第58話:さよなら
遅くなりすみません。
「いいじゃないか。せっかくこっちの世界に来たんだからクリスマスを楽しもうぜ。」
「でも…//」
なかなか誘いにのらないルナ。それを見かねてか、リリムが声を掛けた。
「お二人にお願いがあるんです。」
「どうしたの、リリム?」
「今日はクリスマスですし、ルナさんも戻ってきてくれたのでケーキでお祝いをしたくて。ですけど、私はご馳走を作るので忙しいので、お二人にケーキを買ってきて欲しいんです。」
「うーん、、、分かったよ、それじゃ行ってくる。」
ルナはしぶしぶ了承した。
「それじゃ行こうか、ルナ。」
「うん。」
「お二人ともいってらっしゃい‼︎」
リリムに手を振って見送られながら、ルナとマサキは家を出た。
◇ショッピングモール◇
イルミネーションで有名なショッピングモールへ行く途中、街の景色を見たが、どこもかしこもクリスマスの飾り付けがされており、人で賑わっていた。
当然、ショッピングモールも人(特に恋人たち)で賑わっていた。
「久しぶりだなー、こういうところ。人もいっぱいいるし。」
「たしかにな。今まで魔物だらけの国にいたんだろ、そう思うのも仕方ない。ま、今日は息抜きと思って楽しもう。」
「うん、そうだね……そうだよね、せっかくのクリスマスだもんね。楽しまなきゃいけないよね?」
「そうさ、楽しもう‼︎」
マサキに押され負けした。だが、別にいいだろう。今まで気が許せない潜入調査をしていたのだ。このくらいの息抜きがあってもいいのだろうとルナは思った。
「じゃあ、まずは小腹でも空いたからフードコートにでも行こうか。」
「そうだね、俺もお腹空いてたし。」
「おい、ルナ。外なんだし俺っていうのはやめとけよ。」
「あっ、ごめんごめん。つい癖でね…。それよりもあんまり長居するとリリムが心配するんじゃ?」
「ルナ、お前わかってないな。リリムは俺たちに気を利かせてあんなこと言ってくれたんだよ。」
「そっか、なるほど!リリムってやっぱすごい気がきくんだね‼︎」
自分の使い魔を褒めまくるというのも変なのかもしれないが、たしかにリリムは良くやってくれていたとルナは改めて思った。戦闘でのサポート、家事など何でもかんでもしてくれていたのだ。
「この機会に改めてお礼言わないと。」
「たしかにリリムにはお世話になっていたもんな。後でリリムにプレゼントでも買って行こうか?」
「いいね、それ!」
「それじゃ、まずはフードコートに行こうか。」
「うん。」
フードコートに移動し始めた2人だったが、ルナは妙にマサキの手が気になった。なぜかというと、マサキの手がさっきからルナの手に触れようと近づいたり、やっぱり無理という風な感じで離れたりしていたのだ。
「もしかして…」
もしかするとマサキはルナと手をつなごうとしているのではないかとルナは思った。
しかし、それがもし真実だとするとマサキがルナのことを好きだということになってしまう。
(まさかマサキが俺のことを好きなわけないよな。だって、男の頃は友達だったんだ。きっと俺の思い違いだ。)
と思う反面、マサキが自分と手をつなぎたいと思ってくれているということに嬉しく思ってしまう自分も存在していた。
(なんだろう、この気持ちは…)
ルナが下を向きながらあれこれ考えているとマサキの背中にぶつかった。
「痛っ!急に止まるなよマサキ‼︎」
マサキに注意をしたが全く反応がない。肩を叩いても全く応答なしだ。
「おーい、マサキー聞こえてますかー?」
ルナはマサキの目の前に立ち、手を振って反応を見るがやはり反応なしだ。マサキは完全に固まっていて人形のようだった。
「まさか、マネキンチャレンジ⁉︎っって、周りのみんなもみんな止まってる‼︎」
やけに周りが静かだと思い見回すと周りも同じように止まっていた。まるで時が止まっているかのように…
「一体どうなってるの?」
ルナが途方に暮れているその時、向こうの方から声が聞こえてきた。
どうやらルナの他にも動いている人がいるようだ。
声は若い男と女の2人のようだった。そしてだんだんとルナの方に近づいてくるのが声の音量でわかった。
「ファン1号くん、魔物の行方知らない?」
「だから俺はファンじゃないって言ってるだろ!………ん?お前はルナじゃないか⁉︎」
なんと声の主はお祓い屋だった。
「お祓い屋、なんでこんなとこに?」
「いやいや、それを知りたいのはこちらの方だ。お前、魔物の世界に行ったんじゃなかったのか?」
「それは…いろいろとあったんだよ!」
「まぁいい、今はこんな場合ではないんだ!
