前編
―――――おい!大丈夫か!?
え、なんでだろう、苦しい、なのに、感覚が何もない
―――――待ってろ!?今すぐ助けてやるからな!
え、私、どうなって……あれ?頭が、ぼぅっとして………
それからのことは、全く覚えていない。
でも、彼の優しい声と、ニオイだけは覚えてる…。
私は彼に、恋をしたのだ。
それから五年。
ずっと思い続けていた想いが、伝えられるチャンスが来た。
こんなチャンス、もう一生ないだろう。
私はすべてをかけ、彼に告白するのだ。
たとえ、どんな結果になっても、悔いは残らないだろう…。
私は、堅い決意をしたのだった……。
―――――――――――――――――――
「さて、大根も買ったし、人参、葱、芋も買ったな、よし」
俺、浅間 圭は、高校二年生。
家族が亡くなり、もう二年経つ。
年金暮らしの祖父祖母と、食べ盛りの妹(中学二年生)を持つ。
妹と俺で家事をやりくりしていて、ときどき祖母が助けてくれる。
そんな生活を送っていた……。
今日は妹に買い物を頼まれたため、買い物をしに、近所で安いと評判のスーパーで買い物に行ってきた帰り道だ。
野菜がどうしても多くなるのは、我が家族が俺を除いてベジタリアンだからだ…。
たまにはがっつりと肉を食べたい気分だが、彼女たちが許してくれるかどうか。
「ん?」
帰りのルートには、公園がある。
小さな公園で、ブランコと鉄棒ぐらいしかない、遊ぶ人がほとんどいないような公園だ。
そこに、一人の女性が、顔をうずめていた。
手と足をぴんと伸ばし、地面につけ、顔だけは地面にすれすれのところで見ている。
いわゆる、四つん這いという姿勢。
あまりにも奇妙なその姿勢だったが、なにやら真剣に、物を探しているようだった……。
なにか困っているなら、助けてあげたくなってしまう。
俺は彼女に声をかけた…。
「あの。すみません」
「ぴゃああああああああああああああああ!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
四つん這いの姿勢から勢いよく飛び上がった彼女は、俺のことを見ると、心臓を抑えながら言う。
「ちょ、ちょっと!びっくり、したじゃないですかぁ…」
「ごめんなさい、何か探してるのかなぁ?と思って…」
彼女の顔を見ると、何ともまぁかわいらしかった。
小動物系というかアイドル系というか、とにかく「かわいい」という形容詞がとことん似合う女の子だった。
「う、うん、一応探してるんだけどね」
「何探してるの?よかったら一緒に探すよ?」
困った人を見たら放っておけない。
ここまで来たからには手伝ってあげたくなってしまう。
俺は買い物の帰りだということをすっかりと忘れていた……。
「………探してるのはね、もう見つかったの…」
「え?」
「…………あなた、ケイくん、だよね?」
「え、なんで…!?」
彼女が俺の名前を言い当てた。
当然俺は彼女に会ったのなんて初めてだし、名前だって知らない。
それなのに、なんで彼女は俺のことを…?
「よかったぁ…。だいぶ変わったから、違うかなぁって思ったけど、よかったぁ」
彼女がものすごい笑顔で俺を見てくれている。
探し物(俺)が見つかったのはよかったが、どうして俺を探しているんだろう。
「な、なんで、俺を探してたんだよ?君と会ったのなんて、今までないだろ!?」
そういうと、なぜか彼女は首を横に振った。
「私、ずっと貴方にもう一度会いたかった……。もう一度会って…『恩返し』したかった」
「恩返し!?」
「うん。貴方に恩返しがしたくて、こうして来たの」
ヤバイ。
さっぱり意味が分からない。
「え、えっと。俺、君に何か恩返しされるようなことした…?」
「うん。私にとっては、貴方は命の恩人なの」
命の恩人!?
「いやいや、俺、人の命を助けるほどすごいことなんてやってないぞ!?」
「………。私はね、五年前に、ケイくんに助けてもらったの」
五年前……今17歳だから、12歳。
「車に轢かれて、死にそうになったときにね、ケイくんが私を助けてくれた…」
車に轢かれて?それって結構な重大事件だぞ?
そんなこと忘れるかよ!?
「……それはないよ。だって俺、人の命まで助けたことなんてな」「人じゃなかったら?」
「え…?」
「私が人じゃなくて………………」
彼女が白く発光しだした。
朝日のように白くてまぶしい光が彼女を包み、輪郭をあやふやにして…
「狐だったら?」
そして彼女は、黄色い毛が生えた、獣になっていた。
――――――――――――――――――
俺は、とあることを思い出していた。
それは五年前、まだいくつか遊具があった公園で妹と遊んでいたときのこと…。
「お兄ちゃん、次ブランコ~」
「おうっ!!」
当時から二人の仲は良く、妹は俺にベッタリだった。
この公園は、周囲の道路もそこそこ車が通るため、ちょっと危険でもあったのだ。
その公園で、嫌な音が響く。
ゴキッ!!!
硬い、何かが潰されたような音。
そしてそのあと聞こえた、犬のような動物の悲鳴…。
「大丈夫か!?」
俺はその音の場所まで駆けつけ、そこにあったものを見た。
そこには、狐が倒れていたのである。
横たわった状態で、右足から血が出ている。
どうやら車に轢かれたらしい。
他の部分は、なんとか大丈夫みたいだが、嘘みたいに右足から血が噴き出していた。
「待ってろ!?今すぐ助けてやるからな!」
そういって、狐を抱き上げると、全力で駆け出し、近くの動物病院に駆け込んだ。
なんとか治療を受けて無事だとわかると、しばらく安静にして、逃がしてもらえると言っていた。
助かったのが分かった俺は、よかったな、よかったな、と、泣きながらこの狐を撫でていたのだった……。
――――――――――――――――――――
「思い出してくれた?」
「お前、あの時の狐なのか?」
「うん。思い出してくれたんだね。私、うれしいっ」
女の子の時と同じ声で、狐が声を出している。
まるで漫画みたいだった。
「あのときね、クルマってやつに轢かれて、死ぬんだって思ってた。でもね、ケイくんが助けてくれたんでしょ!?私、恩返しがしたい!!お願い、恩返しさせてよ!!」
狐の彼女が、恩返ししたいと懇願してくる。
でも……
「別にいいよ。恩返しなんて。今お礼言われただけで、すごくびっくりしてるんだから」
動物が恩を返しに人間の姿に化けて現れる。
それなんて鶴の恩返しだ。
「ううん。私がしたいって思ってるの。だからお願い!他の人間には迷惑かけないようにするから!!」
「そんなこと言われても…」
「狐だからダメなの?人間に化けた状態ならしてもいい?」
人間に化けなおす。
「でも……なんか悪いし………」
「悪くない!!私、ケイくんにずっと恩返ししたかったんだもん!!」
めちゃくちゃ強く懇願される。
このままだと、泣いてしまいそうな勢いで懇願される。
しかも、顔が近い。
「わ、分かった!!分かったよ。そのかわり人間に化けた状態でいてくれ!!家族には何とか言い訳するから!!」
「!!!やったぁ!!!」
彼女は尻尾を振る勢いで喜んでいた……。
ある年齢まで行くと、狐は化ける能力が手に入るっていう設定です。




