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バトルウルフ討伐

 リースの案内で、バトルウルフに襲われた場所に向かった。

 すると、血の臭いが濃くなってきた。リースの母親が襲われた現場は草や樹に血が大量に散乱していた。


「あっ、ああ、アァァイヤァァー!」


 リースは母親が着ていた服らしき物を抱え膝をつき泣き叫んだ。

 これだけの出血で生きていることはないだろう。

 リースの心の中で微かに、まだ母親が生きているという可能性があったのだろうが、この惨状を見て現実を知らされてリースは正気を保てなかった。5分以上泣き叫んだリースは少し正気を取り戻していた。


「アイツを・・・アイツを殺して・・お願い・・アイツを殺して、貴方の言うこと何でも聞くから!私の全てを貴方にあげるから!・・アイツを絶対に殺して・・お願い」


 リースは俺に縋りながらお願いしてきた。

 自身の何を犠牲にしてでも殺したいという気持ちは俺にはよく分かる。


「ああ、絶対に殺してやるさ」


 俺はリースの頭を優しく撫でながら強く約束した。

 周囲の惨状を見て理解する、バトルウルフはリースの母親が動かなくなるまで弄んで食い殺したのだと、でなければ、これ程広範囲に血が草や樹に散乱する筈がない。

 俺は珍しく本気で怒っていた。最初は指名依頼をさっさと終わらそうと思っていたが、ここまで感情を揺さぶられる事になるとはな。


「少しは落ち着いたか?」


「ええ、もう大丈夫よ、行きましょう」


 まだ涙を流して、あまり大丈夫じゃ無さそうだが時間をかけてはいられない、日が暮れてしまう。


 それから約一時間で漸くバトルウルフを見つけることが出来た。


「見つけたぞ、ここから南西に800メートル位にバトルウルフがいる」


「よく分かるわね」


 リースが驚いていた。


「それはねラスティーの強化魔法のお蔭よ」


 フランが自分の事かのように自慢していた。


「ここからは奴に気づかれて逃げられないよう慎重に行くぞ」


「ええ」


 俺1人ならバトルウルフに気づかれても、追いかけて殺すことは容易い。しかし、俺は約束した、リースの目の前でバトルウルフを殺してやると。

 慎重に歩を進めると漸くバトルウルフが視界に入ってきた。


「フラン、これを預かっててくれ」


 俺はフランに眼鏡を渡した。


「アイツは拳で殴らないと気が済まないんでな、お前らは30メートルより近づくなよ」


「分かってるわよ、て言うか30メートル迄は近づいても良いの?」


「ああ、リースに目の前で殺すと約束したからな」


「今更言うのもなんだけど本当に大丈夫?」


 一時間して正気を取り戻していたリースが心配で聞いてきた。


「余裕だよ、寧ろ一思いに殺さないようにする方が大変だ。アイツは心を完全に折るまで痛め付けて殺す」


 そう言うと俺は目を強化してバトルウルフに逃げられないように接近した。


 ◇◆◇◆◇


「珍しく本気で怒ってるのねラスティー」


「どういう事?」


 リースの質問に私は答えた。


「ラスティーが本気で戦わなくても多分バトルウルフを殺す事が出来る筈よ」


「ラスティーってそんなに強いの?盗賊を倒した時もそこまで強そうには見えなかったけど、確かに眼鏡を外した彼は凄みを増したけど」


「ラスティーは必要の無いときは本気では戦わない、眼鏡を外した彼が本気で戦って苦戦した所を見たこと無いわ」


「彼はそんな凄い魔法の使い手なの?」


「ラスティーが使えるのは強化魔法だけよ」


「なっ!・・・武器も無しにそれでどうやってバトルウルフと戦うのよ!」


「彼の強化魔法は他の人の強化魔法と威力が桁外れなのよ、説明するより見た方が早いわ、ラスティーが銀の魔力を纏う時に分かるわよ」


(バトルウルフ相手に強化魔法だけで戦うなんて、正気じゃない!)