お前、魔物を見なかったか?」
お祓い屋は急に神妙な顔になり、魔物のことについてルナに尋ねてきた。
「いや別に。」
「そうか…」
「ちょっと、ファン1号くん!そうかじゃないわよ‼︎その女子なんで動けてるの?何者なの⁉︎」
「それはこっちのセリフだよ!中に浮かんでるし、なんかコスプレしてるし…」
「こっ、これはコスプレなんかじゃないわよ!私は魔法少女よ‼︎」
「⁇」
「おいルナ、紹介しとこう。彼女は今言った通り魔法少女だ。巫女がいなくなってこの町に魔物が増えたことにより、今はこの町を守っているそうだ。そして、この際だから言うがピュアハート、ルナはあの巫女本人だ。」
「え!あの巫女なの⁉︎」
「まぁそうだけど。……それよりも、魔物ってどういうこと?」
お祓い屋の説明によると、この町に強力な手強い魔物が現れたというのだ。その魔物は人の時間を止めることができるらしく、現に今動けているのは、魔物の力を持つルナと特殊な力を持つピュアハート、魔除けの石を身につけているお祓い屋の3人だけだという。
「なるほど、そしたら奴を倒さない限り、みんなは止まったままということだね。」
「あぁ、そうだ。」
と、突然空が真っ黒になった。3人には何か悪い予感が走る。
【この町に3人も動ける奴がいたとはな‼︎】
ルナの背後で聞こえる謎の声。次の瞬間、ルナはお祓い屋に体を押され、倒れた。
「いたた、なにすんだよ!」
「なに言ってるんだ!逆に礼を言って欲しいくらいだ‼︎」
なんのことかとルナが後ろを振り返ると、先ほどまでルナが立っていたところの地面が割れていた。
その攻撃を繰り出した張本人がその先に立っているのが見えた。
【仕留め損なったか。】
「危なっっっ!お前、何者だ?」
【俺か?俺はフリーク。見ての通り、お前たちから見たら魔物だな。】
その魔物は2メートルあり、身体は黒く染まっている人間のようで人間ではなかった。その低く、落ち着いた声からして、かなりの実力者だということがうかがえる。
「お祓い屋、こいつ今までのやつとは違って特別強そうだな。」
「たしかにな。」
「おい、フリーク!今すぐみんなをもとに戻せ‼︎」
【それは無理だな。それに俺は時間を止めている訳ではない。俺たち魔物と人間の時間の感じ方は違うのだ。】
フリークは時間を操れる訳ではなかった。現に、人はみな止まっているが、時計の針は止まることなく進んでいる。
人と犬や猫は同じ時を過ごしていても犬や猫のほうが先に何歳も年を早く取ってしまう。それと同様で魔物と人間も同じ時を生きていたとしても、それぞれの時間の経ち方とは異なるのだ。
「でも、魔物は人間よりも長く生きるはず!お前がさっき言っていた通りに考えると、逆にお前の動きのほうが止まるんじゃないのか?」
【半魔のお嬢さん】
「っ‼︎」
【なかなかいい線ついているが少し違う。おれは他の魔物より、もっと言えば人間よりも早く年を取っている。その分寿命も短い。】
「なるほど、それでお前は人の時間をまるで人の時が止まったようにすることができるってことか。」
【そうだ。俺からすれば、お前たちの1日は一週間のようなもんだ。】
ルナの心には少し余裕が生まれた。なぜならば、フリークは時間を操る能力を持っている訳ではなく、しかも人間にしか効かない。それがわかれば倒すのは容易いと思えたからだ。
「それにしてもリリムはすごく気が効くなぁ。」
それというのも、家を出る前にリリムからもしものことがあってはと、巫女の羽織と面をバックに詰め込まれたのだ。その時はただの荷物だと思っていたが、今ではとてもありがたい。
「おい、フリーク!今すぐ倒してやる‼︎」
ルナは威勢よくフリークに宣言すると、巫女の羽織を纏い、面をつけた。
「その…なんて言ってたっけ?ぴゅあはーとだったっけ……」
