夏の番外編①:クーラーが壊れてしまいました
本編のシリアスから一転。夏の番外編です。
夏の11時過ぎ
「あ〜づ〜い〜」
ルナは家の廊下の床に、パンツ一丁で寝転がっていた。
家の中では風通しのいい廊下の冷たい床に寝転がるのが1番涼しい。
「ルナさん、女の子がそんな姿で寝そべっちゃダメじゃないですか!」
リリムが注意し、その先にある玄関と俺の間に割り込むように立った。
玄関の扉はオープン状態で、その代わりに網戸をつけてある。よって、庭の木に隠れてはいるが、外からルナのほぼ裸状態が見えてしまうという可能性がなくもない。そのため、リリムは必死に隠そうとしているのだ。普段のルナなら、恥ずかしがってこんなとこに寝ないかもしれないが、今日は別だ。暑い、暑すぎるのだ!
「リリム、エアコンの修理はまだ来ないの?」
実はうちのエアコンがリビングとルナの部屋の両方が一気に壊れてしまったのだ。
「業者さんもお忙しいようで、明日来てくださるそうですよ」
「あ、明日⁉︎」
「今日は扇風機で我慢するしかありませんね」
「えぇ〜〜そんなぁ………暑いから、扇風機を回しても熱風しかこないよぉ〜」
子供のように手足をジタバタさせてごねる。
「そうですねぇ……」
ごねる姿を見て、方法を考えるリリム。
リリムは家事全般をしているので、ここで寝そべっているルナよりも当然ながら汗をかいていた。
その汗をかいた姿がなんだか色っぽい。
「涼みにどこか屋内施設に出かけてみてはいかがでしょうか?」
「う〜〜ん。屋内施設ねぇ………」
ルナはしばらく考え込み………
「あっそうだ! マサキの家に行こうっと‼︎」
そうと決まればすぐ行こうと、Tシャツに短パンというラフでなるべく涼しい服装に着替えると、ルナは外へ出たのだった。
「暑い暑い暑い」
念仏のようにブツブツと『暑い』を繰り返しながら、ルナは歩いていた。
道の先を見ると道路が揺らいで見える。これはかなり温度が高いに違いない。事実、夏休みというのに人っ子ひとり見かけていない。きっと、みんなクーラーの効いた部屋で快適に過ごしているのだろう。
暑さのせいでさして遠くないはずのマサキの家がかなり遠くにあるように思えてくる。
鼓膜へ響いてくる夏の風物詩とも言える蝉の声も暑さを倍増させるようにルナには思えた。
そして、マサキの家へようやくたどり着いた。うだるような暑さを乗り越えてきたことにルナは達成感を感じていた。
/ピンポーン/
インターホンを鳴らすと「はーい」と声がし、すぐにマサキが扉を開けて出てきた。
「お、ルナ。どうしたんだ?」
「遊びに来たんだ♪ マサキ、暇?」
「今日は部活も休みだし、暇と言われれば暇だな。まぁ、入れ」
家にあがり、ルナは先にマサキの部屋へ行き、マサキは飲み物を用意していた。
ルナがマサキの部屋のドアを開いた瞬間、部屋から冷気が溢れ出した。
「涼しすぎる‼︎」
すぐにドアを閉め、マサキのベッドに横になる。
「ふかふかのベッドで涼みながら寝られるなんてサイコー!」
「ふぁぁ…………なんだか、ねむい……」
あまりの快適さで、急に睡魔に襲われたルナはすぐに眠り込んでしまった。
「冷たい麦茶とスナック菓子持ってきたぞ」
飲み物と菓子をおぼんに乗せて部屋へ来たマサキの視界に、ベッドで幸せそうにスヤスヤと眠るルナを捉えた。
「ルナのやつ、人の家に来て早々寝てるのか。らしいといったららしいけどな」
「ったく、腹出して寝てたら、クーラー効いてるんだから風邪ひくぞ」
マサキはおなかを出して寝ているルナに優しくタオルケットを掛けてやった。
「にしてもよく男の部屋であんなにすぐに眠れるもんだな。オレだから大丈夫だが、気をつけろと言ってやらないと」
ルナが起きるまで暇なマサキはベッドの側面に背中を持たれかけ、携帯ゲームで遊んでいた。
しばらく携帯ゲームに熱中していると、後ろのベッドで声が聞こえた。
「マ…サ…キ……」
「お、ようやく起きたのか?」
マサキはルナが起きたのだと思い、後ろを振り返る。だが、それはただの寝言だった。
「マサキ………」
「マサキ………」
「マサキ………」
何度も何度も囁くような声でマサキと連呼するルナ。
マサキもだんだんとその続きが気になっていく。
「ルナはなんて言おうとしてるんだろうか」