 でもこの二人は全く彼の敗北を考えていない。彼が勝利することが当たり前のような雰囲気だ。考えても分からず、彼の様子を見守る事にした。


 ◇◆◇◆◇


 バトルウルフまで20メートルまで近づいて、漸くバトルウルフはラスティーに気がついた。

 ラスティーは自身を強化して銀の魔力を纏い、臨戦態勢の構えをとった。

 バトルウルフはラスティーに気がつくと直ぐに雄叫びをあげながら襲ってきた。


「ガァァァー!」


 突進を横にかわしながら、裏拳をいれてバトルウルフを数メートル吹き飛ばす。


「遅ぇ!」


「グッ、ガァ!」


 木にぶつかりバトルウルフは苦しそうな声を出す。

 それでもバトルウルフは体を立て直しラスティーに接近して口を開きその鋭い牙で噛み砕こうと迫る。

 ラスティーは全くかわす気配もなくバトルウルフの鋭い牙を受け入れた。

 肩に噛みついたその時、『ガキン!』という音が鳴り響く。


「どうした犬ッコロ、お前の牙はそんなもんか?」


 中位クラスの魔物を容易く噛み砕くバトルウルフの牙はラスティーの体に1㎜も突き刺さっていなかった。その後もバトルウルフはラスティーを噛み砕こうと顎に力を入れるが『ガキガキ』鳴るだけで意味が無かった。


「そんな使えない牙、要らないだろ?」


 冷たく言いラスティーはバトルウルフの牙に手を添えてヘシ折った!


「ガッ!ギャガー」


 変な悲鳴をあげてバトルウルフはラスティーから離れる。

 怯え始めたバトルウルフはラスティーから逃げ出した。しかしラスティーはバトルウルフの尾を掴み離さない。


「逃がすかよ!」


 ラスティーは馬より大きいバトルウルフの巨体を、尾を持ち振り上げ力任せに大地に叩きつける。


「オラッ!」


「グギァ!」


 その行動を数回繰り返した。バトルウルフは口から血を吐き、立ち上がる事が出来なかった。


「立てない足なんて、要らないだろ?」


 またもラスティーは冷たく言いバトルウルフの足を全部砕いた。


「グッ、ァァ、ィィ」


 血だらけで悲鳴にならない悲鳴を出して、バトルウルフは心が折れて怯えていた。

 そこにいるのは、最早バトルウルフという上位クラスの魔物ではなく、一匹の怯えた魔物だった。



 ラスティーとバトルウルフの戦いを見ていたリースは唖然としていた。


(何よ!あれは、目の前で何が起こっているの、あれが強化魔法だというの、あり得ないわ)


 バトルウルフを歯牙にもかけない、その強さに驚きを隠せない。

 フランとマリーが勝利を疑わなかったのも頷ける。あれだけ強ければ彼の言う通り余裕だろう。

 そんな考えを巡らしていると彼はこちらに向かってきた。


「どうせならリースが奴の止めを刺すか?」


「でも私にはもう魔力が大して残って無いわ」


「攻撃魔法1発くらい撃てるだろ?」


「ええ、それ位なら、でもいくら貴方が痛め付けてくれたとはいえ、相手は上位の魔物よ、私の攻撃魔法じゃ止めを刺せないわ」


「足りない分は俺が強化して補ってやるよ」


「そんな事も出来るの?」


「ああ」


 了承したリースの肩に手を置き強化を施す。リースの体が薄っすら銀色に輝きだす。


(なっ!凄い、力がドンドン溢れてくる!)


「良し、今だ撃て」


「大地よ収束して形を成し我が敵を貫け『岩槍』(ロックランス)


 リースは中級の地属性の魔法を放った。

 人間一人位の先端が鋭い形を成した岩が三つ、ズガガァンという音とともにバトルウルフに突き刺さり、放って置いても死にそうだったバトルウルフは動くことも出来ず絶命した。


「やったわ!母さんの仇を私が・・・あれっ」


 喜びとともにリースは気を失い倒れる所を抱き止めた。無理もないな、魔力が残ってない状態で強化したんだから気を失って当然と言えよう。

 それでも自分の手で仇をとれるなら大したことは無いだろう。

 これで俺達の新しい仲間が増える事になる。30分もすりゃ目覚めるだろう。俺達はリースが目覚めるのを待つことにした。



 

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