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教訓、五十六。故郷に錦を飾ることは、恥を覚悟しておく必要がある。 1

 申し訳ありません。更新したつもりで忘れていました。


 シークはとうとう首府サプリュに帰ってきた。当然、若様やフォーリも一緒である。やるべきことを考えていると、若様のお呼びがかかり……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 サプリュの街並みが見えた。大きく計画的に作られた街は広々としている。だが、後から街の設計に変更が度々(たびたび)加えられたため、当初の計画とは随分(ずいぶん)ずれて、分かりにくい街並みになっている部分が多々あった。

 初めてやってきた人は、必ずと言っていいほど道に迷うだろう。街に住んでいる人達も、きっと隅々まで知っている人はいないはずだ。

 シークにとっては故郷の街である。大河サリカタ河から引いた水を利用した大規模な運河があって、街のいたる所に水路がある。陸運だけでは街の人口と発展を支えきれない、と判断した歴代の王達が苦心して作り上げた運河網である。

 水路のほとりには街路樹として、柳が植えられている。ただ、涼しげに映るだけでなく、柳の根が張り巡らされることによって、水路の畦や運河の岸壁を守る役割があった。

 陸の真ん中にあるにも関わらず、サプリュは水の街でもあった。上水道と下水道をきっちり整備してある。そのために、新たな首府となる街を作ったのだと言っても過言ではない。

 サプリュに遷都(せんと)する前まで、ティールが首府であったが、上水道と下水道の整備が完全ではなかった。そのため、疫病がかなり流行し、清潔な街を整備することが求められたのである。

 圧巻ではある街の、やや中心から外れた所に、目的地である王宮があった。王宮の名前は“サプリュ”であり、街の名前と同じだった。いつしか、人々は王宮の名前を言わずに、王宮とだけ呼ぶようになる。勘違いしやすいが、王宮の建物の名前がサプリュではなく、王宮全体の名前がサプリュだった。

 そんなことを考えて現実逃避を図ろうとしていたが、無理に決まっていた。

(色々と考えてもだめだ。どうにもならないんだし、気合いを入れて行くしかない……!)

 シークは気合いを入れ直した。首府に帰ってきたということは、一度、親衛隊の護衛をサプリュ組と交代した後、怒濤(どとう)の勢いで自分の結婚式の準備を進め、そして、若様の正式なセルゲス公の就任式を行い、その後、シークの結婚式が行われる運びとなっている。ちなみに、イージャの隊がそのままサプリュにいる際の交代組の護衛となった。

 イージャの亡き後、副隊長のジーラ・イグムが隊長に繰り上がることになっている。現実にそれでまとまっていた。イージャの部隊のシークに対する態度は、以前とは違うものになっていた。

 彼の家族が人質に取られていた件で好感度が上がっていたし、その後、多くの者がイージャが殺された後にシークが敵を斬った所を見ている。そもそも最初からシークの方が狙われていて対戦していたのだが、なぜかイージャの(かたき)を取ったことになっていて、ジーラを初めとする彼の部下達からお礼を言われた。

 シークは必死に訂正しようとしたが、謙遜しているだけと思われてしまい、それを訂正しようとしたら、モナやロモルに口を閉じるように指示された。ベイルはモナとロモルによくやったと頷いていた。

 それを見ていたら、なんか、もう、隊長である自分がいる必要性を感じなくなった。ベイルの言うことを聞いているんだし、もう、隊長をやめてもいいのではないだろうかと思って打診してみた所、即座に三人に(にら)みつけられた。

 それはさておき、サプリュに戻ってやること事態は三つしかないが、その三つが面倒な儀式であることこの上ない。一番、簡単だったはずの親衛隊の交代も、簡単にはいかなかくなってしまった。それもこれも、シークが暗殺されそうになったし、交代組のイージャが殺されてしまったからだった。