いつの間にか、興味はルナの寝言に移り、手に持っていた携帯ゲームの画面にはゲームーオーバーの文字が出ていた。おそらく、長くよそ見をしていたので制限時間を過ぎたか、敵にやられてしまったのだろう。
「マサキ………」
(なんなんだ? 早く続きを言ってくれ)
「マサキ……」
ルナがたまたまマサキのいた方に手を伸ばす。その手は何かを掴もうとしているように見える。
そして、マサキがその手を握ってやると。
「………好き」
そう一言言うと、ホッとしたような笑みを浮かべ、再びスヤスヤと静かな寝息を立て始めた。
それを聞いていた方のマサキは、急に恥ずかしくなったのか顔を赤らめたのだった。
それから数時間経って、ルナは目を覚ました。
「うーーーん! よく寝た‼︎」
背伸びをし起き上がると、部屋の壁は白から茜色へと変化しており、時刻が夕方だと見てとれた。
「俺って、そんなに寝てたんだぁ」
これだけ長く快眠できたのも、マサキの部屋のクーラーのおかげだ。
「クーラー様、ありがたやありがたや」
クーラーに向かって手を合わせ、お辞儀をする。
「あれ、そういえばマサキがいない」
部屋にマサキがいないのに気付き、ルナは一階のリビングにいるだろうと予想し、向かった。
階段を降りてゆき、リビングへ行くと案の定、マサキがそこでテレビを見ていた。
「マサキ、おはよう! っていうのも変な時間帯だね」
「る、る、ルナ‼︎ お、起きたのか」
「なんでそんなに動揺してるの? 顔も赤いし……」
いつもの落ち着いた様子のマサキがこんなに動揺しているのは珍しく、ルナは気になってしまう。
「どうしたの? なにかあった??」
「何もない」
「ほんと?」
「ほんとだ!」
マサキがきっぱりと言い切る。そこまできっぱり言われると信じるしかないとルナはそれ以上の追求を諦めた。
「ねぇ、マサキ」
「な、なんだ⁉︎」
明らかにまだ様子のおかしいマサキが気になるルナだが、話を変える。
「夏だし、今度どっかに行かない?」
「部活の休みが今度の日曜だから、その日なら大丈夫だぞ。で、ルナはどんなとこに行きたいんだ?」
「映画とか、映画とか、映画とか」
「映画しかないじゃないか!」
「だって仕方ないじゃん。外は暑いんだもん。その点、映画館は涼しくて快適だからねっ♪」
「海とかはどうだ?」
「海かぁ………暑いし、マサキに水着を見られるって恥ずかしいしなぁ///」
寝ているときは腹を出して寝ていたやつが言っているとはとても思えない。
「じゃあ、映画見に行くか」
「やったー!」
ルナがバンザーイと手を上げて喜んだ。
そして時刻は6時を回り。
「そろそろ帰るね」
「ちょっと待ってくれ」
ルナが帰ろうとするとマサキが呼び止めた。
「なに?」
「結局、今日は何の用できたんだ? すぐに寝てしまってたから聞いてなかったと思ってな」
「うーーん。マサキに会いたかったっていうのもあるし、家のエアコンが壊れたから涼みに来たのもあるし」
「後者が本命だろ!」
「うぅ……バレてしまったか‼︎」
ルナはふざけているが、確かにエアコンが壊れたというのはかなり大きな問題だ。
「ルナ、冗談抜きで聞くが、ほんとに大丈夫か?」
「本音は大丈夫じゃないよ。家にいると干からびそうだよ!」
「じゃあ、オレん家に泊まっていくか?」
「え、いいの⁉︎ うん、泊まる!泊まりたい‼︎」
ルナは身を乗り出して即座に言った。
「マサキ、リリムも誘っていい?」
「当たり前だろ。リリムも困ってるんだろうし」
ルナはリリムへと電話をかける。そして、1分ほどかけていた電話を切ると、マサキに向き直った。
「リリムは来ないだって。たしかにリリムは我慢強いからなぁ」
それから30分ほどすると、マサキの母親が帰ってきた。
「あら、ルナちゃんいらっしゃい」
ちなみにルナは男の頃からりょうちゃんとちゃん付けされていた。まぁ、ちゃん付けされているのは親しまれているのでりょうちゃんと呼ばれていてもその呼び方を否定したことはなかった。
「母さん、ルナん家が冷房壊れたみたいで明日しか修理が来ないらしいんだ。だから、今夜は家で泊まらせてもいいか?」
マサキの問いかけに
「良いわよ。ルナちゃんみたいな可愛い子が家に居てくれると華やかになるし。マサキの部屋に泊まると良いわ」
即オッケーを出したマサキの母親。しかし、年頃の女の子を男子と同じ部屋で平気で寝かせようとする考えにマサキもルナも驚いたのだった。




