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トールさん蜘蛛の親玉になる

アラクネ達の王、【ナハト】という名を与えられたシュピネ・ケーニギンは常に傍らに侍る2体のシュピーゲルの甲殻を、しっとりと撫でた。


暗闇に浮かぶその真っ白な指は、柳の葉のようにしなやかに滑る。

黒衣を纏うその肢体。

まるでヒト種の高貴な淑女のようであった。


微かな光源を反射して鈍く輝くシュピーゲルは僅かに身じろぐと、その長い手足を器用に折りたたみ、敬愛する女王に身を寄せた。


右に侍るのがアル。

左に侍るのがエル。


これもあの強き者から名を戴いた。


初めてあの強き者と闘った時に欠けた八本の脚のうちの二本を、少し改良して創り直した眷属だ。

アルは右側の攻撃肢が長く、エルは左側の攻撃肢が長い。

強き者は、名の由来を『ガノタなら納得』と言っていたが、ガノタとは何の事なのか彼女にはいまいち理解できなかった。



不思議なヒト種であった。


見た目や内包する魔素の質だけは、完全にヒト種。

彼女ら魔物が本能的に贄と欲する生き物だ。


だがアレは、より本質的なところでヒト種とは言えない。


何が、と問われても上手く言葉に出来ないが、とにもかくにもアレは違う。

自分たち魔物とも、魔族とも、ましてヒト種でもなんでも無い。

その底の知れぬ不気味さ故、知性と知能が備わったナハトの本能がアレを畏れたのだ。


そして名付けと共に流れ込んできた、主の魔素。

アラクネに元から備わる闇属性の魔素に呑まれる事なく混ざり合った無色の摩素。

いや、むしろ呑まれたのは闇属性の魔素の方か。


主の魔素から微かに詠みとれる様々な情報。

それらの多くは上位種の魔物たるナハトの知能をもってしても測ることが難しいものであった。

だが、時をかけてでもそれらを我が物とできれば、さらなる主への貢献に活かせるであろう。


そのような未来を想えば、ナハトの全く血の気のない真っ白な頬でも、僅かに色をさす。


「 、強き者 トール  我等が、あるじ殿 」


鈴音の余韻のような声が、ほの暗い森の中に吸い込まれていく。

その質は、ともすれば想い人に恋焦がれる乙女の甘い囁きにも、聴こえたかもしれない。







「 むう、知性の有る魔物じゃと ? 」


夜も更けたオルバ婆さんの道具屋。

その小さなカウンターの横の揺り椅子に、深く腰を掛けた婆さんが、訝しげにこちらを睨んできた。

いや、今は擬態を解いていて、すっげえイロっぽいお姉さまなんだけどさ。

前に組んで投げ出したお御足のラインが、モデル級に引き締まってる。

年寄りっぽい言葉とのギャップが、、いや特に萌えはないかな。。。


「この辺りでは見ないが、魔族領には居るな。 なんじゃ、急に 」


キャンデラさんとの飲みの後、西の大門近くのテルビア商会直営鉄板焼屋さんに寄って、一本分けてもらったバッカス酒造のお酒。秀撰の二年物。

トールさんは、美味いお酒に飢えてるんだよ。


まあ一人で飲んでもいいんだけど、ちょっと聞きたい事もあったからな。

大家さんに声をかけてみたんよ。


「 おお、むう、  美味い酒じゃのう 」


あら、お口にあったかな?

さっきキャンデラさんのとこでいただいたのよりは少し雑味があるけど、コレはこれでよい風味。


でさ。  その知性のある魔物ってのは魔族領ではちゃんと共存できてるんかい?


「 魔物と共存? おまえ何をとぼけた事を、、」


ゆっくりと立ち上がったオルバ女史。

慣れた手つきで店の棚から保存食の木の実を持ってきて目の前の皿に開けた。

あ、コレ。 ピスタチオみたいなヤツだ。


「魔物なぞ、討伐するか従えるかしか無いわい」


あ。やっぱり従えるパターンもあるのね。


「 魔族に、そういうスキルを継承する一部族があるからな。  まあレアケースじゃな」


なるほどなー。

トール氏記憶のこの世界に、龍騎兵みたいなものの類が無かったからな。

やっぱり珍しいことなんだな。


「 儂の知る限りじゃが、【名】を刷り込まして魔素の路を繋げる、 じゃったかな  、ってぇ 」


言いながら彼女は目を細めてこちらをジックリと睨んでくる。


「おい、おまえ! ちょっとステータス?とやらを見てみろ! 」


ん? あーこの婆さん、そういうスキル持ってたんだっけ。 何か見えたのかな?

どれどれ。



☆トール・エアリス

☆種族 ヒューマン(男)21才

☆職業 冒険者(ランクB)

☆体力 A+

☆魔力 D

☆耐久 A

☆敏捷 A−

☆知性 A−

☆運勢 B−

☆加護 運命神の導き

☆眷属 アラクネ種«new»

☆所持スキル 【剣使い】【気化】【ステータス確認】【異世界知識】【無限収納】


☆【剣使い】

☆等級 A

☆LV 26

☆剣を扱う時に常時発動

重量操作・体力増加・体捌き(オート)・威圧・瞬脚(疾)・気配察知



妙にステ値が高いと思ったら、そうだ元魔王を帯剣してるから【剣使い】補正かかってるのか。

・・て、  、、なんだこの眷属って!?


この前ギルドで見た時は、こんなのなかったぞ?

またあれか、都合よく表に出ないとか?


「いや、鑑定板は組み込まれた項目だけ表示するからのう、 こんな項目普通は組み込まんじゃろ 」


あー、なるほど。

で、なによこの眷属ってさ。

トールさん、クモの親玉になっちゃった?


( ほんに、こやつ  国盗りでもする気かのう)


「 妙な事を聞いてきよると思ったら、いつの間にか魔物を従えとるとは呆れてものも言えん」


どうやら名前つけてハイおしまい、ではなかったみたいだ。。。


(とはいえ、魔族のスキル【隷魔】とは違うようじゃの   、、なにせこやつは魔素の扱いが、からきしじゃ)


元魔王め。。 よくわからん言葉が出てくるけど、ディスられてるのは分かるぞ。

まあ確かに、『魔素ってどれ?』ってレベルだけどさあ。


魔物を従えるスキルって【隷魔】っていうのね。

え?てかスキルって魔素使うんだ。。


「 使うわいっ おまえが特殊なだけじゃっ!」


えーー? じゃあアビィのパン焼きも?


( そうじゃの。 意識無意識はあるが、スキルの行使には魔素が不可欠よの まあコモン系のスキルなぞ、必要魔素量は極微量じゃが )


あらそうなんや。。  知らんかった、。

だってトールさん、どんだけ【気化】使っても何か減ってる感じとかしないんだもんよ。


(おぬしのスキルの源泉は、 恐らくは『知識』ではないかの?  今の世では廃れて久しい古い錬金術も、似たようなスキルの使い方をしておったえの )


知識。。  まあ確かに物理化学の初歩の初歩程度の知識だけど。

錬金術、ねーー。 それもあんまりピンとはこないけど、魔法だのなんだのよりかは現実的かな。

前に知り合った教会錬金術師さんなんかは、ちゃんとした精錬の知識と技術でポーションを錬成しとる訳だし。


( ほんに、面白い男よの   妾も長年生きとるが、初めて見るものばかりやわいな )


いや、面白がられても困るんよ。

あの事務員神、いろいろと説明端折ってくれてるから、トールさん本人にも自分がよくわかってないんよね。


あかーーん、話が脱線しまくっとるーーー。


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