 そういえば、後でイージャの母にも挨拶に行かなくてはならないな、と考えたので、やることが四つに増えた。

 だが、シークはいや、待てよ、と考え直す。本当に四つか? 違うのでは?なぜなら、死んでいたと思っていたバムスが生きているので、挨拶がてら、シークの結婚式の準備を手伝ってくれたお礼を述べなくてはならない。

(! 待てよ? 待て、待て。)

 シークは、はっとした。家に入ること事態が大変ではないのか? きっと、一族郎党で待っているはず。シークが勝手に婚約を破棄した一件についても、きっと、何か言われるに決まっている。

(家に帰りたくない……。)

 かつて、教官時代にそんなことを言っていた新米兵士がいたが、今はその気持ちが痛いほど理解できた。家に帰るのに、岩でも担いでいるのかというほどの重圧を感じる。

 若様のことと、若様が出席する自分の結婚式のことだけ考えていたが、そうもいかないのだと気がついた。すっかり忘れていたのだった。しかも、結婚式前に叔母チャルナと和解しておかなければ、従兄弟達が罪に問われてしまう。

 やることが多すぎて、シークは撃沈(げきちん)しそうだった。どこまでも沈んでいけそうだ。

 頭を抱えながら、護衛をしているとフォーリがやってきた。

「若様がお呼びだ。」

 初めて会った時と同じような鉄面皮でフォーリが告げた。分かった、と頷くとすぐに馬を引いて進み、近くの別部隊の国王軍の兵士に手綱を預けて、若様の乗っている馬車の前で敬礼した。

「ヴァドサです。セルゲス公殿下、お呼びでしょうか?」

 すると、恭しくフォーリが馬車の窓を開いた。今は街に入るまでの間、門前の広場で待機している状態なので、若様が馬車を降りるのはふさわしくない。

 若様が顔を(のぞ)かせたのが気配で分かる。

「……ヴァドサ。」

「はい。」

「護衛の任、大義である。長い間、貴殿のおかげで私の身の安全が守られた。何度も危険から守ってくれて感謝する。貴殿らのおかげで私は楽しく過ごすことができた。本当に感謝している。今はもう少しで交代してしまうが、また会える日を楽しみにしている。

 それまでは、みんな、ゆっくり休むと良い。それと、結婚おめでとう。後で伝える暇がないだろうから、今、伝えておく。私も必ず式には出席したいと願っている。」

 もう、サプリュに入る寸前なので、若様は完全に“セルゲス公”になっている。本当はやれば出来る子なのだ。それも、かなり優秀である。よく知っているシークでさえも、どっちが本当なんだと瞬間的に思ってしまうほどだ。

「セルゲス公殿下。そのように仰って頂き、まことに嬉しく存じます。ですが、我々は任務を全うしたに過ぎません。それでも私を始め、部下達まで気遣って下さったことに感謝致します。

 また、殿下が式においで下さることをお待ち申し上げております。」

 どこで誰が見ているか分からないため、絶対に間違えられなかった。

「分かった。まずは私の就任式からだが。ヴァドサも任命式だ。」

 その後で、こそっと小さな声で若様は続けた。

「転ばないように気をつけよう。」

 以前、ベリー医師に二人揃ってずっこけたら、末代までの恥の笑いものになるとか言われた上に、二人なら本当に転びそうで不安だとまで言われているので、彼を見返すためにも絶対に転ぶことはできない。

 思わず視線を上げると、若様と目が合った。その口元が悪戯(いたずら)っぽく笑っているので、シークも口角を上げた。会った頃はこんなこともできなかった。

「そうですね、殿下。」

 小声で返せば、ふふっ、と若様が声を漏らした。こっそり小さく手を振ってから、窓を閉める。今のはフォーリの手を借りず、自分で閉めたようだった。

(…本当に成長なさいました、若様。)

 心の中で、こっそりシークは涙を拭いた。そう、泣けてきそうだったのだ。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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