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過去からの慟哭


「それでね!本読むたびに口調が変わって面白かったのよ!お姫様の話を読んだら"ですわ"とか語尾に付け出してさー!」


「それは…………でも影響受けやすい所はあるかも。たまに変な事言ったと思ったら本のキャラのセリフだったりするし」


「そうそう、それもあった!でもあの頃はがりっがりに痩せてたし髪も長くてさ、本当に女の子みたいだったんだよねぇ。それもあって悪ガキ達に虐められてたっけなぁ」


 現在クラウディ先生の泊まるホテル付近のレストランで昼食中。

 レストラン"オストリカ"。牡蠣を意味する言葉だ。

 その名の通り牡蠣料理が看板メニュー。

 牡蠣は好みがわかれる食材だが、問題ないとの事で打ち合わせの場はここに決まった。

 それなりにお値段がする所なので、回転率の高い食堂とは違いゆっくりと話が出来る。

 

「この男がいじめられる?全然想像できない」


「雰囲気はちょっと変わったよね。あの頃は自分の事を僕って言ってたし。あ、私にも今のウィルの事教えて欲しいな」


「言葉に詰まるわね…………」


 いつの間にか打ち解けた様子の先生とリン。

 明日の事などそっちのけで俺の話を始め、俺くんずっと蚊帳の外。

 なんで俺の過去バナやんだよ。

 打ち合わせはどうなってんだ打ち合わせは!


「あのぅ…………そろそろ明日の話をだな」


「いいよそんなの!行く場所は決まってるの。元々冒険者さんから話を聞きたくて初日の予定組んでたからさ。ウィルが来るとは思わなかったけどね」


「さいですか……」


 まあならいい。俺としても話したい事が山程ある。

 まずはサインだな。やっぱり貰っておこう。

 内心複雑だが、やはりクラウディ先生は素晴らしい作家だ。色眼鏡をかけて見るべきではない。


「なぁ、後でこの背表紙にサイン欲しいんだけど……」


「サイン?良いよー。“操り人形の連鎖"かぁ。本当に読んでくれてるんだねぇ……」


 再び涙ぐむ先生。感極まったって感じとは違う気がする。下手に突っ込んでも面倒だな。


「"蟷螂の処刑台"も"殺人貴婦人"も"白鍵の無いピアノ"も全部読んだぞ。どれも楽しく読ませて貰った。お気に入りは“操り人形の連鎖"だけどな」


「…………"蔵書の火葬"は?あれは読んでないの?一番売れたと思うんだけど…………」


 何かを確認する様にこちらを覗く先生。

 そういえば"蔵書の火葬"は読んでいない。

 …………なんでだろう。他の書は全部追いかけているのに。

 まあ俺も仮面探しに忙しかったからな。

 タイミングが合わなかったんだろう。


「あれはまだ読んでないな。これから読むつもりではあるが」


「そっか………………でも会えたしね」


 ぼそっと小さく呟いた先生。ばっちり聞こえていますけど。

 会えた?俺に向けたメッセージでも書かれているのか?

 それは嫌だなぁ。やっぱり読まない事にしておくか。


「えと、サインだったね!でも流石にここでインク出せないしなぁ。……そうだ!会計のとこでペン借りてくるから待ってて!」


「後でって言っとるのに」


 俺の言葉も聞かず席を立つ先生。

 こういう所は昔からあった気がする。


「…………何か意外ね。貴方にも子供の頃があったなんて」


「何を当たり前な事を。木の股から生えてきたわけじゃないんだぞ」


「びっくりしたってだけよ。彼女も貴方に会えて嬉しそうだったわ」


 優し気な目でこちらを見てくるリン。

 今の知り合いに昔の話を聞かれるのはむず痒いな……。


「俺だって嬉しいよ。作家先生と過ごす機会なんて殆どないからな」


「…………それ本人には言わないで」


 分かっとるっつうの。依頼人の機嫌を損なう真似はしない。

 あいつが幼馴染と過ごす事を望んでいるなら応えてやるさ。

 俺だって先生からは嫌われたくないしな。


「お待たせ〜。これでいいかな?」


「有難うございます!…………って何コレ?」


 "親愛なるウィルへ。クローディアより"って書いてある…………。

 本人は腰に手を当てて得意気だ。

 …………どっちも名前が違うじゃん?コレじゃ中古に流れた誰それ宛のプレゼントを俺が買ったみたいになるじゃん?

 ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。


「有難うございます…………、ほんと字ぃ綺麗っすね…………大事にします…………」


「涙ぐむ程嬉しいの?なんだか照れくさいなぁ」


 まあいいさ……誰かに見せるわけでもないし。

 先生からの気持ちは本物だし…………泣いてないし…………。

 そうこうしてる間に給仕が料理を持ってきた。

 サインの話は置いておいて、一先ずは彼らに癒してもらう事にしよう。





 


「美味しかったねぇ。帰る前にもう一度寄りたいかも」


「ああ、特に仔羊のローストは最高だった。まさか牡蠣出汁で作ったソースを合わせてくるとはな。この店ならではの発想か。侮れないぜ」


「凄い語るからびっくりしちゃった。それ聞いて他のお客さんもみんな注文してたよ。レストランの評論本でも書いてみたら?」


「…………私はすごく恥ずかしかったわ」

 

 食事も終わり明日の話もまとまった。

 そもそも先生には最初からプランがあった様でそれについて行くってだけだがな。

 現在はホテルに向かい歩いている。

 流石に疲れたのか今日は休みたいそうだ。

 元々その予定だしな。海の移動は慣れていたとしても疲れるものだ。


「同年代の子と泊まるのは久しぶりだなぁ。今日はリンちゃんの事もいっぱい教えてね?」


「私の話なんてつまらないと思うけどね。ディアの話の方が気になるわ」


 もっと仲良くなってるー!!!

 まあ歳も近いし変わり者同士だ。ウマが合うんだろう。

 ホテルは二部屋予約していた。先生と俺たちで分ける予定だったが、先生の希望によりリンが先生と同室になった。

 一応護衛依頼だしその方が都合が良いしな。

 先生と一晩過ごせるのは羨ましいが、クローディアと過ごすのは面倒だ。ジレンマだな。


「じゃあ俺は一旦着替えてくるから。それまで頼むぞ」


「また後でねぇ」


「鍵はきちんと閉めておいてね。私が居ない隙にお酒も開けないように」


 鍵を受け取り別れる。

 依頼主がクローディアと分かったからな。いつもの斥候服に着替え直す事にした。本人もいつもの冒険者が見たいそうだ。

 あっちの方が着慣れているし、いざという時戦いやすい。先生は好奇心が強そうだ。トラブルが起こっても不思議じゃない。

 まあリンがいれば大丈夫だろうけどな。

 とりあえず気疲れしたしゆっくり歩こう。


 



「わぁ、良い部屋だねぇ。海は遠くてよく見えないけど」


「港近くは騒がしいのよ。だから良いホテルはそれなりに離れた位置に建ってるの」


「へぇ。勉強になるなぁ」

 

 ディアと二人で客室に入る。

 普段なら落ち着かない所だが、この子には心の壁を壊す力があるみたい。

 初対面なのに不思議と気持ちにゆとりがある。

 カイリの時とは大違い。あの時はバラバラにされた後だったから当然だが。

 …………思い出すと全身が痛む気がする。

 痛かったなぁ。ほんと。


「リンちゃんの家からは海は見える?」


「私の家はもっとずっと先よ。街の端の方。海なんか見えないわね」


「…………じゃあ暫く帰ってこないわけだ」


 …………ディアの雰囲気が変わった。

 先程までの楽し気な様子は立ち消え、悲痛なものに。

 何かから守る様に身を縮ませ、震わせている。


「リンちゃんに教えて欲しい事があるんだ。…………ウィルの事なんだけど」


「…………私が言える事なら」


 ディアはカイリの事をウィルと呼ぶ。冒険者が偽名を使うのは珍しい話じゃない。

 しかしカイリは否定する。嘘をついている気はしない。そして彼女も。

 それが横で聞いていて妙に気持ち悪かった。

 もっともあの男の半分は嘘で出来ている様な物だからわからないが。


 

「ウィルに…………、ウィルに何があったの!?」


「何って…………どういう?」


 鬼気迫る様子にたじろいでしまう私。

 何が?カイリの過去に何かあったのか?


「ウィルの家族はね!()()()()()()()()()()()()()!!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」


「は?」


「ウィルは冒険者になるような子じゃなかった。私と静かに本を読んでいたのよ。争い事なんて向かないの!何かあったんだわ…………。ねえ知ってるなら教えて!?彼には聞けないのッ!!!」


 誤魔化しは許さない。そんな眼で私を睨みつけてくるディア。

 先程までとは別人だ。

 カイリ……ウィル……クラウディ……クローディア。

 同じ人物なのに名前も様子もふわふわ定まらなくて気持ちが悪い。

 だが彼に何があったのか?

 それは私も知りたいのだ。

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