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化け物や忌み子

 天狐を抱き止めて気を失っているだけと分かり安堵していると、弾き飛ばされた黒い何かが動き出した。


「うっ、う~」


 黒い何かは見た目はリス位の大きさだったが間違いなく狐だった。


「黒い狐?」


 黒い狐は天狐の身体から弾き飛ばされた事を認識し、諦めた様にしょぼんとしていた。


「お前が天狐の身体を乗っ取っていたのか?」


「‥‥‥」


 黒い狐は何も答えなかった。


「どうした、何か言ったらどうだ。それともその身体だと喋れないのか?」


「‥‥喋れるもん」


 漸く黒い狐は喋り出した。随分と幼さの残る雰囲気だった。本当に子供なのだろう。


「どうして他人の身体を乗っ取っる様な事をしたんだ?」


「‥‥それは神性の天狐なら私の体質を防げると思って‥‥」


「体質?」


「もういいでしょっ!どっか行ってよ!どうせ私は生きられないんだから‥‥運良く天狐の身体を手に入れても私の体質を完全に防ぐ事は出来なかった。もう希望はないんだから‥‥」


 黒い狐は悔しそうに、そして全てを諦めた様な感じだった。


「体質だけじゃ分からないな、一体どんな体質何だ?」


 ラスティーが黒い狐に歩み寄ると、黒い狐は警戒して毛を逆立てた。


「来ないでっ!私はあんな目で見られるのは沢山よっ!」


(あんな目ね‥‥辛い事があったのだろう。一体あんな小さな身体をした子供がどんな業を持ってるのかねぇ)


 歩みを止めないラスティーに黒い狐は攻撃をした。


「『邪炎』」


 黒い狐から天狐を乗っ取っていた時より、遥かに弱い黒い炎がラスティーに放たれた。


「だから無駄だって」


 ラスティーは避ける素振りもせず黒い炎をを意に介さず歩みを止めず黒い狐の前まで来た。


「う~、何なのよ、何で私の攻撃が人間に効かないのよっ!」


 まあ確かに先程より弱いとはいえ、強化してなければ其なりに悪くない攻撃かも知れない、火炎系の中級魔法位の威力が有りそうだ。


「お前より俺の方が強いからだろ単純に」


「‥‥‥」


 黒い狐は何も言い返さなかった。


「で?どんな体質何だ?」


「うるさいっ!どっか行っちゃえ!ばーか、ばーか」


 黒い狐はラスティーから目を背け悪態をついた。


 ラスティーは小さな黒い狐の体を両手でひょいっと持ち上げだ。


「ちょっ!ちょっと!」


 突然持ち上げられたことで驚き、黒い狐が身をよじりジタバタしていた。


(ん、何か違和感があるな、何だろう)