「そうよ。私は魔法少女ピュアハート‼︎覚えておいて。」
「ピュアハート、協力してフリークを倒そう!」
ルナはピュアハートに協力を求めたが、ピュアハートは意外な返事を返した。
「嫌よ。さっきから感じてたけど、あなたって半魔何でしょ!さっきも言われてたし。」
「それはそうかもしれないけど、今は目の前の敵を倒すことが優先で…」
「私は魔物を倒す大事な使命があるの。だから私からしたらフリークもあなたも敵!協力なんてまっぴらゴメンだわ‼︎」
ピュアハートはルナの誘いを断ると、フリークへ突っ込んでいく。
「一撃で仕留めてあげる!シャイニングシャワー‼︎」
光のシャワーがフリークに降りかかる。今までの敵ならこの一撃で浄化されていた。しかし、フリークは全く効いているそぶりを見せない。
【そんなものか、お前の力は…ガッカリだ‼︎】
フリークはシャイニングシャワーを放った後の隙ができていたピュアハートに手のひらを向けた。
【魔の槍‼︎】
フリークの手のひらから、毒々しい紫の槍型のエネルギー弾が放たれた。
魔の槍は避けようのないピュアハートの胸を貫いた。
「きゃああっっ‼︎」
悲鳴をあげてピュアハートが倒れる。
「「大丈夫か⁉︎」」
2人はピュアハートに駆け寄り、声を掛けたりするがピュアハートは完全に気を失っており、ルナは先ほどの簡単に倒せると思っていた自分がいかにバカな考えをしていたのかを思い知った。
「ピュアハートが一撃でやられるなんてな…しかも必殺技のシャイニングシャワーも全く効いていなかった。」
頼也もルナ同様、あまりの魔物の強さに驚いている様子だった。
「お祓い屋、こうなったら2人で倒すしか…」
「それはそうだが、ルナはなにか秘策はあるのか?」
「あるにはある。」
「本当か⁉︎どんな策だ?」
「このショッピングモールの隣には化学工学があるよね。」
「ん?確かにあるが…」
「お祓い屋はこれからそこの工場の菅をぶっ壊して人体に有毒なガスをここら一帯にばらまいて欲しいんだ。」
ルナが考えた作戦は、今ルナたちがいるショッピングモールの隣に建っている化学工学から人体に有毒なガスをショッピングモール一帯にばらまくことで、フリークを倒すという考えだった。
「でもそんなことしたら皆も…」
「それは大丈夫。風は吹いてるし、そのガスも猛毒というわけじゃ無い。進行も遅いから病院に行けば大丈夫‼︎ あいつは頭も良さそうだし、強い。これしか方法が無いんだ!」
「ちょっと待て。人にも効かないんじゃフリークにも効かないんじゃないか?」
「そこがミソなんだよ。ヤツは人の何倍も早く歳をとる。」
「なるほど、わかったぞ!人間には微量な毒でもフリークは何倍も早く時間が過ぎているから、人間の何倍も早くその毒が進行して行って弱っていくってことだな‼︎」
「正解‼︎」
「よし、そうと決まれば早速工場へ行ってくる。」
「よろしくね。」
「おう、任せろ‼︎」
【ふん、何をしようとしているのか分からんが、お前らがいくらあがいても俺には勝てない。くらえ、魔の槍‼︎】
先ほどピュアハートを倒した攻撃がルナに向かって飛んできた。
しかし、距離があったためルナは難なくそれを避ける。
幸いショッピングモールだけあって障害物は沢山ある。ルナはそれを利用し、フリークの攻撃をかわし続けていた。
【ちょこまかと!】
「当たり前でしょ!誰が好き好んでお前の槍をうけるか‼︎」
避け続けるはいいが、ルナは逆にフリークに攻撃を繰り出すことが出来ないでいた。
「お祓い屋はまだか? 」
通常攻撃ではびくともしないフリークを前に避け続けるしかないルナはお祓い屋がガスを流してくれるのを待つしかなかった。
そこへ頼也が戻ってきた。
「お祓い屋、成功したか?」
「すまん。今日は日曜で完全に施錠されていて、敷地にも入れなかった。」
