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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第二章 幸運、下暗し
11/55

2-2

 授業が終わり、チャイムが鳴る。それに合わせて、二人とリラで昇降口に向かった。

 昇降口に着き、靴を履き替えているとコウが、「じゃあ、僕は先に行くね」と通学用の自転車のカギを振り回しながら言った。


「ああ、家で待ってるぞ」


 またあとで、と足早に駐輪場に消えていった。コウは俺や新樹と違い、通学路が真逆のため、早めに帰路につく。

 入れ替わりにタッタッと落ち着きのなさそうな軽快なステップが、中耳腔をくすぐる。


「州、ほら帰るよぉー」


 遠足前日の子供のように、ワクワクが隠すにまったく隠し切れていない新樹の声。

 踵を返すと、新樹が俺の片腕を掴み、けっこうな勢いで走りだす。「おい、そんなに急がなくても」と言いつつ、目についたオーラが俺を安らかにさせた。


「家の前に寄りたいところがあるんだぁ」


 映る新樹の淀みのない笑顔。昨日まで散々見た黄色の『楽しさ』のオーラ。だけど、自然と飽きがこない。


「どこ」と、短く問う。「着いてからのおたのしみー」


「なんだそれ」と俺も笑みがこぼれた。


 こうやって新樹に引っ張られていると、出会ったころを思いだす。独りでいることに肯定し、人と関わることをやめて、安全だと独りで満足し、自ら作り上げた殻にこもっていた俺に、分け隔てなく接してくれたあのころを。

 何日にも渡って来る日もずっと。新樹が話しかけてくれて、引っ張って行ってくれなかったら、きっと今もなにひとつ変わらず、自分の殻にこもっていたことだろう。

 俺は新樹をすげぇ感謝している。贈るとすれば「ピンクのカーネーション」の花束だ。


(波乱万丈みたいだね、少年)


 後方からついてくるリラの突拍子ない言葉に対処できず、声に出して「そんなでもねぇよ」と言い、つけ加えるように俺のはまだレベルが低いものだ。と心に思う。


「うん? 州、なにか言った?」

「いや、なんでもない」

「そっか」と、素気なく反応を示すとすぐに、「それより着いたよ」と立ち止まる。


 連れてこられたところは、毎朝通る広場だった。


(ほお、これは甘そうだ)


 横を見ると、リラがマヌケなロバみたいによだれを垂らしていた。


「さあー食べよぉ」


 単純明快を掲げ、ズンズンと移動式販売カーに詰め寄る。


「お姉さん、チョコ&いちごクレープひとつ、くださいな」

「はい。少々お待ちください」


 広場に来ていたのはクレープ屋さんだった。そういえば昨日、言ってたのを思いだした。俺はどうしようか悩んでいると、クレープを受け取った新樹が目をパチクリさせて、


「州は食べないの?」


(あたいは、いちごクレープでよろしくね)


 なんでだよ。新樹に返事する前にリラにツッコミを入れた。


(まさか昨日の約束を忘れたとは、言わせないよ)


 あ……そうだった。わかったよ。ちょっと待ってろ。たしかに甘いし、とびっきり。一致しているか。でもこれで、手を打ってくれると考えると安いものだろう。


「試しに買ってみるよ。新樹は近くのベンチで待ってていいぞ。すぐに行くから」

「うん、わかった。でもあんまりまたせると食べ終わっちゃうからねぇ」

「わかってるよ」新樹の軽やかな足音を確認しつつ、お姉さんに「いちごクレープ二つ」と、なんでもないように注文する。


 一瞬、「え?」と顔がかしこまったが、さすがプロの店員だ。臨機応変という言葉が似合う。


「かしこまりました」の合図で、予め用意されていた器具と材料であっという間に、二つのクレープを作りあげる。

「先ほどの彼女さんにですか?」

「そんな感じです。甘いもの好きなんで」


 さりげなくお姉さんの営業スマイルを窺うと、案の定、オーラがドス黒かった。歪んでさえ見える、強烈な『嫉妬』だった。俺と新樹はそんなんじゃないんだが。説明するほどでもないか。

 ともかく代金を支払い、両手にクレープを受け取る。

 最後に、「ありがとうございました。またのお越しを」を聞いて、お姉さんの視界から消える。


「ほらよ」と、広場の芝生に並んだ木々に座りこんでいたリラに、約束のクレープを渡す。


「これはうまいね。きっと」


 受け取るとさっそく、口に持っていき、パクッと一口。「甘いね。恋より甘い。これは文句なし。さすがあたい」コメントが意味不明だったので、無視を行使する。


「ほっぺにクリームがついてるぞ」俺から見て右頬に白いクリームがちょこんと。

「どこだ? 取ってくれ」


「なんで俺が……」とか言って、常時所持しているハンカチをポケットから取りだし、丁寧に拭い取る。リラは、鼻の下を伸ばして拭きやすいようにして、「すまんね」と詫びた。


「食べ終わったらこいよ。俺、あっちにいるから」

「いいよ。テレポで帰ってるさ。暑いし、たまらんよ」


「それもそうか」と俺の返事を待たずにリラは消えた。おそらく俺の部屋に飛んだのだろう。俺も新樹のいるベンチに早く向かう。


「州おそーい。もう半分食べちゃったよ」

「ごめん。遅くなった……」


 ぷんぷん可愛らしく怒っていた新樹に、リラからもらった詫びのカウントを渡す。


「謝ればよし!」


 案外簡単に許しをもらう。さすがリラの詫び――は関係ないか。新樹はさっぱりした性格で、過去に根を持たない。今回はそこに甘えることにする。


「じゃあ、早く家にいこ。座ってても、時間がもったいないしね」


 そうだな、とまたまた空いた手で俺の腕を掴み歩きだした新樹。


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