教訓、五十六。故郷に錦を飾ることは、恥を覚悟しておく必要がある。 4
仕事の都合で遅くなって申し訳ありません。
さて、シークは家族に出迎えられた。父、母、兄、弟たち、妹たち、姪、甥……。こうして、家族が揃うことの幸せをかみしめる。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「お帰りなさい!」
家の門をくぐっても、ずっと使用人達の祝詞が続いた。
そして、玄関に入ると家族全員で出迎えてくれた。父のビレスまでいる。
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさい。」
こうして見ると、両親や兄弟姉妹、姪、甥など血の繋がった家族だけなのに、圧巻の人数である。
「お帰りなさい。よく戻りました。」
「はい。母上。」
一番最初に進んできた母のケイレに返す。母の両目が潤んでいるようだった。心配をかけたことは百も承知である。
「父上、戻りました。」
「……ふむ。大事ないか?」
妙に小難しい表情で尋ねてきた。この時、ふとシークは天啓を受けたように気がついた。父のこういう時の表情。本当は微妙に照れて緊張しているだけなのでは、と。
「はい。おかげさまで。」
家を出る時は、死も覚悟して「屍になって戻ってくるかもしれない」などと言って出て行ったが、こうして帰ってくることができたのだ。
「……シークさん。」
おずおずと澄んだ声がして、叔母のガルシャがそっと背中を押すように、声の主の女性を前に押し出した。
婚約者のアミラだ。サリカタ王国では婚約後に初夜まで済ませ、子ができてから結婚式をあげる。子ができたら結婚、というある意味分かり安い習慣があった。シークは婚約してからも、何年も子ができなかった。だから、子ができてないつもりで、アミラと婚約を解消して任務に赴いたのだ。
「……アミラ。その、すまない。任務で私は死ぬかもしれないと――」
「分かっています。私は婚約を解消されたことよりも、あなたが死ぬかもしれないことの方に恐ろしさを感じました。もう一度、会えて本当に嬉しい。」
そう言って、胸に抱いている布の膨らみを大事そうに揺すった。
「あなたの息子、ラセグです。家族みんなで話し合って決めました。」
不思議な気分だった。恥ずかしいようなこそばゆいような、落ち着かなくて嬉しい気持ちだ。そっと布の中を覗くと、赤ん坊がすやすやと眠っていた。まだ、首が据わっていない。
「抱いてやって下さい。」
シークはそっとアミラから、赤ん坊を受け取った。とても小さい。温かくて、可愛かった。
「ラセグ……。もしかして――」
「セグから貰ったのですよ。」
母のケイレが横から言った。
「セグも楽しみにしていました。」
アミラの顔を見ると、涙をためて嬉しそうに微笑んだ。
「わたしも、セグさんが喜んでいると思います。」
シークはじっとラセグの顔を見つめた。すやすや眠る赤ん坊の頬の上に、滴が落ちる。息子の顔を涙で濡らして起こしてしまう前に、アミラに返した。
「……アミラ。ありがとう。それから、父上、母上、みんなありがとう。」
セグのこともあり、激務だった後には、このなんでもない静かな一時がとても平和で、大切なものに感じられた。嬉しくて、愛おしくて、胸の中が温かいものに満たされる。
「いいのよ。」
叔母のガルシャがシークの背中に手を回してさすってくれた。そこにすすす、と人影がやってくる。
「ほらほら、みなさん、こんな所で何をしているんですか?今日は大人も子供もなく、みんなでお祝いするんでしょう?早く、武道場の方に行かれないと。ご老人方が待ちくたびれていますよ。」
古参の女中ロナがぱんぱんと手を叩いて、その場のしんみりした空気を切り替えた。
「シーク坊ちゃん、お帰りなさいませ。本当にご立派になられましたね。ほら、主役が行かないと始まりませんよ。」
「あのう、ちょっとは横になる時間はないのですか?」
思わず、昔からのロナの口調に緊張が取れてシークは尋ねた。
「あら?」
複数の女性の声が重なった。
「ここの所、軍で二日…か三日ほど徹夜だったので。仮眠は取っていますが、挨拶の最中に眠りそうです。」
ケイレとガルシャが同時に吹き出した。ロナも声を上げて一緒に笑う。
「そんな笑わずとも……。」
反論しながらシークは欠伸をかみ殺した。
「一寝しなさい。」
ビレスの声にシークは驚いて、父を見つめた。苦手意識が強い父だが、今は以前ほどではなくなったように思う。
「長老方は私とアレスの方でなんとかしておこう。」
「父上、兄上、よろしくお願いします。」
本当に睡魔が襲ってきていて、頭がふわふわしていた。そういえば、ずっと頭がふわふわしているのは、普段慣れない歓待ぶりに興奮しているのではなく、ただ単に寝不足のせいかもしれない。
「時間が来たら起こしに来てやる。親衛隊の制服をみんな見たいから、着替えるんじゃないぞ?」
長兄のアレスに注意を受ける。
「はい、分かりました。」
そう言いながら、頭が傾いだ。
「アミラさん、シークが忘れないように注意しておいて下さい。」
心配になったアレスがアミラにも頼んでいる。
「私は先に行かせて貰います。」
本当に限界になっていたので、シークは自分の部屋に向かって歩き出した。緊張の糸が切れて、一気に疲れが出ているのかもしれない。
「あ、シーク兄さん、部屋割り変わったんだよ!」
ギークが慌てて声をかけてきて、シークは振り返ろうとした途端、猛烈な眠気と共に目が回って床に倒れた。
「あ!」
大勢の声が同時に重なる。助けようとしたギークと共に派手に倒れた。
「いってー! 起きろ! ここで寝るな!」
「おーい!」
ナークとイーグも助け起こそうとするが、シークは目覚めなかった。
「親衛隊って、激務なんだねー。」
「ねー。」
一歳違いの叔母と姪の間柄であるカレンとテラが、仲良し姉妹のように頷き合う。
ヴァドサ家で史上初、酒も飲んでないのに玄関で倒れて眠った男になったのだった。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
とうとう残す所、エピローグだけになりました。話が長すぎるため、一度、終わらせて頂きます。もちろん、続きは書くつもりです。