ここでルナの誤算が出てしまった。なんと今日は日曜日だったのだ!長く異世界にいたルナは今日がクリスマスというのはリリムやマサキとの話で分かったが、曜日までは知らなかった。
【バカ共め!俺の裁きの槍の前に滅べ‼︎】
フリークは両手を真上に掲げる。すると、宙に幾つもの魔の槍が浮かびあがった。
「あいつ何する気だ?」
「わからないけど、たぶんここにいるみんなを殺す気だと思う。お祓い屋、なにか毒系のおふだとかない?」
「あるぞ!」
「えっ、あるの⁉︎そんなあっさりと…」
頼也があっさりとポケットから毒のおふだを取り出したのを見てルナは少々驚いた。
「お祓い屋、俺がフリークを押さえておくからその間にそのおふだを貼ってくれ‼︎」
「わかったが、このふだはかなり強力だぞ。大丈夫か?」
「構わないから!」
「わかった!」
話がまとまると、頼也は毒の札を握りしめそこに待機、ルナはフリークに向かっていく。
【話は終わったか?どんな作戦を考えたとしても無駄だ‼︎】
フリークは掲げていた手を振り下ろす。それと同時に宙に浮かんでいる無数の魔の槍がルナたちに向かって放たれた。
「やばっ!守護呪文なんて使ったことないよ‼︎」
「任せろ!」
「っ‼︎」
絶体絶命だと確信していたルナの目の前にバリアのようなものが張られた。
「これはっ⁉︎」
「守護の札だ!回り込んで奴を押さえてくれ‼︎」
「りょーかい!」
ルナはバリアと魔の槍がぶつかり合っている正面からフリークの背後に回り込んだ。
【くっ!すばしっこい女め‼︎】
「チェーンホールド!」
ルナの高速呪文により、闇の鎖がフリークに絡みつく。
【なんだこれは?】
いきなりの鎖にフリークは驚く。
「今だ!お祓い屋‼︎」
「おう!くらえ、〔毒の札〕」
頼也は札をフリークの足元に投げる。すると、たちまち床は毒の沼のようになり、フリークは溺れていく。…はずだった。
しかし、フリークは鎖を引きちぎりルナに襲いかかってきた。
【小娘、お前からだ!】
「そ、そんな⁉︎」
フリークは手に闇のエネルギーを纏い、ルナに振りかざす。
それを杖で防ぎ、フリークに飛びつき、毒の沼に押し倒した。
【お前、自分もろとも俺を沼に落とす気か⁉︎】
「そうだ‼︎」
フリークが逃げぬよう、ルナはしっかりと抑え込む。
「おいルナ!離れろ‼︎」
「大丈夫。ケホッケホッ…フリークが先にやられるはずだから。」
【離せ!ぐはっぐはっっ‼︎】
フリークはたちまち毒に侵されていき、消滅した。
「やったな、ルナ!」
「うん、なんとか。ケホッケホッ」
「おい、本当に大丈夫か?」
「ほんとに大丈夫だから。それよりもマサキたちは…」
ルナは自分のことよりもマサキの身を案じ、マサキへ駆けつける。
少々時間がかかるのだろうか、まだマサキたちは動き始めていない。
マサキのに来たルナは涙を流した。
「良かった、マサキが無事で。本当に良かった。」
その涙が友達を心配しての涙か、それとも好きな人を心配しての涙か、ルナには分からなかった。
そんなルナの体が七色の光の粒が纏い、突然薄れてきた。
「えっ、なんで?もしかして1日って24時間じゃないの⁉︎」
だんだん薄れていく身体。
「こんなになるんだったら、マサキの言った通りにマサキとのお出かけを楽しめば良かったな…」
マサキともっと同じ時間を過ごしたかった。マサキに触れていたい…
「マサキ!」
ルナはマサキに手を伸ばしたがもうその時は遅く、ルナの手は空を掴んだだけだった………
ルナがこの世界からいなくなくなった直後、マサキや他の人たちが動き始めた。
この世界からルナは消えていた。
「あれ、ルナ?」
マサキには一瞬だけだが、消えて薄れていくルナが見えた気がした。涙を流しながら、マサキの名を呼び、手を伸ばしていた姿を…
良いお年を!




