。


「あたいじゃ無理だろうね。あれは、言うなればオーラの想いの強さが作った『要塞』のようなものだからね」


 想いの強さ――。


「あっ、くっ……」


 リラのその言葉で、俺はあることを思いだし、勢いあまって立ち上がった。途端、俺に警鐘を鳴らすみたいに激痛が邪魔する。


「だから、お前さんの身体は疲労しきっている。どうしたんだい。急ぎの用でもあるのかい?」

「ああ、ちょっと、コウと約束してることがあってな。どうしても、今日じゃなきゃダメなんだ。リラ、頼みたいことがる」

「うん? なんだい。この、リラお姉さんに言ってみなさい」


 偉そうに癪に障る言い方をするリラ。だが、そんなリラが、今はありがたい。


「できればでいい。この疲労をどうにかできない。前にケガを治したみたいに」


 切羽詰まった無茶な頼みかもしれない。そんな俺の頼みにリラは頭を捻らせもしつつ、言った。


「ケガは治せる。いつかは治るものだからね。しかし例外もあるんだよ。たとえば今、お前さんが患っている疲労とかね。そういう精神面は、あたいらの対象外なんだ」


 実在する傷とかは治せても、心や脳の医者が施せない部分のことか。『よく病は気から』と言うが、リラの対象はそういうところだけのようだ。俺は、「そうだよな……」と諦める声音を出すと、リラは続けて、


「あくまで治せないってだけだよ。方法はないことはない。けど、オススメしないってだけ」

「あるのか。教えてくれ。なんでもいい。この疲れを取る方法があるのなら――」


 俺は痛みも一瞬で忘れるほどに、リラにすがった。


「その疲れを――遅らせるんだよ」

「遅らせる? 数分後とか数時間後まで、どこかにやるってことか? それは、前にリラが体温をどこかに預けていたやり方と同じやつか?」

「道理は同じ。やるかい?」

「やる。さすがリラだ。なんでも有りなんだな」

「疲労まで治してしまうと、生き物はダメになるらしいからできないと、裁判官に教えてもらったんだよ。まあ、その時点で、なんでもじゃないね」


 リラは、ブラックコーヒーを飲んだような顔で笑う。いつものをやって、リラは俺の頭に手をかざした。それから数秒――。俺の身体は、嘘のように軽くなった。


「す、すげぇ……」

「言ってなかったけど、デメリットはいつ疲労が帰ってくるかわからないところなんだよね。ほら、用事があるのなら、さっさと行くといい。猶予はそんなに長くない」

「ああ、ありがとうリラ」俺は感謝する。リラは、「礼には及ばないよ。これもあたいの任務のひとつだと思っているからね」と、澄ました顔をしていた。


 立ち上がり、すぐさま新樹の家に向かおうとしたとき、玄関の戸が開く音がした。


「お。お前さんの両親が帰ってきたみたいだね」


 そう言ったリラは、瞬時に姿を消す。俺は、とりあえず電気を点けて、玄関に赴いた。


「父さん、母さん、おかえり。おそか――」


 俺の姿が見えると、両親は、一目散に抱きついてきた。


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