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目覚めると吸血鬼少女に  作者: らーめんま
第二章 つかの間の休息・文化祭編
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第75話:電車の恐怖

1日遅れで申し訳ありません。

 


 終礼が終わり、俺は特別棟の端にある準備室へ急いだ。


「いるかな、番長さん」


 準備室の扉をノックする。

 ………

 …………

 ………………。


 返事はない。


「あのー、失礼しますよー……」


 ノックで返事がなかったので半ば諦めていたが、いちおう中を確認してみる。


「おう、お前か」


 昼休みに座っていた位置と全く同じところで番長さんは座っていた。


「じゃあ行きましょうか」


「待て…」


 番長さんがあまり人目につきたくないと言ったこともあり、放課後から小一時間ほど待って、準備室を出た。

 1時間も経つと、帰宅部の生徒達の姿は校内からすっかり消えており、部活動生もそれぞれの練習場所に行っていて、俺たち2人は誰の目にも留まることなく、学校を出ることができた。


「すまねぇな。こんなに待たせてしまって」


「大丈夫ですよ。番長さんは俺のことを気にしてくれて、人目につかないようにしてくれたんでしょ?」


 そう、番長さんは俺が番長さんに近づくことで俺の評判が悪くなるのではないかととても心配してくれた。もちろん、俺はそんなことなんかどうとも思っていないのに。


「番長さん…」


「中村真司だ。敬語も使わなくていいし、できれば苗字か名前で呼んでくれ……るとありがたいのだが…」


「ウフフッ」


 ついつい笑ってしまった。


「なにかおかしいか?」


「あっ、いえ別に…。もっと怖そうな名前かと思ってたら、真司くんにしては名前が普通だったもので。」


「たしかによくそう言われる」


 そう言うと、ばんちょ…真司くんは可笑しそうに笑った。

 初めて笑ったとこを見たが、笑顔は子供らしく、とてもいい笑顔だ。なんだか親近感がわく。学校のみんなもこの笑顔を見れば少しは評価変わるかもしれないのに。


「ところで真司くんって……オレのことか?」


「他に誰もいないよ。そうだ、俺のことは普通に瑠奈《るな》って呼んで!」


「お、おう…瑠奈だな。」


 真司くんは確認するようにつぶやいた。



「で、真司くんってこれから予定とかは?」


「いちおう、婆ちゃんの見舞いに行こうと思ってるんだが」


「じゃあ俺もいくよ!迷惑でなければ……」


「本当か⁉︎…瑠奈が一緒に行ってくれるとありがたい。婆ちゃんは見舞いの度に『お前がお前の友達や彼女連れて来てくれると元気が出るんだけどねぇ』て言ってたことだしな」


 校門からいつもの帰り道から反対の方の道を行く。

 真司くんのお婆さんが入院している病院は隣町にあるそうだ。そのため、駅で電車に乗らなければならない。

 駅前は繁華街の中心地で、明里や彩香と遊んだりするときにはよくいったりするが、ここしばらく、厳密に言えば女になってから電車に乗ったことはなかった。


 2人並んで歩くが、特に話すこともない。なんとなく気まずい空気が俺たち2人の間に漂う。


 ここは俺から話して、空気を変えなければ‼︎


「真司くんのお婆さんはどんな病気なの?」


「病状の名前が難しくて、未だに覚えてないんだが、命には別状はないそうだ。だが、婆ちゃんも歳だからな…」


 そう言い終えると真司くんは俯いた。夕日に照らされ、オレンジ色になった雫がアスファルトにシミをつけた。

 俺がお婆さんの事について聞いたせいで何かを思い出してしまったのだろうか。


「ごめん、辛かったら話さなくても大丈夫だよ」


「いや、大丈夫だ……とも言えないが」


「よければ詳しく話してくれないかな?」


「オレの両親は、幼稚園の頃に事故で死んだんだ。それからは婆ちゃんの家で2人で暮らしてた。オレはお婆ちゃん子だったんだ。と言っても、お婆ちゃんしかいないからお婆ちゃんに懐くしかないんだがな…」


