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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第四章 真実(うそ)から出た嘘偽(しんじつ)
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4-7

 ぼくの学校生活がはじまって、早数か月がすぎた。このころになると、よく雨が降る。雨はきらいだ。ぼくのゆいいつの憩いの場に、ふだん来ないひとがたくさん来る。

 そう思いつつも、きょうもぼくは図書室に足をはこぶ。あんのじょう、図書室は生徒であふれていた。たんそくし、ぼくは気にするのもやめて、指定席のいちばんめだたない席に座る。さて、と本をひらいて、読みはじめた。

 そこに、げんきのいい声がノックもなく、ぼくの領域に入ってきた。


「なに読んでるの? あ、また絵本だぁー。ねぇねぇ、となりすわってもいい?」

「ご勝手に……」

「やった! ちょっとまっててね。私もなにかもってくるからぁ」


 クラスのにんきもの、色海新樹だった。きょうのかのじょは、雨が降って、じめじめしているせいか、ながい髪を一個のだんごにしている。かっこうはいつもカジュアルだ。

 ぼくは、かのじょと、となりの席になった日に、ほりゅうにした「ともだち」というちかいをまだへんじをしていない。

 かのじょは、あの日以降ことあるごとにぼくに、はなしかけてくるようになった。はっきり言うと、めいわくではある。でも、きょひはしない。りゆうはかんたんだ。あいてにしていないからだ。かのじょが勝手にぼくのまわりをはしっているだけ。ただそれだけ。

 他者とかかわりを持たない、この教訓は生きている。だから、ぼくはへんじをしない。するひつようがない。

 色海新樹も、いつかぼくからしぜんと離れていくことだろう。

 それが「かかわり」というものなのだから。

 ぼくは、じぶんにしょうじきに平和に、だれにもめいわくをかけない生活にあこがれている。もめごとにまきこまれるなんて、まっぴらごめんだ。


「かかわり」を持つというのは、そういうことだ。


 ぼくも生まれてきたときは、みんなよろこんでくれたのだろう。

 ハイハイして、立って、あるいて、しゃべる、そのたびにほめてくれたはずで、きもちよさそうに、浸かるおふろではなしかけてくれただろうし、トイレができた日なんて、だきしめてもらった――かもしれない。


 ――あくまで「ふつう」なら。


「おまたせ! 私ねえ、しんでれらをもってきたよ。ほらぁ~」


 色海新樹がもどってきた。にこにことわらって、きらきらなオーラを身にまとって。すとん、とこしを下ろすなり、イスをぼくのほうによせてきた。


「なんでちかづけるの。読みづらいよ」

「えぇ~。だって、州くんにしんでれらを読んでもらおうとおもったから」

「じぶんで読みなよ。読めるでしょ、ひらがなしかないんだから」

「ぶー。州くん、つめたい。なんきょくぐらいつめたい」


 それはいくらなんでもつめたすぎない? なんきょくがごっかんなのは、さいきん習った。


「はぁ……わかったから、シンデレラをこっちによこせよ」

「州くん。その言いかただと、なんだかしんでれらとかけおちするみたいだね」

「なんでそうなる」


 この色海新樹というおんなのこは、きょうみがかたよっているのだろうか。


「はやくその本をよこさないなら、じぶんの本にもどるよ?」

「あ、あ~、は、はい。読んでください。おねがいします」


 そこでようやく、色海新樹はあたまをぺこりと下げながら、「シンデレラ」をわたしてきた。ぼくは手に持って気づく。


「ねぇ、色海さん」

「なぁ~にぃ~?」

「これ……シンデレラじゃなくて、白雪姫だよ?」

「あれ? まちがえちゃった?」


 そんな感じのかのじょだが、どうやら野球をやっているみたいで、けっこうつよいところの少年野球チームに入っているらしい。

 下校時間に、どこかでユニフォームにきがえてきて、おかあさんのくるまに乗るすがたを何回か、ぼくも目撃した。どうせほけつだったりするのか。そう思っていたけど、クラスの話を聞くかぎり、かなりうまいらしく、男子顔負けらしい。ひとはやっぱり見た目ではんだんしてはいけないみたいだ。

 かのじょは、べんきょうはそこそこだが、たいいくの時間はかつやくする。休み時間だって、ぼくとかかわるまえは、男子と交ざってサッカーしたりして、外を走り回っているようなおんなのこだった。

 でもどうだろう。そんなかのじょは、さいきん、ぼくにつきまとってきて、ほかのおともだちとのかかわりをおろそかにしているのは、ぼくもうすうす気づいていた。

 そんな結果。


「ん? なにこれ」


 げたばこに一枚の紙切れが入っていた。二枚折りにされていて、ひろげてみる。


「『いますぐ、体育館ウラにこい。せんせいにチクったりしたら、ただじゃ済まさない』」


 これは、どうかんがえてもラブなレターじゃない。むしろ真逆の、「呼びだし状」ってところだろう。

 用件は行くまえからわかっていた。しかし、それよりもぼくがいやだったのは――


「よく逃げずに来たね。そこはほめてあげる」


 していのばしょに来ると、女子が五人ぐらいいた。

 ぼくにはなしかけてきたのは、となりのクラスの女子だ。後ろをかくにんすると、同じクラスのひともいる。よく見ると、ぼくとかかわるまえにはよく、色海新樹とはなしていた女子だった。


「色海さんのことだろ?」

「あら、自覚してたんだ。なら、話は早いね」


 その女子は、ぼくに歩みよってきた。こ、こないでくれ……。

 ぼくは、後ずさりをする。雨に濡れた草地の感触がきもちわるい。それによって、女子五人がどうじにぼくにせまってきた。ぼくは、視界をしたにずらす。


「まえを見て、ちかって!」


 その女子は、怒りの口調で言う。でも、いまのぼくにそれはできない。


「まえを見てって言ってるでしょ!」


 その女子は、ぼくの顔を両手で持ってむりやりにまえを向かせようとする。ぼくはとっさに目をつぶった。

 ぼくには、ちょくしできない、めいかくなりゆうがあった。


「目をあけないと、ひどいめにあわすよ。いいの?」

「…………」


 ぼくは目をあけた。そこには、いじめよりもひどい世界がひろがっていた。

 目にするかぎりの『憎悪』の塊を現す赤――血のような戦場の跡地が、ぼくのまわりだけを覆った。

 ぼくじゃなければ一瞬で、吐いてしまうような、真っ赤な世界。

 ぼくと同い年のくせに、なんという感情がうずまかせているのだろう。これが色海新樹という、「かみさま」に触れた罰だと言うのか。

 その女子は、ぼくの顔をのぞかせて、はっきり言った。


「もう新樹ちゃんにちかづかない、って、ここでちかって」


 ぼくはなぜか、その言葉に、すごく安心感をおぼえた。

 これでようやく、色海新樹との「かかわり」が終わる。そんなきもちをいだかせつつ、はやくこの世界からかいほうされたい一心で、ぼくが口にする言葉は、もちろん――


「……わかった」


 こうしてぼくは、「ともだち」というちかいのまえに、「封鎖」のちかいをした。



     ☆


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