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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第四章 真実(うそ)から出た嘘偽(しんじつ)
41/55

4-6

 鈴宮さんは突然、とんでもない――嘘をついた。なんのために。俺は、急いで鈴宮さんを問い詰め、新樹に誤解を解こうと試みる。


「新樹、俺と鈴宮さんは今日、偶然屋上で会っただけで。名前だって、さっき初めて知ったし、俺と鈴宮さんは、ほぼ初対面なわけで」

「なんで、屋上に行ったの?」

「そ、それは……」


 説明できる。でも、ここには鈴宮さんがいるのでしようにもできない。ここで俺は、あることに気づいた――


「色海せんぱいのはんのうをみるかぎり、ヒミツにしてたみたいですねぇ」


 新樹のオーラが、ドス黒い色になっていく。視るだけで気分が悪くなりそうな色に。俺は鈴宮さんに、感情をこめて言う。


「どういうつもりだ」

「そんなにこわい顔しないでください。色海せんぱい、かんたんなことです。わたしと解森せんぱいは屋上で、『あいびき』をしてたのですよ」


 俺の追及にさらに追い討ちをかけてくる。そう。俺は、鈴宮さんのオーラを見誤ったのだ。あれは『消失』なんかじゃない。


(お前さんが見間違うのも無理はない。あれは、あたいが言ったとおり『嘘』のオーラ。だが――異常に濃色しているようだけどね)


 リラの判別が正しかった。それを俺が邪魔した。阻害してしまった。迷い、鈍らせてしまった。結果的に俺は、足を引っ張ってしまったのだ。

 俺は唇を噛む。悔んでも仕方ないことはわかっている。


(お前さんよ。落ちこんでいる暇はないようだよ。おっぱいのおなごの様子がおかしい)


 新樹は、ぶつぶつ俯いて、なにか言っていた。声が小さすぎて、近距離にいるのに聞き取れない。オーラが濃くなる。鈴宮さんの惑わしを間に受けてしまった新樹は、次の瞬間――


「ばいばい、州。私、いま、安心できないよ。だって――――んだもん……」


 踵を返して、新樹は走りだした。気まずい空気で逃げだしたの間違いか。


「お、おい、新樹っ!」


 俺も振り返り叫んだ。新樹が言った、言葉の最後の部分。なんて言ったんだ。俺は、すぐに走りだしたかったが、このまま鈴宮さんを置いておくのもまた別問題が起きそうだった。


「追いかけないのですか?」


 自分はなにも関係ないような口ぶりで、投げかけてくる。俺は歯痒い気持ちになった。


(早くせんと、このおなごのことはまた後日でもいい。あたいはもう理解している。心配するな)


 リラに諭される。俺は、鈴宮さんと面と向かう。そこで気づいた。鈴宮さんの異変に。


「そういう、ことか……」リラがなにに理解したのか、俺も理解できた。だが、俺には優先すべきことがある。俺は、鈴宮さんに背を向けた。


「やっと追いかけるのですか」

「ああ、じゃあな、鈴宮さん。また会うよ、きっと」

「また、ですか。そうですね。またあいましょう。解森せんぱい」


 俺は新樹を追った。しかし、いかんせん新樹は足が速い。少しでも重りを減らそうと、鈴宮さんが見えなくなった頃合いに、リラに荷物だけテレポートしてもらった。

 前方を見ても、新樹の姿など最初からない。それでも俺は必死に走った。力の残すかぎり、一秒でも早くアスファルトを蹴る。

 新樹が到着してどれぐらいの時間が経ったかわからない。けど、やっと俺も新樹の家の前にたどり着いた。息切れを起こしているが、気にしている場合じゃない。玄関の戸を引く。だが、やっぱり戸は開かない。


 リラに「どうする気だ」と言われるが、俺は実力行使する。あまり使いたくない手だったが、やむを得ない。俺は、庭に回った。


 明かりの漏れるリビングの網戸を開ける。もちろんだけど、新樹の母親に驚かれるが、急いだ口調で、「すみません。緊急事態なんです」と了解をもらい、駆け足で階段を上がった。


 新樹の部屋の前に立つ。吐きそうになるぐらい走ったせいで、数分声が出ない。息を整えてノックをする。返事はない。ならばとドアを開けようとした。そこでやっと、


「ごめん……開けないで」


 声が近い。どうやら、新樹はドアにのしかかっているようだ。俺はドアノブにかけていた手を放す。


「新樹、話を聞いてくれ。あれは全部――」


「ダメだよ、州。咲妃乃ちゃんのそばにいないと……私にかまってるひまがあるなら、彼女と一緒にいてあげないとダメだよ」

「だから、あれは――」

「ごめん……。いま、州の声、聞きたくない。ごめんね、私の勝手なわがままなのは、わかってるから……」


 涙の混じった声音。それを言われると、俺はなにも言えなくなった。


(これが、鈴宮というおなごの『生きたオーラ』の能力だろうね。おなごの状態を見るに、オーラの影響を受けたに違いない)


 過剰のオーラということか。でも、いったいなんの影響を受けたん――だ……。


 ――ばいばい、州。私、いま、安心できないよ。だって――――んだもん……


 新樹のこの言葉が脳裏を横切った。そして、考えてしまった。


 ――なんで俺は、新樹の誤解を弁明しようとするんだ?


 傷つけたのが、わかったからか。あからさまに悲しそうな顔になったからか。違う……。問題は俺のほうにある。


 ――勘違いされた。鈴宮さんが好きじゃないから。鈴宮さんが嘘を言っているのが、わかったからか。


 でも、なぜそれで新樹が悲しそうな顔に……。

 同じようにコウに彼女ができたとして、新樹は同じ反応をしたのか。するだろう――いや、したのか……? 新樹だって、コウだって、俺だって、今のこの関係でこの日常という空間が、かけがえのない大切な時間だ。

 仮にだ。仮に色恋沙汰が俺らの輪で発生しても、それはそれで快く受け入れてあげるのが、仲間であって……信頼というものじゃないのか?


(ひとつ、口を挟ませてもらうよ。それがたとえ。コウという少年と、新樹というおなごが恋人になるということでもか?)


 …………当然だ。お互いが惹かれあっているのなら、俺は笑って歓迎してやりたい。


(一瞬考えたね、お前さん。やっぱりお前さんには――偽善者がお似合いのようだね)


 リラに指摘されて、初めて気づいた。そうか。俺が新樹に……執着している――てことに。俺は考える。新樹のあの言葉の空白を――。


 ――だって――――んだもん……


 この空白は、新樹にとって、俺にとっても。大事な言葉が嵌まるはずだ。なんだろうか。

 それにしてもあの歪むようなドス黒い新樹のオーラ。あれは――


「嫉妬…………?」



     ☆


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