「そうだったんだ」


 なるほど。その理由を聞くと、真司くんがお婆ちゃんのことを心配するのも無理はない。だって、真司くんにとってお婆ちゃんはただ1人の家族なのだから。

 そして、俺も………


「真司くんの気持ち、すっごく分かるよ」


「……?」


「俺も両親いないんだ。だからただ1人の家族のお婆ちゃんがどれほど大切なのか、痛いほどよく分かるよ」


「そうか、瑠奈も親がいないのか。婆ちゃんとかいないのか?」


「うん、今は妹と2人で暮らしてる」


「妹と2人だけでか⁉︎」


「うん、妹がしっかり者でね」


「オレが心配してるのは防犯面なんだが……」






 学校から30分、俺と真司くんは駅前についた。

 時刻は6時過ぎ。帰宅ラッシュの時間帯で繁華街全体が人でごった返していた。

 当然、電車も超満員だ。こんな満員の時間帯に電車に乗ることが久しぶりの俺は電車の扉が開いた瞬間の中からの熱風とギシギシと人で埋め尽くされた車内に圧倒された。


「乗るぞ」


「え……うん。」


 呆然と立ちすくんでいた俺の手を引き、真司くんは電車の中に入っていく。

 真司くんの誘導のおかげで上降車口から離れた壁際をゲットすることができた。だが、乗車の人に押されたりする心配は無いが、そこも当然人で埋め尽くされている。


「うぅ……なんか嫌な臭い」


 電車に充満した男の汗の臭いが、ひどく嫌な臭いに感じられた。

 男の頃はこんな臭い、大して気にしていなかったはずだ。なのに、今はむせかえるように嫌だ。


(早く着け、早く着け、早く着け)


 心の中で何度も唱えながら、必死で耐えていたその時、ふとお尻に違和感を感じた。

 少しこそばゆく嫌悪感を感じる。かと思えば、触れるか触れないかぐらいの微かな違和感は、お尻を撫で回される確かな感覚に変わった。

 間違いない。俺は、痴漢にあっている。


「う、ウソだろ⁉︎」


 痴漢にあうなんて夢にも思っていなかった。と、同時に俺が女になってしまったということを改めて思い知らされた。


(気持ち悪い‼︎)


 今すぐ叫び声をあげたい!今すぐ助けを呼びたい!

 だけど、恥ずかしくてとてもじゃ無いけど言えなかった。


 痴漢の方も、俺が何も言わずにじっとしているのをいい事に、次はガッツリ揉んできた。


「うぅ……お願い、止めて…………」


 窓に反射した後ろにいる男たちの顔を見てみるが、誰がやっているのかは全く分からない。代わりに見えたのは、涙目で必死に耐えている少女《おれ》の顔だった。


 泣き寝入り覚悟だった俺はその嫌悪感に必死で耐え続けた。

 だが、その時……


「おい、お前瑠奈に何してるんだ!」


 真司くんの声が聞こえると同時に、お尻から手が引かれた。

 振り返ると真司くんが禿げ散らかしたおっさんの腕を掴んで怒鳴っている。

 どうやらこのおっさんが犯人のようだ。

 腕を強く掴まれていたおっさんだったが、思いっきり腕を振り、真司くんの手から逃れると、人混みをかき分け、隣の両に逃げて行った。


 それから数分して真司くんが戻ってきた。


「すまねぇ。あいつを取り逃がしてしまった」


 申し訳なさそうに真司くんは頭を下げた。

 でも、真司くんは何も悪くない。逆に俺を助けてくれた。


「真司くんが謝ることないよ。真司くんが助けてくれたんだもん。ありがとう……真司くん」


 本当に感謝しか無かった。怖くて恥ずかしくて、自らは何も言い出せない俺に真司くんは気づいてくれた。それだけで感謝してもしきれない。


「なぜ、オレに言ってくれなかったんだ?」


 真司くんが聞いた。決して俺を責めている訳ではない。逆に言ってもらえなかった自分を責めているように聞こえた。

 俺だって、別に真司くんを信用していなかった訳じゃないんだ。ただ、知り合ったばかりの真司くんに迷惑をかけたく無かった。


「真司くんに迷惑をかけたく無くて……でも、すごく怖かった………」


 目から零れ落ちる熱いものが頬をつたう。


 最近はこんなことばっかりだ。この前だってマサキに抱きついて泣いたじゃないか。俺はいつからこんなに女々しくなってしまったのだろうか。


「ほら、これ使え」


 真司くんがハンカチを渡してくれた。


「ありがとう」


 借りたハンカチはすぐに涙でビショビショになってしまった。


 泣いて泣いて、泣きすぎて涙が枯れた。


 ふと顔を上げると、俺と乗客の間に壁になるようにして、真司くんが立ってくれていた。

 真司くんには感謝してもしきれない。

マサキのライバル出現⁉︎

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