第20話
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パンデミックが起きてから2年が過ぎ、もうすぐ3年目を迎えようとしていた。
最初は俺、財前、果穂、志保だけだったレジスタンスも、今では200人を超える大所帯となっている。
レジスタンスは主に防衛班、調達班、調査班、解析班と分かれており、俺が所属する調査班では、パンデミックが起きた当日からスカイツリーを巣食う黒い触手のような生物の切れ端の採取が主な任務だった。解析班の連中によると、あの触手に解決の糸口があると推測しているらしい。
しかし、触手に取り込まれるとゾンビになる為、調査班は最も危険と隣り合わせだと言える。
「私は反対だよ」
「なんでなのお姉ちゃん。私だってもう子供じゃない。銃だって使えるようになった。私も調査班に入れてよ」
14歳になった志保は出会った頃と比べると心身共に成長して、今では調達班として立派に活躍している。
そんな志保だが、どうやら調達班から調査班へ異動をご所望らしく、調査班の副隊長であり、彼女の姉である果穂に直談判をしているところだ。
「調査班は志保が思ってるより危険な仕事なの。志保にはまだ早いよ」
「……栗栖は私が調査班に来ても問題ないと思うよね?」
「俺に振るなよ……」
「振るよ。だって、お姉ちゃんより栗栖の方が決定権上でしょ? ね、隊長さん?」
志保の言っていることは正しい。調査班の隊長である俺が首肯すれば果穂の意見なんて捨て置けばいい。
「…………」
果穂、分かってるから睨まないでくれ。俺だって志保に危険な仕事はさせたくない。
そもそも生存意識の高い果穂が危険な調査班の副隊長になっているのはこんな時のために志保を説得できる立場であるためということを前に教えてもらっているんだ。ここで志保の意見に乗るのは果穂に対してあまりに不義理だろう。
「悪いが、俺も反対だ。お前はまだ銃に使われてる。それは油断に繋がる。危ういと分かっている者を調査班には置いておけない」
「…….ふん!」
やはりまだ幼い。
志保は怒りの感情を隠すことなくその場から離れていった。
「すまない果穂。最近志保は調子が良いんだ。ああは言ったが銃の扱いはレジスタンスの中でも上位に入るし、俺が"技術"を教えて形になってきてるから」
「それに対しては感謝してるよ。志保には生き延びて欲しいし、でも──」
「おーい! 隊長、副隊長お揃いでここにいたか。ちょっと解析班の方まで来てくれ」
「……財前、今ここには俺たちしかいないんだから名前で呼べよ、小っ恥ずかしい」
財前は同じ調査班の3番手として活躍してくれているが、俺や果穂よりも年上ということもあって人望は俺たちよりも厚い。そのため他の班を繋ぐ中間管理職的な役割も果たしてくれている。
財前に連れられて解析班の仮設ラボの方へ行くと、40代に見える白髪の男性がドヤ顔で待ち構えていた。あまり接点がないから名前は忘れたが確か解析班の隊長だったはずだ。
「やあやあ、赤場くんに相坂くん。君たちが来るのを待っていたよ。待ちくたびれて、研究の成果によるニヤけ顔も薄るてきてしまうほどにね」
思い出した。こいつはこんな面倒くさい奴だったな。
「要件を言ってくれ」
「おっとすまない。結論から言おう。ゾンビ化の治療薬が完成した」
「え!? 本当に!?」
横にいた果穂が飛びつくように反応する。
無理もない。ゾンビ化の治療薬なんて現況を一転するものだ。パンデミックの収束と言って良い。
「正確には、完成できる予定だ」
「予定?」
その後、説明を聞いたがあまりにも専門的な話だったから詳しくは分からなかった。
なんとなく分かったのは、治療薬は複数の薬を配合させたもので、その薬全てにスカイツリーの触手の細胞が必要らしく、今ある素材では到底足りないらしい。
「つまり、俺たちに触手の細胞……いつもみたいに切れ端を取ってくればいいんだろ?」
「そういうことになるね。しかも、単体の薬は構造が不安定だが、配合した治療薬は安定すると予想している。そうなれば量産の目処も立つはずだよ。文字通り、パンデミックの終わりと言っていい」
「よし! 栗栖! 今からいくよ」
果穂は俺の手を乱暴に掴む。今すぐスカイツリーへ向かうつもりでいるらしい。
「まてまて、もう遅い。暗くなったらゾンビが活発化するのは分かってるだろ。そんなんじゃ志保のこといえないぞ」
「ううー! 分かってるけどー! ううー!」
無理もないがかなり舞い上がっているようにみえる。こんな状況じゃ明日準備が整ったとしても心配だ。果穂は置いていった方がいいかもしれない。
「さて、非戦闘員の私が出来るのはここまでだ。極端な話になるが、明日は世界を揺るがす大きな1日になるだろうね。栗栖くん、相坂くん。世界を頼むぜ」
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その日の夜。俺は夜の見張りの当番だった。明日スカイツリーへ出向くことを知った仲間たちは俺に英気を養うよう当番を変わろうとしてくれたが大変なのは皆同じだ。俺だけ特別扱いはよくない。
「おっす、栗栖。さっきぶり」
「そういえばお前も当番だったか、少しは落ち着いたか?」
「あはは、ご迷惑おかけしました」
バツが悪いような顔をしながら果穂は俺の真向かいに座った。
どうやら時間が経って冷静さを取り戻したようだ。これなら明日の調査も問題ないだろう。
「にしてももうすぐこんな生活ともおさらばだね」
「だな、どうだ? "何だって出来る自分"とやらにはなれたか?」
俺はパンデミック初日の果穂の言葉を借る。その言葉は今でも俺の中に強く残っていた。
「え? 何だっけそれ」
「はあ? お前忘れたのか!?」
俺がどれだけ──
「冗談だよ、出会った頃のやつでしょ。栗栖もよく覚えてたね」
「……たく、お前はほんと変わらないよ」
そういえば結局、果穂は今の今までその底抜けた明るさが変わることはなく、俺はこいつの絶望を見ることはなかったな。
だが、いつの間にかそれが心地良くなっていた。まるで俺の罪を忘れさせてくれるようで。
果穂は知らないだろうな、俺があの言葉に──どれだけ勇気を貰ったか。
「ねえ、栗栖」
「ん?」
果穂はまるで明日の天気を聞くような軽い様子で、こんな問いを俺に投げかけてきた。
「無人島に何か1つだけ持っていくなら何がいい?」
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