「早く離してっ!貴方大変な事になるわよっ!」


 黒い狐は必死に訴える。


「どう大変な事になるんだ?」


「‥‥貴方‥‥大丈夫なの?」


 黒い狐は驚き目を見開いた。


「だから何が?」


「体よ、魔力は大丈夫なのって聞いてるのっ!」


 そう言われて漸く違和感の正体にラスティーは気がついた。


「そうか、お前そういう体質なのか‥‥成る程な」


「ラスティーどう言うこと?」


 近くまで来ていたリースが質問してきた。


「ん、ああこの狐はな、触れてる対象から魔力を奪う体質なんだろ?しかも自分の意思とは関係無く常時発動型の」


「‥‥そうよ」


 黒い狐は答えた。


「ふ~ん、そんな体質なのこの子大変ね」


 そう言いながら黒い狐を撫でようとするリースを俺はやめさせた。


「止めとけリース」


「えっ、何で?」


「お前が触れると数秒で立てなくなるぞ」


「‥‥は?どう言うこと?」


「そのままの意味だ。魔力を奪われて立てなくなるぞ」


「何で?おかしいじゃない、ラスティーはさっきからその子ずっと抱き上げたままじゃない何で大丈夫なの?」


 黒い狐もそれが不思議なのか俺の方を見上げる。


「単純な話だ。俺の魔力量が他者と比べ様もない程多いからだ」


 リースと黒い狐は驚きリースは納得を、黒い狐はいまだに信じきれていなかった。


「本当に大丈夫なの?」


 恐る恐る黒い狐は俺に聞いた。


「ああ全く問題ないぞ。お前に言われるまで魔力を奪われているのに気づかなかったくらいだからな」


「なっ!一体どんな魔力量してるのよ」


「俺の唯一他人に自慢出来て、誰にも負けない自信があるのが魔力量だからな、俺の魔力量は龍脈に匹敵する」


「どんな人間よ!嘘よ!無理してるんでしょ?」


 黒い狐は俺の言葉を信じなかった。


「ふむ、論より証拠だな」


 すると、ラスティーは己の魔力を解放した。髪と眼は銀に染まり銀の光の粒子をラスティーは纏った。圧倒的な魔力の塊がそこに顕現した。


「納得したか?」


「‥‥‥信じられない、こんな人間がいるなんて‥‥」


「納得したみたいだな、それで?体質はそれだけじゃないんだろ?それだけなら誰にも触れなければ生きていける筈だ」


「‥‥魔力を‥食べないと生きられないの」


 黒い狐はか細い声で答えた。


「魔力を食べる?魔力を糧にしてるって事か?」


「‥‥うん」


「食べれば良いじゃないか?」


「普通に食べたら量が多くて沢山の人が死んじゃう」


 黒い狐は凄いことを告白した。

 つまりはこう言う事だ。他者からの魔力を食べないと生きられず、普通に摂取すると量が多くて死人が出ると。

 それでここ最近冒険者が魔力不足で衰弱して帰ってくる報告があったのだ。狐憑きで性格が変わり仲間割れをさせて、狐憑きで意識を奪い、魔力を食べて何とか食い繋いでいたそうだ。


「ふ~ん、そうか‥‥食べてみるか俺の魔力を?」


「えっ、でも‥‥」


「その話だと今も腹減ってるんだろ?」


「‥‥うん」


 俺は魔力を指先に集中して黒い狐の口元に差し出した。

 最初は遠慮していたが、我慢出来ず、指先をペロリと舐めた。


「!!!」


 一舐めすると、驚いた様な顔をしてまたペロリペロリと舐め、最後には幸せそうに指先に甘噛みするようにしゃぶりついた。


「ふふっ、随分と腹減ってたんだな」


 俺がそう言うと黒い狐はハッとして指先から口を離した。


「ご、ごめんなさい、あんまりにも貴方の魔力が美味しくて、つい夢中になって普通に沢山食べちゃった。‥‥大丈夫?死なない?」


 心配そうに黒い狐は聞いてきた。


「ん?問題ないぞ、今食べたので満腹か?」


「うん、お腹一杯。こんなに食べたの初めてよ」


 黒い狐は嬉しそうに答えた。


「今食べたのでどれくらいの期間もつんだ?」


「満腹だから三日は魔力を食べなくても我慢できると思う」


「じゃあ問題ないな、お前家に来いよ」


「えっ?」


 黒い狐はまたも驚いた。


「俺ガキの時からペット飼いたかったんだよな、まあそれどころじゃなくなってたんだけどさ。お前なら意思の疎通も出来るし小さいから場所取らないし、毛並みが良くて尻尾なんかもふもふだろ。食べる魔力は俺が提供してやるから家に来いよ!」


 黒い狐は俺の言葉に嬉しそうにでも直ぐに悲しそうな顔つきになった。


「で、でも皆私の体質を知ると‥‥黒い化け物や‥‥忌み子だと、言って私の事を嫌な目で見てくる。だから‥‥きっと貴方もいつか私の事を‥‥疎ましく感じる筈よ‥‥」


 黒い狐は辛そうに思いを語った。


「そんな事ないさ、さっき食べた魔力程度なら毎日だってお前に提供してあげられるよ。俺はお前の体質を知ってもお前の事を化け物なんて思わないよ」


「でも‥‥でも‥‥」


「一緒に来い!」


「‥‥うん!」


 俺が強く求めると黒い狐は腕から駆け登り肩まで来ると嬉しそうに頬擦りしてきた。


「お前名前は?」


「‥‥無いわ、親も知らないし、化け物や忌み子としか言われたことないし」


「そっか、じゃあお前の名前は『クロ』だな」


「クロ?」


「うん、凄い毛並みが綺麗で真っ黒だからクロだ」


「クロ‥‥クロ‥‥うん!」


 黒い狐もといクロは自分の名前を決められて喜んだ。



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